木村花さん急逝で考える、ネットで中傷された時「真っ先にすべき事」とは

女子SPA! / 2020年5月31日 15時45分

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木村花さん公式インスタグラムより

 プロレスラー木村花さん(享年22)が亡くなった事件を受けて、いま大きな問題となっているSNS上での誹謗中傷やデマ。

 前編の「投稿者を特定するための手続きが大変!」のパートで解説した、なかなかに大変な情報開示請求の権利を定めたのが「プロバイダ責任制限法」という法律です。木村花さんの事件を受けて、この法律についての改正論議がにわかに起こっています。

 本来であれば、リテラシーとかマナーといったもので、ネット上の悪意がなくなるのが理想なのでしょう。しかし、もはやそうもいっていられないのかもしれません。

誹謗中傷されたら、真っ先にすることは「スクリーンショットを撮って、1日も早く動くこと」。くわしくは後半で解説しますが、まずはいま議論されている「法改正」について聞きました。

◆法改正の難しさ。かんたんに開示請求できてもこわい

 法改正について小沢弁護士は、「個人的には、『権利侵害の明白性』という開示請求の要件自体はこのままでいいと思う」といいます。

「この要件を低くしてしまうと、今度は権利侵害といえるのか疑問なレベルの些細なことで開示請求をするケースが増え、開示請求の濫用を招くと思うからです。また、開示請求をめぐっては、書き込みをされた側の〈名誉権〉や〈プライバシー権〉などの利益と、書き込みをした側の〈表現の自由〉や〈プライバシー権〉〈通信の秘密〉などの利益が対立します。どちらも憲法上認められる権利なので、片方だけ有利に扱うことはできません」

 たしかに、小さなことでもかんたんに開示請求ができてしまうと、それはそれでこわいかも。

「些細ないい争いの延長で、片方の発言が多少過激になるようなことはよくあることです。そのような場合に言葉尻をとらえ、いわれた側が被害者としての立場を強調し、周囲の同情を誘いつつ開示請求をして、いった側の個人情報をインターネット上で公開し、同情した人たちと一緒になって袋だたきにする、ということも起こると思います。

 先に手を出したのは相手だ、相手は悪だ、悪は懲らしめなければならないといった歪んだ正義感から歯止めがきかなくなり、いった側の権利を大きく侵害する結果になることもありうると思います」

 小沢弁護士自身、現に、そういう行動に出ようとする人を何度か見たことがあるそうで、「そうした事態を招く可能性のある改正はすべきではない」といいます。

◆手続の時間を短縮と、確実な開示のために

「現状おかしいと思うのは、①ログ保存期間が短すぎて、手続に要する期間の点で開示にいたらないことがあること、②ログインをしたときにログを保存するSNS等では、法律要件の関係で裁判所によっては開示を認めない判決を出すことがあること、③複数回裁判をしなければならない関係で、依頼者の時間と費用の負担が大きいことです。いずれも制度上の問題であり、これらの点は改善できるのではないかと思っています」

 小沢弁護士が提案するのは、「手続に要する時間を短縮しつつ、きちんと手続をすれば確実に開示が受けられる制度づくり」。具体的に以下の5点をあげてくれました。

①IPアドレスと投稿日時については、これですぐに個人が特定できるわけではないので、原則開示する

②現在は発信者情報に含まれていない電話番号を発信者情報に含める

③ログを年単位で保存することを義務づける

④ログは投稿時に保存することを義務づける

⑤運営会社の海外法人が日本法人を設立している場合は、日本法人に申立書や訴状を送れば手続を進めることができるようにする

「これまでお話ししたように、開示請求にはいくつものステップがあって、しかも、やってみないとわからないということも多い。ひとつの段階をクリアして、よし、特定に近づいたと思ったら、次のステップで『該当する情報がありません』となることもあります。

 正直、法的な問題であればまだ争いようがありますが、開示すべき情報がないといわれてしまうとどうにもなりません。警察が動いたとしても無理です。完全にお手上げになってしまうのが現状なんです」

◆必ず特定され裁かれるなら、悪質書き込みの抑止力にもなる

 総務省では今年4月「発信者情報開示の在り方に関する研究会」が開かれていて、その参考資料には、この分野での第一人者・清水陽平弁護士の資料が添付されるなど、現場の弁護士さんの声が反映されているようで、期待はできそうでしょうか?

「清水先生は非常に経験豊富ですので、私が考えていること以上のことを考えていると思います。ただ、資料の中には『ログ保存期間』の話が入っていなかったので、そこは研究会でも取り上げてほしいと思っています。開示請求は時間との勝負になってしまっていますから、ぜひ改善してもらいたい。

 亡くなられた木村さんのことを利用するつもりは毛頭ありませんが、事実として改正に向けた機運が高まったのはまちがいありません。ネット中傷の被害者が増えていることも間違いないと思いますので、これら被害者を救済すべく、開示請求をすれば必ず投稿者を特定できるような制度づくりをしっかりとしてもらいたいと思っています」

 必ず特定され、必ず裁かれるということがみんなに広がれば、誹謗中傷の抑止力にもなりますしね。

「このタイミングで抜本的な見直しをしてもらわないと、次の(法改正の)機会がいつになるかわかりません。改正に不備があると、その間にまた制度の狭間で救済されない人が出てしまいます」

◆ネットでの誹謗中傷は、パソコンでスクリーンショットを

 では、もし自分がSNS上で誹謗中傷のターゲットとなってしまったら……どうしたらいいのでしょうか。

「まずは、該当する投稿をURL付きでスクリーンショットやプリントアウトしてください。スクリーンショットはスマホからだとURLがでませんので、出るように工夫するか、パソコンで行ってください。あと、SNSの場合、投稿してある程度時間が経過するまでは『○分前』『○時間前』『○日前』といった表示がされることがあるので、きちんと『○年○月○日○時○分』と表示される方法で行ってください」

 心ない言葉を投げかけられ、冷静に考えられなかったとしても、がんばって、スクショだけはしておきましょう。

 そして、「できるだけ、すぐに動くこと」と小沢弁護士はいいます。

◆ツイッターなどは「書かれたらすぐに動く!」という感覚で

 書き込みを見つけたら、自分で違反報告したり、ネットに詳しそうな知り合いに相談したりして、それでも改善しない場合に弁護士に相談しようと決断するのが一般的かもしれません。

 でも、弁護士さんは敷居が高いと相談に行くにも何日も悩んでいたり、逆に、何軒も法律事務所をめぐって弁護士を選んでいると(これ自体は悪いことではないけれど)、そうしている間に、書き込みがされてから1週間、2週間と時間が過ぎてしまいます。

「弁護士に相談したらすぐに申し立てができるわけではありません。相談のうえ、弁護士と契約して着手金を支払う必要があります。また、依頼したあとに、あれこれと証拠の提出を求められることが普通です。通常、証拠は事件の当事者である依頼者が持っていますので、依頼者が証拠を探して弁護士に提出しなければなりません。これも気を抜いていると、1、2週間はあっという間に過ぎてしまうんです」

 しかも、まだまだすべきことがあるそうで、証拠が集まったら、今度は弁護士さんが申立書の案文を作成し、依頼者が確認してOKが出たら裁判所に提出する用に各書類を準備して、裁判所に出向き、窓口で提出して……ようやく手続きの軌道にのるのだそう。

「このようなことも踏まえると、ツイッターなどは、書かれたらすぐに動く! くらいの感覚でいないと失敗の可能性が高まります」

 そうです。SNS上の裁判は「時間との勝負」なのです!

◆“正義感”が権利を侵害することもある

 ちょっと難しかったかもしれませんが、被害者になってしまったときの対応は、よくわかったのではないでしょうか。加えて、SNSを利用する人がこころしておくべきことは、自分が加害者にならない、誹謗中傷や悪意ある書き込みはしないということです。

「そんなことしない!」と思うかもしれませんが、小沢弁護士が担当した常磐道のあおり事件でデマを拡散したのは、悪いヤツらを懲らしめなくてはという“正義感”から「リツイート」をした人たちでした。

「『これくらい』『みんなやっているから』『自分にまでは責任が来ないだろう』という気持ちが生じるのでしょう。しかし、みんなやってるからといって、責任が希釈されるわけではありません。はたから見たら『これくらい』というものでも、書かれた方は苦しんでギリギリの状態で相談にきます。

 書き込む側は自分一人くらいと思うかもしれませんが、被害者はそのひとりひとりからの攻撃をまとめて背負うことになります。また、匿名の人から攻撃されると、周りの人が信じられなくなり、外出中もどこかで見られているのではないかと感じてしまうため、常に精神的な負担を負い続けることになります。これが続くとどういう結果を招くのか、一人ひとりが想像力を働かせてほしいと思います」

【弁護士 小沢一仁】

インテグラル法律事務所所属。離婚事件、破産など個人に関する事件から著作権法・商標法等知的財産権をはじめ、様々な分野の法人に関する事件、暴力団対策に関する事件など幅広い案件を担当。インターネットにおける誹謗中傷に関する事件は、SNSが広まる前のインターネット掲示板が主流だったころから精力的に取り組んでいる。

<取材・文/鈴木靖子>

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