パリで完璧ともいえる生活をおくる3児の母・杏。「母親が似合わない」印象さえ抱かせる新作での姿
女子SPA! / 2024年6月7日 8時45分
さらに、認知症のために「手のかかる子ども」のように暴れる父親に振り回され、(息子だと思い込ませている)子どものほうがよっぽどそのことに冷静に対処しているように見えるなど、いろいろな場面で彼女は「子育てに不慣れで未熟な母」に見える。
杏は朝ドラ『ごちそうさん』(NHK)でも現実と同様に3児の母となったことがあり、アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』で優しく穏やかな母親の声を見事に表現したこともある。しかし、今回の『かくしごと』では「母親が似合わない」印象さえも抱かせる、「母親を演じようとする演技の上手さ」にも驚かされたのだ。
◆「自分の言葉で言った」「想いが広がった」役でもある
杏は今回の役について「すごく難しいシチュエーションだと思うのですが、もしかしたら今の自分だったらできるかもしれない」「必ずしも自分と役のすべてがリンクしているわけではないですが36年間生きてきた一人の人として、母親として数年経った今の積み重ねがあったので、やらせていただきたいと思いました」と語っている。
この言葉通り、今回の役の説得力は、杏が離婚の上で3児の子どもを育てていることだけに限っていない、人間としての経験の積み重ねがあってこそのものだと強く思わせる。
さらに、杏は関根光才監督から「誰かになる、演じるのではなく自分の言葉で言ってほしい、言いづらければ変えてもいいから自分の生の言葉を大事にしてほしい」と声をかけられたことが印象的で、だからこそ「撮影に入ってから実際に何かを作り込むことが必要ないというか、想いだけあれば、その先のものは、その場でどんどん広がっていくっていうような感覚があった」そうだ。
前述した通り、劇中の主人公は現実の杏とは正反対の印象があるのだが、同時に杏というその人が過度に自分を偽らないまま、その本人の想いを役に投影できたとも思わせる。
他にも杏は、「今回の役は自分自身が普段ニュースを見る中で、いろんな環境にいる子どもたちに対する想いが年齢を重ねて変わってきたので、その想いを反映できる」とも感じていたそうだ。現実の虐待などの社会問題に対する杏自身の考えも、今回の「子どもを守ろうとする」役に生かされていたのだろう。
◆絶対に忘れることができないラスト
杏は最初に脚本を読んだ時に「ラストが特に面白く、素晴らしい」とも思ったという。もちろん詳細は伏せておくが、なるほど決して安易な救いだけを与えず、かつ投げっぱなしにすることもなく、「その後」の想像を観客にゆだねた、鳥肌が立つような幕切れだ。個人的には「映画の終わり方ベスト」を決めるのであれば3本の指に入るほどの衝撃があった。
そして、このラスト周りにおける杏の表情は、もはや言語化が不可能なほどの複雑さと迫力があり、絶対に忘れることはできない。これまでは明るい役柄も多く演じてきた杏という俳優の印象をもガラリと変える、熱演という言葉でも足りない演技を、最後まで見届けてほしい。
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
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