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なぜ3人の育児と医師を両立できるの?米国の子育て事情を内田舞さんに聞く

女子SPA! / 2021年9月25日 8時45分

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内田さんと夫と、生まれたばかりの赤ちゃん

 新型コロナウイルスやワクチンについて、日本でも情報発信をしている米国の医師、内田舞さん(38)。現在、マサチューセッツ総合病院で小児うつ病センター長、ハーバード大学医学部でassistant professorを務めつつ、なんと3児のママでもあります。

 今年2月には、第三子を妊娠中にコロナワクチンを接種した様子をSNSに投稿。タレントのおのののかさんが8月、SNSで妊娠中のワクチン接種に不安を訴えたのに対して、内田さんがネット上で丁寧に解説をしたことが話題になりました。

 内田さんが日本を出てアメリカで医師になったワケを聞いた前回のインタビューに続き、今回はアメリカでの働き方を聞きました。子どもを3人も育てながら、一体どうやってスーパーキャリアを築けたのでしょうか?

◆国の制度としては産休・育休がない米国

 まずは、産時休業、育児休業について。日本とはかなり制度が違うそうです。

 

「アメリカは国の制度として産休・育休が設定されていなくて、各職場が独自の制度を提示しています。産休・育休が全くない、2週間、4か月…など、色々です(編集部注:州の法律で設定されている場合もある)。

 

 私は、3回の出産で、それぞれ出産直前まで働きました。三男に関しては、入院の数時間前まで勤務しましたね。私の病院では産休・育休が12週間で、仕事に戻る際には3か月児を保育園に預けました。

 産休・育休中の給料も、各職場によってさまざまです。給料を出すところもあれば、給料を半分にする、あるいは最初の2週間だけ給料ありであとは無給…などと、各自調整します。このような職場からの補償も、職に就く際に示されて、同意して就職する形です」(内田さん、以下同)

 出産で入院する数時間前まで働いていたとは!かなりハードですね。

 日本では、女性が産休(産前6週間+産後8週間)を取る権利が、法律で認められています。育休は、男女とも子供が1歳になるまで休む権利があります(ただし雇用形態によって違う)。法律としては、アメリカより日本のほうが手厚いわけです。

◆仕事と育児を続けられる一番の要因は「夫」

 ただ、日本では男性が休みを取りにくいのが現実。「育児は父母両方がやるべき」という常識は、アメリカのほうが浸透しているようです。

 「出産と乳幼児の育児は、もしパートナーがいれば、カップルで協力してやるものという認識です。

 例えば病院の出産セミナーなどは妊婦さんだけではなく、パートナーとの参加が普通ですし、『付き添い』という言葉はなく、少なくともボストン内の病院ではコロナ禍であっても妊婦さんがパートナーと一緒に分娩に向かうことが一般的です。ですから、シングルペアレントは本当に尊敬します!

 私の出産時、分娩室にも産後の入院の部屋にも、私の夫が寝られるベッドがあり、食事も二人分出ました。でも入院自体は短くて、三男の時は私の産後の体調が良かったこともあって、出産の翌日に退院して、生後1日の息子と一緒に家に帰りました」

 その後の育児でも、少なくとも内田さんの周りでは「母親のワンオペ」など聞いたことがないそうです。

「私が仕事と育児を続けられる一番大きな要因は夫です。お互いの成功を心から願っていて、家事も育児も一緒にやっています」 

◆保育園は日本よりずっとお金がかかる

 日本では、母親が仕事復帰しにくい理由のひとつに、「保育園に入れない」という問題があります。そのへん、アメリカではどうなのでしょう?

「アメリカでは保育園に公的支援がないので、ほぼすべて私立で、給料が全て保育園代に消えてしまうという話もよく聞きます。費用は日本の10倍くらいかかりますが、数は多くあるので、全く入るところがないという状況にはなかなか陥りませんね。

 また保育園ではなく、ベビーシッターが毎日来たり(こういう場合はナニーと呼びます)、住み込みのナニーがいる家庭もあります。

 ベビーシッターは頻繁に使われています。我が家も学校がない日や、夜まで仕事がある日などにはベビーシッターさんに来てもらっています。男性のベビーシッターさんもよく頼みます。また、近所の高校生などに頼む方もよくいらっしゃいます。

 保育園やナニーに頼むといっても、やはり大半の育児は親がやっていて、仕事との両立は女性にとっても男性にとってもバタバタですね」

 日本では待機児童問題がありますが、アメリカでは低収入だと保育園やナニーに頼めない、という別の問題がありそうですね。  

◆結果で評価される職場は育児と両立しやすい

 また、日本では育児休暇から復帰後、「時短勤務」の制度がある会社も。これは育児と両立しやすい一方で、出世コースからはずれてしまう、という問題もありえます。

「日本では『女性は育児があるから』と時短で働くようにアレンジされたり、当直をさせないことがあると聞きます。でも私としては、男女にかかわらず、育児も仕事も期待値が同じであるところが働きやすいと感じます。

私がアメリカの職場で育児をしながらも働きやすいと感じるのは、時間ではなく生産性で評価される点です。職場に何時までいるかではなく、どれだけ患者さんを診ているか、どれだけ研究費を獲得できているか、どれだけ論文を出しているか、という結果で評価されます。

もちろんそのような結果を求められるのは厳しい側面もありますが、責任を果たせていれば、時間的な制約は大きくないことが、子ども達のスケジュールにも合わせた働き方ができている一因です」

◆どんなに遅いペースでも「止まらないこと」

 とはいえ、3人も子育てをしながら医師を続ける内田さんは、かなりハードな毎日なはず。どうやって心身のパワーをキープしているのでしょうか?

「もちろん子どもが風邪をひき続けて、保育園に行けずに、私と夫が交互に仕事を休むようなこともありました。そんなときは優先順位をつけて必要な仕事をこなし、そのうち落ち着いたら巻き返せばいいやと思っていました。

またアメリカでは40年くらい前から医大の男女比が半々だったようで、上司も女性が半数くらいです。そして男女とも育児を経験した人たちなので、『今が大変でも、とにかく“止まらないこと”が大事だよ。止まってしまうと再発進は大変だけど、今はどんなに遅いペースでもいいから、続けていれば、必ずその努力の貯蓄は実る』というようなアドバイスを男性の上司から受けました。

そうは言っても、家事・育児は、アメリカでもやはり女性に降りかかる負担の方が多いです。去年、コロナで公立学校がオンライン授業になったことで、家で子どもの世話をしながら働くことになった、あるいはそのために職を失ったのは、圧倒的に女性の割合が大きかったです」

◆いいことばかりではないけれど…

 内田さんの話を聞くと、アメリカでも、いいことばかりではありません。完全な能力主義ですし、健康保険も皆保険(公的保険に誰でも入れる)ではないので、保険に入っていなければバカ高い医療費がかかります。「手厚い保障」という意味では、日本の方が安心です。

 一方で、能力とガッツのある女性にとっては、アメリカのほうが、家庭も仕事も望むものを手に入れられる環境ではあるでしょう。

 国によって方法に違いはあれど、「家庭か仕事か」を選ばなければいけない社会は、変えていきたいものです。

【内田舞さん プロフィール】

小児精神科医、ハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年Yale大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート、スキー。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、発信している。

Instagram: @maimaiuchida

Twitter: @mai_uchida

<文/和久井香菜子>

【和久井香菜子】

ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表

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