朝ドラ『虎に翼』34歳俳優の「日本映像史に残すべき名場面」。本作でもっとも慎ましく、美しい瞬間
女子SPA! / 2024年8月10日 8時45分
航一にとって寅子の存在は大きい。私的な気持ちを決して外に出してこなかった彼の心がどんどん開いていく。寅子が東京の家庭局から異動になった新潟篇は、この変化の過程を見つめることとほとんどイコールでもある。
第87回、航一が足繁く通う喫茶・ライトハウスを手伝うようになった元女中・稲(田中真弓)から、寅子がいかに開心術に優れた人物だったかを聞いて、思わず「なるほど」とつぶやく。声量をしぼりこんだこの「なるほど」は、思わぬ心境の変化に対する本人の驚きを静かに物語る。
◆声をふるわせた「ごめんなさい」の意味とは?
寅子にとっては明律大学女子部時代からの学友である桜川涼子(桜井ユキ)が営むライトハウスは、常連客の憩いの場であり、航一のゆるやかな変化をリアルタイムで確認できる場所でもある。たとえば、入店してすぐ航一がちょっと視線を動かすだけで、その瞬間の彼の気持ちは筒抜け。
航一はカウンター席を定席にしているが、この席なら看板メニューのハヤシライスがくるまでの間、隣に座る寅子と涼子の会話に耳を傾けていられる。黙っているだけでも航一は楽しげだ。
地元の弁護士・杉田兄弟との親交を深めるために寅子が麻雀に挑戦するのも嬉しい。麻雀は航一にとって「拠り所」だからだ。自分の「拠り所」を通じた寅子との交流によって心はもっと開ける。第17週第85回、杉田兄弟の兄・杉田太郎(高橋克実)が主催する麻雀会場面は大きなターニングポイント。
会合には寅子の娘・優未(竹澤咲子)も参加するのだが、優未をひと目見た太郎が戦死した孫娘の面影を感じておいおい泣き始める。航一はとっさに太郎をぎゅっと抱きしめ、「ごめんなさい」としきりに謝る。
あれだけ客観的で冷静だった航一が、あまりよく思っていなかったはずの人物を相手に、どうして声をふるわせて感情移入したのか。そこに込められる謝意の意味とは?
◆自責の念から発せられたもの
さすがに気になった寅子がそのあとの座敷席で航一に「航一さんは戦時中に何か……」とたずねる。すると航一は静かに人差し指を唇にあてて「秘密です」とだけ答える。この短い一言が、「ごめんなさい」と連動しながら、岡田の繊細な発声は極まる。以降、ひとまず棚上げになった「ごめんなさい」の意味については、第90回で明かされる。
場所はもちろんライトハウス。つっけんどんな判事補・入倉始(岡部ひろき)も連れて入店すると、カウンター席には杉田兄弟が。自分の固定席がうまっていることを一瞥して確認した航一が、少し控えめなしかめっつらをする。実はものすごく素直な人なのだ。
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