「20代で隠居」した男性に直撃。“月収5万”でも快適生活の謎に迫る|辛酸なめ子

女子SPA! / 2020年6月1日 15時46分

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【いまどきの男を知る会 ファイルNo.23 隠居男子の今】

 数日前まで外出自粛や人との接触8割減、経済活動の低迷などで一億総隠居状態とも言える状態になっていましたが、そんな時代を先取りしていたともいうべき存在が。「90万円で隠居」を出版し、隠居界の陰フルエンサーとして話題を集めた大原扁理氏です。

 このたび「20代で隠居」の文庫版を筑摩書房から出版されるそうで、もはや隠居の範疇におさまりきらない活躍ぶりです。20代で世俗から遠ざかって隠居生活に入り、もう10年くらい隠居を続けている隠居のプロ。「20代で隠居」には、月の生活費が7万円と書かれています。収入や仕事が少なくなっても時間の余裕があれば幸せに生きられるのか、大原扁理さんにお話を伺いたいです。

◆社会とのつながりを少なくするのが好き

「地元が嫌いなので辛くて……」と、LINE通話ごしに浮かない表情の扁理さん。ちょっと前から台湾で隠居生活をしているのですが、コロナで入国できなくなり、今はいったんご実家に戻っているそうです。

「でも、基本的な生活は変わってないです。社会とのつながりを少なくするのが好きなので、台湾でも必要最低限の仕事のみでほとんど外に出ませんでした。実家の近くには知り合いもいないですし、自然に隠居になっちゃう。でも隠居は完全なひきこもり状態ではなく、外に出たい時はドアを開けて出られるようにしています」

 と、台湾でもご実家でも生活スタイルは変わらないようです。

「ふだんからやってるわって思ってますね。ただ、自粛になると自分が今まで何に依存していたかくっきりくる。僕の場合図書館に生活の楽しみを依存してたって思いますね。週に2.3回は行ってました」

 隠居のイメージ裏切らない清貧なコメント。図書館は、情報を求める現代の隠居にとって重要なスポットです。他にどんなことにお金を使うのか聞いてみると……。

◆台湾隠居でTバックに目覚めた

「基本的に最低限のものしか買わないです。衣食住の衣に関しては、春から秋までユニクロの白いシャツを着ています。台湾で隠居をしていると、冬服があまり必要ないんです。冬もTシャツで外出できる日がある。一応一着コートがあれば、あとはTシャツで事足ります」

「ただ台湾は暑いので日本の夏服だと追いつかない。タンクトップにアスリートみたいな短パンという、布の面積が少ない格好をしてます。現地のおじさんやおばさんもそんな感じです」

 隠居というと藍染めの作務衣を着てそうなイメージでしたが、暑い土地ではカジュアルな軽装になるようです。さらに扁理さんは台湾である下着に目覚めたそうです。

「台湾では夏はTバックはいてるんです。ネットで注文しているのですが、お尻をカバーしないから快適で蒸れないです。涼しいし、布面積が小さいので洗ってもすぐ乾くし。英語でソングというらしいです。男性のTバックはSMの人のイメージがありますが、すごい機能的ですよ」

◆月5万円稼げば生活できる

 挑発的で目のやり場に困るデザインですが、それを機能面だけ着目して使うという煩悩滅却ぶりがさすがです。ぽっちゃり体型の人がはいたら紐が埋まりそうですが……。ストイックな隠居の扁理さんはかなり痩せています。

「隠居してると消費するエネルギーがあまりないんです。食べる量も年々減っていっています。台湾では朝はバナナと豆乳スムージー、お昼は有機野菜とフルーツと有機豆腐のサラダ、夜はサンドイッチとかですね。ほぼローフードです。将来的には自然に光だけで生きられる『不食』になってもいいなって思います」

 日本より少し物価が安い台湾での生活費は、月5万円くらいでおさまるとか。その分を稼げば、あとは働かないでゆったりできるそうで、隠居ライフは優雅です。

◆何をしてお金を稼いでるの?

「年60万円くらい稼げばいいので、日本からの旅行雑誌の仕事を時々受けています」

 その位に抑えると税金も安そうです。仕事に追われて高い税金や保険を払っている人からはずるいという声も聞こえてきそうですが……。「日本人は働きすぎの人が多いと思いますよ」と、扁理さん。収入が少ないことへの不安感もないそうです。

 今度、日本の出版社から、台湾での隠居生活の本も出すとのことで、年60万円は軽く超えそうですが、今度の10万円の給付金の使い道はどうする予定なのでしょうか。

「うちはまだ申込書が届いてないんですけど、やっぱりあんまり欲しいものがないので、とりあえず貯金して必要最低限の衣食住どれかに使おうと思います」

 Tバックのワードローブも増えそうですね。とくに不自由なく隠居ライフを送っている扁理さんですが、最近懸念していることがあるとか。

◆隠居が定着しないでほしい…

「ちょっと離れた所から、人間を見ているのが好きなので、外出自粛は解除されましたが隠居がメインストリームになって欲しくないというのが本音です。これが主流になると観察対象がなくなって困るなっていうのがありますね」

 隠居は傍観者であるべき、というのが扁理さんのスタンスのようです。皆が隠居になったらGDPや経済がまずいことになるので、収束後はまたそれぞれ仕事に励むライフスタイルに戻っていった方が良さそうです。一度隠居生活の幸せを知ってしまったらなかなか戻れないかもしれませんが……。

「ふだんから隠居生活してるとそんなに社会の影響受けないっていうか、逆にこういう外出自粛の事態になった時に、外界のいろいろなものごとに依存させて自粛できないようにさせておくことが経済社会の狙いだったんだなってわかりますね」

 たしかにコロナ以前は様々なメディアで欲望を煽られ、そのために必死で働いて……というループにハマっていたかもしれません。そうやって俯瞰して見られるのが隠居の強みです。

「欲望に終わりが見えないのが辛い。際限ないですよね」と、扁理さんは達観しています。

 意識高い系を超越した、霊格高い系の隠居男子。外界に刺激を求める代わりに、思索にふける時間の余裕があるのでしょう。こうやって隠居ならではの格言や叡智をシェアしてくれて世の中に還元しているので、納税額が少なくても許されるような……。町内にひとりはいてほしい存在です。隠居の放つ穏やかなヴァイブスで、世の中が平和になることを期待します。

<文&イラスト/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子】

東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。

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