新月9『海のはじまり』、主演&スタッフだけじゃない『silent』との共通点
女子SPA! / 2024年7月8日 15時46分
ぞくり。知らない間に自分に子供がいて、すっかり大きくなっていたらかなりビビる。
しかも、突然、訪ねて来て、前に母につれて来られたことがあると大人びた調子で言われたら、その動揺はかなり激しいに違いない。いまはほかに恋人がいて、この部屋に通ってきているのだからなおさらだ。
ただ、夏は水季と8年くらい会っていなくて、海は6歳。一瞬、夏と別れてから子供ができたのかなと思うような、いろいろミステリアスな煙幕も張りつつ、やっぱりーーという展開(海はもうすぐ7歳になることがわかる)。
◆目黒蓮と古川琴音のやりとりは涙なくしては見られない
複雑な人間もようを、言葉の魔術師・生方美久の巧みなセリフが彩る。固有名詞の「海」と「夏」と人名の「海」と「夏」でいささかややこしい、これがポイント。「海好き」「夏好き」がダブルミーニングになる。
なにごとも曖昧(あいまい)な夏に対して、自分の意思がしっかりし過ぎている水季。性格は対称的だが、水季はある点においてはなぜか曖昧になる。そこで生きるのが「海」と「夏」の言葉だ。
大学時代、夏とつきあい、水季は妊娠した。中絶するための書類に夏にサインをもらおうとするとき、気丈にふるまう水季と、驚きとなんともいえないじわじわした感情が心と瞳を浸していく夏。
「ごめん」「一週間不安だったよね。ごめん 気づかないで。ひとりで一週間も。不安な思いさせてごめん ごめん」とひたすら謝る夏。こみあげてくる水季。彼女は、夏に迷惑をかけたくないと思っている。
「書いて」と促す水季に、「ほかの選択肢はないの?」と夏はちゃんと彼女の気持ちを慮り、中絶以外の選択肢はないのか問いかけるのだが、「私が決めていいでしょう」と押し切られ、泣きながらサインをしてしまう。
このシーンの目黒蓮と古川琴音の不器用すぎるやりとりは涙なくしては見られない。ふたりとも型にはまらない、心の揺れを演じている。
若すぎて青すぎるふたりの意地っぱりと勘違いの思いやりが折り重なって、取り返しのつかない瞬間が出来上がる。
何よりも胸に迫る思い出とは、ほんの数秒のズレによる取り返しのつかない一瞬なのだ。
◆胸の痛みは満潮となった
水季はそのまま大学を辞め、夏から離れる。
「夏くんより好きな人ができちゃった」それは水季のせいいっぱいの嘘で、でも本当でもあって。
そして夏は勘違いしてしまう。ここで夏が、夏より好きな人とは水季に宿った子供であることに気づけばよかったのに、というのも酷な話か。
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