出てくる男3人は全員クズ…しまおまほ初の長編小説に悲鳴をあげた

女子SPA! / 2020年6月2日 15時45分

写真

しまおまほ「スーベニア」文藝春秋

 イラストレーター、エッセイスト、ラジオパーソナリティとして活躍するしまおまほの初となる長編小説『スーベニア』。

 フリーカメラマン・安藤シオと、彼女を取り巻く3人の男たちの恋愛物語だ。しかし、胸がキュンとするような甘酸っぱいラブストーリーを期待してはいけない。

 ここで描かれているのは、34歳独身女性・シオのあまりにもリアルでシビアな「人生の選択」の物語なのだ。

◆主人公は3人の男の間で漂うように戸惑い続ける

 第一章の舞台は、2010年の東京。シオは、41歳の映像カメラマン・文雄に夢中だ。

 しかし、出会って3年経つのに、シオは未だに文雄が何処で誰と住んでいるのか知らない。連絡は気まぐれにしかもらえず、やっと会いに来てくれたとしても、平気で2時間遅刻する。周囲の人に「彼女」として紹介してもらうこともない。

 文雄との中途半端な関係に思い悩む中、美大時代の友人・点ちゃんと再会し、飲んだ帰りに、キスをされる。点ちゃんは生まれたばかりの子どもがいる既婚者だが、シオを口説いて一夜を共にする。

 そして、第二章の舞台は2011年3月。 東日本大震災が発生し、不安な日々を送るシオの身を案じて最初にメールをくれたのは、昔付き合っていた角田だった。

 角田は、「涙でアピールする女、大っ嫌いなんだよ」と一方的にキレて、シオに別れを告げた男だ。シオは、3人の間で漂うように戸惑い続ける。

◆3人の男は、揃いも揃って全員クズだ

『スーベニア』に出てくる3人の男は、揃いも揃って全員クズだ。

 頭が悪く不誠実な文雄。軽薄で利己的な点ちゃん。デリカシーのないモラハラ野郎の角田。

 どこかで会ったことあるような、友達から聞いた話の中に出てきたような、絶妙に身近にいる男たち。

 しまおまほは、シオと男たちのリズミカルな会話の中に、違和感と嫌悪感をじわじわ紛れ込ませる。派手で決定的な事件をあえて描かないまま、日常の細やかな言動で彼らのパーソナリティをあぶり出す手腕は見事だ。

 また、目の前にある物を羅列して挙げることで、シオの視線と読者の息継ぎが重なり、文章に一定のテンポと臨場感が生まれる。その場の情景がするすると目に浮かび、物語がグッと近くに引き寄せられる。

◆角田のモラハラ発言の数々は、ホラーと言ってもいい

「ズルズルダラダラ」し続けるシオが、第三章でやっと文雄との別れを決断する。

 しかし、失恋を乗り越え、過去の恋愛とも決別し、優柔不断で人に流されてばかりだった自分にサヨナラ…とはいかないのが、この小説の怖いところである(ちなみに、筆者は第三章のラスト一行で悲鳴を上げてしまった)。

 一番の盛り上がりを見せる第四章は、もはや地獄である。

 畳み掛けるような角田のモラハラ発言の数々は、ホラーと言ってもいいだろう。角田とシオの両親とのやりとりは、逆に笑ってしまうほどだ。

◆登場人物全員の悪口を言いたくなったら、著者の術中にハマった

 主人公・シオは、自分で自分の選択をしない。考えることを放棄し、決定を先延ばしにしたまま、他人の意見に合わせてしまう。

『スーベニア』の帯にある「あなたがくれたもの。欲しくてもくれなかったもの。」というコピーは、「欲しい」と伝えずに相手のアクションを待つだけのシオを、端的に表しているように思う。自分の人生を他人に委ねていると、欲しいものは手に入らないのだと、シオは反面教師として体を張って読者に伝えている。

 読み終わった後、主要な登場人物全員の悪口を言いたくなったら、しまおまほの術中にまんまとハマったといえるだろう。

◆どうしようもなくリアルで意地悪な恋愛小説だ

 最終章は、突然暗転してエンドロールに入るように、静かなラストを迎える。シオの物語が、読者の日常と地続きであることを示唆するかのような演出だ。

 シオは、きっとこれからも何も変わらない。それでも、人生は続いていく。『スーベニア』は、どうしようもなくリアルで意地悪な恋愛小説だ。是非悶絶しながら読んでいただきたい。

「もしこの3人の男のうちの1人と付き合うとしたら、誰にするか」をテーマに、女友達と飲みながら議論するのも、楽しいだろう。

 ちなみに、しまおまほの著作はどれも素敵な装丁のものが多いが、『スーベニア』もまた非常にスタイリッシュだ。装画を担当したのは、漫画家・友沢ミミヨと小鳥こたおの親子アートユニット「とろろ園」。表紙の赤ちゃんの肌の色に近い、淡いピンクで統一された装丁が可愛いらしい。

 本棚に面置きで飾りたい一冊だ。

<文/藍川じゅん>

【藍川じゅん】

フリーライター。ハンドルネームは永田王。アダルトサイトにてコラム「鬼性欲ブスのOCCC道場」を連載中。著作は『大好きだって言ってんじゃん』(メディアファクトリー)、電子書籍『女の性欲解消日記』(KADOKAWA)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング