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市村正親「女優 篠原涼子の一ファンとして」に見る、俳優夫婦の“深い業”

女子SPA! / 2021年8月5日 8時47分

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市村正親と篠原涼子 (7月某日都内にて)

 市村正親(72)と篠原涼子(47)が7月24日、双方の所属事務所を通じて離婚を発表しました。

 以前より別居が報じられていたふたりですが、新型コロナウイルス感染防止のためと説明されており、このたび離婚となり話題になっています。2008年5月に誕生した長男、2012年2月に誕生した次男の親権は市村が持ち、慰謝料、財産分与はないといいます。

 『みんなの朝ドラ』などの著者で演劇・ドラマなどエンタメに詳しいライター木俣冬さんに読み解いてもらいました(以下、木俣さんの寄稿)。

◆市村正親「女優篠原涼子の一ファンとして」

 篠原涼子と市村正親との離婚報道で印象的だったのは市村正親のコメントである。丁寧に綴られた文章のなかの“そして同業だからこそ理解し合えること、また何より私も女優篠原涼子の一ファンとして、彼女がより一層女優として輝き、母としても生きていく道を歩ませたいという思いに至りました。”という一文。

 “女優篠原涼子の一ファンとして、彼女がより一層女優として輝き、”に赤線を引きたい。

 ふたりの子供の親権まで自分がもってまで篠原涼子を輝かせようとする。すばらしい心構えの市村正親が彼女のファンであると発言するのはこれがはじめてではない。2020年に出版された著書「役者ほど素敵な商売はない」のなかでも書いている。名優、名演出家との交流録の中に妻・篠原涼子のことも入れている。愛を感じたその一年半後に離婚を発表するわけだが……。

◆篠原涼子の初舞台で主演・市村がアドバイス

 篠原涼子が女優として一皮むけたことは市村正親の影響が大きいと言っていい。ふたりの結婚のきっかけは2001年の舞台、巨匠・蜷川幸雄演出の「ハムレット」。市村が主人公のハムレット、篠原は初舞台で、ハムレットの恋人オフィーリアという大役に抜擢された。

 オフィーリアはハムレットを愛し過ぎるあまり精神バランスを崩してしまう。愛だけでなく家の問題などいろいろあるがきっかけはハムレットに「尼寺へ行け」と捨てられてしまうことである。それがトリガーになって深い悲しみの淵に落ちていく様子は俳優にとって演技の最大の見せどころ。

 数々の大舞台で主人公を演じてきた名優の市村、そして名演出家の蜷川幸雄の手助けによって篠原はみごとにやりきった。

 市村が悩む篠原にアドバイスした逸話はエモい。彼の著書に書かれたそれを読むとそりゃ市村を尊敬し愛情を覚えるのも無理ないなあと感じる。

◆結婚後、“女優・篠原涼子”の快進撃

 こうして篠原涼子と市村正親は2005年に結婚した。そこから女優・篠原涼子の快進撃がはじまる。

 それまでの篠原は歌手(ミリオンセラー)やバラエティー番組に出ているタレントとしての印象が強く、ドラマなどにも出てもまだまだ二番手三番手という役割だった。それが一転、“女優・篠原涼子”になったが市村と24歳という大きな年の差結婚した前後からで、活躍には目覚ましいものがあった。

 自閉症の子供の母を演じた「光とともに~自閉症児を抱えて~」(04年)、アルコール依存症と闘う「溺れる人」(05年)、年下の部下(赤西仁)との恋を描いた「anego」(05年)、シングルマザーの刑事の活躍を描く「アンフェア」(06年)、敏腕派遣社員が社員顔負けの働きを見せる「ハケンの品格」(07年)と自閉症児の母、依存症、年の差恋愛、シンママ、派遣と女性の人生のハードルになりそうな部分を乗り越え、毅然と生きている女性を演じ共感と高視聴率を獲得した。

 05年には再び蜷川幸雄演出で「天保十二年のシェイクスピア」に出演しここでも重要な役を演じている。

◆“名優・市村正親の妻”としての信頼感もあった

 一般的には女性は結婚したら仕事をセーブするイメージがあるが、篠原涼子は逆に結婚と同時に俳優として飛躍した。むろん彼女の才能あってのことだが、“名優・市村正親の妻”という肩書は篠原涼子にとっては俳優としての信頼感まで高めたのである。まさに仕事と結婚の一石二鳥であった。

 出産時はその勢いは止まるが、第2子を出産した後に主演した「ラスト・シンデレラ」(13年 フジテレビ)は「anego」路線で華麗に復活。サバサバし過ぎてひげが生えてきてしまうほど仕事にのめり込んできた女性がふいに同世代の男(藤木直人)と年下の男(三浦春馬)の間で心揺らし、女性の輝きを取り戻していく。働き過ぎて潤いがなくなっていくことを心配する女性たちに向けたエールのようなドラマは絶大な支持を得た。

◆市村は50年近く演劇界のトップランナーでい続ける

 市村のほうも、2004年には森繁久彌の当たり役で有名なミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」を引き継ぐという大役を射止め、仕事は順調だった。だが14年、市村に癌がみつかり舞台やドラマを降板する。

 病を克服したあとは、闘病以前と変わらず精力的に演劇活動を続けている市村。「NINAGAWA・マクベス」は海外公演も好評で、黒澤明の映画のミュージカル化「生きる」では晩年を迎えた人間の哀愁を演じた。市村演じるマクベスの栄華を誇った人物の人生の終焉の深さは格別。

 ふだん舞台を見ない人も、バラエティー番組「鶴瓶の家族に乾杯」に出演したおり、地方の芝居小屋で「トゥモロウ・スピーチ」と言われるマクベスの有名な長ゼリフ(映画「ノマドランド」でも引用されるセリフ)を語った姿を見た人は多いのではないだろうか。あの深みは一度、死に近づいた者だからこそのセリフの真実味なのかもしれない。

 二十代から劇団四季で活躍、退団後もミュージカル「ミス・サイゴン」や「ラ・カージュ・オ・フォール」などに主演して七十代まで50年近く演劇界のトップランナーでい続ける市村正親。俳優は年をとったらとった分だけ演じられる役があり、その人の生きた年齢が生かされる職業であることを体現するように60代後半でますます凄みが出てきた印象がある。

◆篠原涼子の高視聴率ジンクスが崩れはじめていた

 一方、篠原涼子はどうか。夫・市村復帰後の主演ドラマ「オトナ女子」(15年)は「ラスト・シンデレラ」の盛り上がりを期待されたもののあまり話題にならなかった。政治をテーマにした意欲作「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?」(17年)の評判も芳しくなかった。

「ラスト・シンデレラ」までは視聴率のとれる俳優だった篠原のジンクスが崩れはじめていた。虐待をテーマにした「愛を乞う人」(17年)、韓国の人気映画のリメイク「SUNNY強い気持ち、強い愛」(18年)や脳死を扱った東野圭吾の問題作「人魚の眠る家」(18年)など作品に恵まれ賞も獲っているにもかかわらず、00年代の頃の圧倒的な求心力は見られない。

 もちろん10歳以上年齢を重ねているのだから変わっていくのは当然のこと。だが彼女の武器だったハツラツとした欲望や世界に毅然と立ち向かう勝負心みたいなものが薄まった分を埋める新たな演技の技が育まれていなかった。

 例えば朝ドラこと連続テレビ小説「おちょやん」(2020年度後期)。道頓堀の芝居茶屋を仕切る頼もしいごりょんさん(女将)として主人公(杉咲花)を支える役割。でんと座っているだけで華があるのはさすがだが、若い主人公とは一味違う大人の妙味を期待すると物足りなかった。

 満を持してのリメイク「ハケンの品格2」も演技は変わらず見た目は年相応。

 近年のどの作品にも完全に家庭に入って休んでいたわけでもないのにかなり落ち着いちゃった感が漂う。仕事と家庭を両立していることはすばらしいが、演技にエネルギーが全部注がれてない感じがするのである。

◆市村は篠原にもっと弾けてほしいとじりじりするのでは

 もし市村正親がコメントどおり篠原涼子の芝居のファンだったら、彼女には俳優としてもっと弾けてほしいとじりじりするのではないだろうか。篠原涼子の本気のアドレナリンが噴き出したときとそうでないときとを名優・市村正親は誰よりも敏感に察することができるだろうから。

 それを言い換えれば、メロンの食べ頃を外側から適切に察知する能力のようなものである。篠原涼子の俳優として最高に熟成させるために彼女から退路を断ってかごから飛び立たせる決意をしたと思うと合点がいく。世の中には結婚したら家にいてほしいと女性の才能をスポイルしてしまう人もいるが、市村の場合、結婚から数年の篠原の活躍を見るとそんなことないのだろうなあと思うのだ。

 いや、もしかしたら、彼にとって篠原涼子のあの頃の輝きはもう必要なく、今度は成長していく子供たちの可能性を糧にして俳優としてますます輝いていくのではないか。吸血鬼か何かのように。俳優ってそれくらい業が深いような気がするのだ(あくまで妄想です)。

 とすれば、俳優として最高の時期をもたらした夫の元を羽ばたいた篠原涼子の巻き返しも今後十分期待できる。両者ギラギラした役で共演してほしいくらいだ。互いを最高に輝かせる俳優夫婦は深い業があると思うし、そのほうが面白い。

 ふたりが世に出した離婚報告に添えられた写真。キリッと笑顔で並ぶふたりの心が静かに燃えているように見える。

<文/木俣冬>

【木俣 冬】

フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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