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『不適切にも』で大ブレイクの23歳女優はなぜ「時代を象徴する存在」と言えるのか

女子SPA! / 2024年10月9日 8時47分

『不適切にもほどがある!』以後、河合優実をブレイク俳優として語ることが可能だが、実際そんなことはどうでもいい。河合優実の魅力とは、出演作を通じてどこか時間感覚を麻痺させるようなところだ。

 最大のはまり役のブレイク作がタイムスリップ物だったことが何よりの証左だが、ここで注目すべきは連ドラ初主演作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(以下、『かぞかぞ』)である。父親が亡くなり、弟がダウン症、母親は車椅子生活者。兵庫県に暮らす岸本一家の奮闘ドラマを涙あり笑いありで描く同作は、2023年にNHK BSプレミアムで放送された。

 当然、『不適切にもほどがある!』以前の放送作品となる。その直後の河合のブレイクを受けてか、2024年にNHK総合で地上波放送された。筆者はてっきり、『不適切にもほどがある!』以後の、激烈でのびやかな飛躍としての連ドラ初主演作だとばかり思っていた。以前でも以後でもどちらでもいいけれど、この人はどうも見る側の時間感覚をちぐはぐにする。

◆どれほど突飛なカットでも接続可能

 今、日本映画界でもっともも才能ある監督のひとりである大九明子監督は、河合のそうした特性を感覚的に理解しているのか、『かぞかぞ』は父親が生きていた過去と現在とがうまい具合にとけ合う。変にセンチメンタルな眼差しが混ざり混むことなく、過去でも現在でも河合優実の魅力的な瞬間を捉えている。

 例えば、大学に通いながらいくつもバイトを掛け持ちする主人公・岸本七実(河合優実)が、家族たちを沖縄旅行に連れていく第3話。夕日の海。波音が絶えず耳をつつみこむ。「そやな」と言って振り返った七実のバストショットのすぐあと、父・岸本耕助(錦戸亮)のクロースアップが接続する。七実の眼差しの先では、目の前の景色と父の過去の姿が自然とだぶる。

 単なる回想的なインサートではない。大九監督が撮るマジカルな夕日の海を見つめる河合のアップのあとならば、どれほど突飛なカットでも接続可能という感じ。ミラクルなショットのつなぎに心ときめく。

 この世にいない父親が家族の団らんの中にたびたび登場する演出が最初いぶかしくも思ったが、岸本家にとってはそれが自然な景色なのだと、河合のアップが明かしてくれているようだ。不思議とマジカルな世界観も逆にリアリティがある。

◆自動販売機近くの壁際で

 こんなにマジカルでミラクルな存在が日本映画界に現れたのは、いつぶりのことだろうか? 早いところ、日本を飛び出して、世界で発見されなければならない。と、勝手に思っていたら、主演映画『ナミビアの砂漠』(2024年)が、第77回カンヌ国際映画祭で、国際映画批評家連盟賞を受賞する快挙を成し遂げた。

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