性依存症に陥るのは“遊び人”だけじゃない、加害者・被害者がハマる意外な理由

週刊女性PRIME / 2020年1月17日 8時0分

※写真はイメージです

 性的な行動への依存は、俗に「性依存症」「セックス依存症」と呼ばれているが、世界保健機関の診断基準(ICD)では「性嗜好の障害」に分類される。痴漢や盗撮を繰り返すなど加害者になる一方、性暴力の被害者になることもある。

 性依存は、依存症の中でもなかなか理解されにくい。加害も被害も“好きでやっている”と思われがちだ。

性依存傾向の人は生きにくさを感じていがち

 公務員の鈴木貴男さん(仮名=20代)は盗撮を繰り返し、3回目の逮捕で常習として処分された。駅構内で女性利用客のスカート内をスマートフォンで撮影、大阪府迷惑防止条例違反に問われたのだ。このとき西谷裕子弁護士とつながった。

 西谷弁護士は鈴木さんのケースで医師の診断までは求めなかったが、ICDで盗撮は「窃視(せっし)症」という精神疾患に分類される。

 西谷弁護士は、もともと罪を犯した人を一般社会に更生させる「更生保護」に関心があった。実践する過程で「治療的司法」にたどり着いたという。犯罪の背景や原因に、福祉や医療の不足や、被疑者に依存症などの問題がある場合、刑罰を中心にするのではなく医療や福祉、心理との連携によって再犯防止や更生を支援していく考え方だ。これに弁護士の立場から取り組んでいる。

「被疑者の生い立ちや生活歴、何が引き金になるのかを丁寧に聞き取ります。カウンセリングや、認知行動療法によるグループミーティングにつなげることもあります」(西谷弁護士)

 鈴木さんの場合、公務員一家で、型にはまった“安定志向の価値観”や“道徳的な人生観”を押しつけられてきた。鈴木さん自身には発達障害の傾向があり、両親との衝突が絶えなかった。思春期になると、大人との関係がうまくいかず、イライラした感情を性的に解消しようと盗撮をするように。就職後も対人関係のトラブルを抱え、盗撮を繰り返した。

「鈴木さんは逮捕されるまで盗撮を繰り返し、やめられませんでした。このままやめられなければ、遅かれ早かれ刑務所に行かねばならず身の破滅につながるため、私の事務所に連絡がありました」

 若い被疑者の場合は親子で訪れ、治療に取り組む例も多い。

「相談者は性依存傾向の人が多いです。常習になっている人もいます。鈴木さんのように成育歴が関係していたり、障害やその傾向などがあって、生きにくさを感じている人が多いです」

人は人の中で回復する

 一方、服役後の出所者を支援しているNPO法人『マザーハウス』(東京都墨田区)も、性犯罪の加害者と接点を持つ。2019年夏、窃盗容疑で逮捕され、起訴猶予になった吉田克さん(仮名=40代)もそのひとり。過去に、迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪で、何度も服役していた。

 吉田さんは、強制わいせつのほかにも性犯罪を繰り返しており、性依存症に陥っている可能性がある。

 マザーハウス理事長の五十嵐弘志さんは、吉田さんと毎日のようにLINEで連絡をとり、行動をチェック。さらに支援態勢を整備するため、生活保護や障害者、保健所などの担当者を集め、話し合っていた。

「連絡用にスマートフォンを渡すと、吉田さんはアダルト動画のサイトにアクセスして、架空請求にあってしまった」(五十嵐さん)

 吉田さんが性犯罪で服役を繰り返している間にデジタル環境は様変わり。簡単に性的な画像を見られて、欲望を刺激する情報であふれている。そのため五十嵐さんらの働きかけで性依存症を治療するクリニックにつながった。

 だが数か月後、女性の胸を触り、再犯してしまう。

「性依存症と診断されたのは受診したクリニックが初めて。何度も性犯罪を繰り返していたので警察や検察が問題視してもいいはずですが、今回の逮捕後も精神鑑定はありませんでした」

 吉田さんは再度、刑務所に入る可能性があるが五十嵐さんは見捨てない。性依存症の人を支援するには長期的視点が必要だからだ。

「人は人のなかで回復します。人生を聞くところから依存症の回復が始まる。吉田さんは母親と同年代の女性スタッフがいると落ち着いた様子を見せていました。話を聞くと、彼は母子家庭育ち。ほかのきょうだいより手をかけてもらえなかったそうです。いまは苦しいかもしれませんが、いつ(NPOに)戻ってきてもいいんです」(五十嵐さん)

 法務省も無策ではいられない。'04年11月に、奈良県奈良市で女子児童が殺害された事件をきっかけに、刑務所などでは、認知行動療法という心理療法をベースにした「性犯罪者処遇プログラム」を行っている。

 性依存症を治療対象にする医療機関も出てきた。性暴力加害者を性依存症という医療の枠組みでとらえる医療機関のひとつが、榎本クリニック(東京都)だ。繰り返す加害行為を「衝動性で反復的な強迫的性行動」に位置づけし治療を行う。生活習慣を安定させ、再犯防止のため、よりよい人間関係を作り上げるためのコミュニケーションスキルのトレーニングも実施する。

「患者は逮捕起訴され刑事手続きの入り口段階の対象者が多い。家族や弁護士を通じて、問い合わせが多数あります」

 こう話すのは同クリニックの精神保健福祉部長で、社会福祉士でもある、斉藤章佳さん。なぜ犯罪として刑罰を科すだけでなく、治療の対象となりうるのか?

「性嗜好障害という精神疾患の側面があると診断することで、家族の協力が得られますし、本人の理解が深まり、行動が変わるよう促しやすくなります」

 これまでに対応した性依存症の当事者は2000人を超える。うち、痴漢が約800人で最多。次いで盗撮が約400人、強制性交が約200人、児童性愛が約150人だという。

 ただし、診断書や裁判目的だけの依頼は断っている。

「性犯罪全体では顔見知りへの性暴力が7割ですが、当院の患者の場合、見知らぬ相手への加害を繰り返してきた人たちが対象。当院の調査では、逮捕歴は平均5回以上。問題行動の開始から逮捕までにかかる年数は平均して痴漢が8年、盗撮が7・2年、児童性愛は14年です。子どもが被害者の場合、何をされたのか理解できず、成長したあとに被害を思い出すことも多く、すぐに事件化しません。

 痴漢や盗撮の場合は一見、問題のなさそうなサラリーマン男性が多い一方で、小児性加害者は何らかの障害を抱えるケースもみられます。発達障害の診断がつかないグレーゾーンのケースも少なくない。初診では、重複障害の有無を必ずチェックします」(斉藤さん)

 加害者の陰には無数の被害者がいる。同クリニックでは、性犯罪被害者の治療やカウンセリングも行う。

「被害者は自暴自棄となり、不特定多数と性的関係を持つことがあります。自分には価値がないという思いに苛まれていますが、性交渉中は相手から大切にされている感覚もある。そのため性的な関係にはまり込み、依存します。このような性依存症の場合、自殺や自傷のリスクとも密接です」

合意なきセックスで繰り返される被害

 性依存症に陥ってから、性暴力の被害に遭った当事者もいる。

 接客業の田上真由奈さん(仮名=40代)は25歳のとき、「人と話せることは楽しいんだ」と思うようになり、親しみを感じる相手に依存し始めた。それまでは他人を信用できず、心を閉ざしていたと話す。

 高校時代、吹奏楽部の活動を懸命に取り組む中で、うつ状態になった。部活の厳しさに加えて、家庭では門限がうるさく、祖母や母が成績に過度に口を出し、男女関係にも口を挟むなど「監視されている」環境。

 だが、社会人になってからは少し自由を感じるように。複数の男性と性的関係を重ね、次第にセックスに依存するようになった。

「今まで甘えられなかった部分をぶつけているようでした。子どもに返ったかのようでした」(田上さん)

 ただ、複数の男性と身体を重ねていくうちに、同意のないセックスを何度も経験する。田上さんにとっては性暴力だが、男性たちは理解せず、何度も被害に遭ってしまっている。

「危険とわかっていても、やっぱり性的関係を求めてしまうんです」

 性依存症の人たちは周囲の理解が得にくく、孤立しやすい。その現状に沿った支援が求められている。

(取材・文/渋井哲也)


渋井哲也(しぶい・てつや) ◎ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。自殺や自傷、いじめ、依存症など若者の生きづらさを中心に執筆。東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。近著に『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)

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