がんの夫が旅立った日、妻が最後に“思わずかけた言葉”とは
女子SPA! / 2020年11月23日 8時47分

写真はイメージです(以下同)
筆跡アナリストで心理カウンセラーの関由佳です。2週間自宅で看護していたがんの夫でしたが、ついに旅立つ日がやってきました。
その日の前日、夫は大量の血痰を吐き、吸引していた私はみるみる瓶にたまっていく真っ赤な液体を目にしながら「これはただ事ではないのでは……」と不安を感じていました。日曜日だったので、看護師や医師は来ない日。このまま具合が悪くなったらどうしよう、と思いながら日中が過ぎていきました。
◆亡くなる前日にした約束
夜になり、ぼんやりしている夫の手を見ると、甲にくっきりと骨の影が。「こんなに痩せていたんだ……」と改めて思い、急に胸が苦しくなりました。
私は夫の手を握り、「あと2週間で私の誕生日だけど、それまで生きていてくれる?」と聞くと、夫はそれまでぼんやりしていましたが、ハッと正気を取り戻したような表情になり「うん」とうなずきました。それから私の手をグッと強く握り、指きりをするときのように手を2回振ったのです。
全く確証のない約束だと思いながらも、それでも信じたい気持ちでいっぱいでした。なんとか少しでも生きてほしいという私の希望を、夫は手の力で「わかった」と言ってくれたように感じました。
◆「限界だ…」せん妄による異常行動で眠れない夜
しかし深夜になり、私がベッドに入ってしばらくすると、なにやら夫の寝ているリビングからガサガサと音が聞こえてきました。
少しうとうとしていたのですが、ハッと目が覚めて夫の元に行ってみると、胸に刺していた痛み止めの針を抜いてしまっていたのです。
「またせん妄(※)か……!」と私は困惑の上に怒りすら覚え、「何してるの!」と怒りながら、深夜3時頃でしたが訪問看護の連絡先に電話を入れることに。すると「朝になったらすぐ医師に行ってもらうから、それまでは粉の痛み止めで対応していてください」とのこと。しかし、夫はもう口から薬を飲むことが難しかったので、どうしたものかと途方に暮れてしまいました。
しかし「痛い」と訴えるので、仕方なく粉の痛み止めをゼリーに混ぜて食べさせることに。ですが、飲み込んだものはすべて痰として吐き出してしまい、薬を飲ませる→痰として出る→痛みが収まらない→薬を飲ませる→痰として出る……を繰り返してしまいます。
結局これを朝まで繰り返し、ほぼ寝ない状態でその日を迎えました。こんなに大変な夜は今までになく、この朝に初めて、私は「この生活、限界だ……」と絶望を覚えたのです。
(※)せん妄とは、突然発症する意識障害の一つです。意識が混濁し、興奮状態になったり、幻覚が見えたりするなどさまざまな症状が出る病態です。
◆私の腕の中で……ついに訪れた臨終の瞬間
医師が来て、痛み止めの針を入れてもらい、ヘルパーさんにいつも通りに体を綺麗にしてもらいましたが、その時の夫はもうずっとゼエゼエと痰の絡んだ苦しそうな呼吸をしていました。
医師はとりあえず様子を見ようということで帰っていきましたが、午後に訪問看護師の方が心配して家に来てくれることに。吸引しても吸引してもゼエゼエと苦しそうな呼吸をする夫に、看護師さんは「疲れちゃうから息だけでもなんとか……」といろいろな対処をしてくれたのですが、ふと急に夫の表情が変わりました。
「あれ?」と私が言うと、看護師さんが「あ、これはまずいかな……」と言い、夫の名前を呼びました。しかし、一瞬目を開いたものの、そのまますうっと意識が飛んだようになり、寝ているのに体だけで全力で呼吸をしているような動きをするようになったのです。
◆旅立つ夫にかけた最後の言葉
看護師さんは「疲れちゃったんだね……」というと、私に夫を預け、静かに床に正座しました。私は、ついに夫は旅立つんだと感じ、何か素敵なことを言おうかと考えましたが何も思い浮かばず……。出た言葉は「もう無理しなくていいよ」でした。
今までいっぱい苦しい治療や痛みに耐え、私に温かい愛をくれた夫に、「ありがとう」とか「愛してる」とか、ドラマのようなセリフは言えませんでした。ただひたすら、もう楽になってほしいという気持ちでいっぱいだったのです。
ついに体の動きが弱くなり、呼吸をしなくなった夫。私の腕の中で、息を引き取りました。
その日は2月だというのに温かく穏やかな日で、夫の体にはやわらかな日差しが降り注いでいました。ずっとずっと「いつ亡くなるんだろう」と思い続けていた毎日でしたが「今日だったんだね……お疲れ様でした」と声を掛けながら、看護師さんとともに夫をベッドにそっと寝かせ、手を合わせました。
すると、昨夜握ってくれたあの強い感触がふと手によみがえってきました。あのときどんなに苦しい約束をさせてしまったのか……。そう思うと、とてつもなく切ない気持ちがこみ上げます。
骨ばったあの手の感触は、私にとって一生忘れられないものになりました。
◆新しい人生の幕が開かれたような感覚
緩和ケアに入ってからは「早く死にたい」と言っていた夫でしたが、まだ61歳。どんなに無念だっただろうと思うと、涙が止まりませんでした。
ですが、亡くなった後の穏やかな表情を見ると、ようやく痛みから解放されたのだとも感じられて、無事に送れてよかったという安堵の思いもあり、なんだかとても複雑な気持ちだったのを覚えています。
そして約3年の壮絶な闘病生活が終わり、肩の荷が下りたという思いも正直あったと思います。温かな日差しを受けて安らかに眠る夫を見ながら、私は「これから夫のいない世界で生きるんだな」と、新しい人生の幕が開かれたような不思議な感覚を覚えていました。
次回は葬儀までの準備やエピソードなど、5人の子どもがいた夫のイレギュラーな葬儀について、つづってみたいと思います。
―シリーズ「私と夫の1063日」―
<文/関由佳>
【関由佳】
筆跡アナリストで心理カウンセラー、カラーセラピストの資格も持つ。
芸能人の筆跡分析のコラムを執筆し、『村上マヨネーズのツッコませて頂きます!』(関西テレビ)などのテレビ出演も。
夫との死別経験から、現在グリーフ専門士の資格を習得中。
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