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コロナ禍で認知症が悪化、在宅患者と疲弊する家族を支える精神科医らの「訪問診療」

週刊女性PRIME / 2021年4月26日 6時0分

内田医師のオンライン診療風景

 なかなか収まる兆しの見えないコロナ禍で、在宅の認知症患者の症状が悪化するケースが増えている。

 厚生労働省に届け出のある在宅療養支援診療所・病院は全国で1万5000か所以上。在宅医療を受けている患者数は18万人を超え、高齢で認知症を伴っていることが非常に多いという。その数は年々、増加を続けている。

 認知症を患っている場合、在宅でも精神科医や認知症専門医に継続的に診察してもらうことが認知機能の低下を遅らせるために有効であるが、残念ながら訪問診療を行うそれらの医師は極めて少ない。

 そんな中、九州地方で精神科医・認知症専門医による訪問診療を続けているクリニックを紹介する。

精神科医や認知症専門医による訪問診療を実施

 新型コロナウイルス感染症の拡大により在宅の認知症患者の症状が悪化したことが、昨年、広島大学と日本老年医学会が実施した調査・研究により明らかになった。全国945の医療・介護施設とケアマネジャー751人を対象に調査をしている。

 その結果、約4割の認知症者に影響が生じたとし、特に在宅者では約半数以上に、認知機能の低下、身体活動量の低下などの影響が見られたと回答があった。在宅者は外出を極力控えるため他者と触れあう時間が減少し、身体を動かす時間も少なくなったためとみられ、また、施設に入所していても外出や面会制限があり、不安の増加や認知機能の低下が起こっていた。

 福岡県にある医療法人すずらん会「たろうクリニック」(福岡市東区)では、精神科医や認知症専門医による訪問診療を実施している。

 精神科医であり認知症専門医でもある院長の内田直樹医師(42)をはじめ、常勤の精神科医らが内科や外科の医師らとチームを組み市内近郊を回る。毎日、7~10人の医師が訪問診療を行い、ひと月に約1000人の患者を診察する。そのほとんどが高齢で認知症を併発しているという。患者の約3割が自宅、7割が施設の入所者だ。

 患者1人につき月2回訪問をしており、1回は精神科医、もう1回は内科医が診察する(患者の状態や状況により月1回の診察の場合もある)。非常勤の耳鼻科医による訪問診療もあり、耳の聞こえや飲み込みなどを検査する。これは全国的にも珍しいという。歯の診療は他病院の歯科医と提携して治療を行っている。ケアマネジャーやヘルパーなど多職種との連携も患者の生活を支えるため大切であり、協力を怠らない。

 クリニックでは医療情報の発信にも務めている。介護関係者らがコロナに関する不確かな情報に惑わされないよう、80施設に対し、約2週間に1回、ウイルスやワクチンなどについての情報をメールやファックスなどで伝えている。

患者からも好評なオンライン診療

 また、オンラインでの診療も行っている。まだ国内でオンライン診療がほとんど知られていなかった2017年に、福岡市の「ICT(情報通信技術)を活用したかかりつけ医機能強化事業」の実証事業に参加したことが契機となっている。

 最初の患者は、外来にかかっていた、認知症の高齢男性だった。末期がんにかかり、家族がクリニックまで連れてくることが難しくなったため、家族のスマホを使ったオンライン診療をし、約1か月後の看取りまで行ったという。現在は、オンライン診療と3か月に1回の対面診療を組み合わせた在宅医療を行っている患者もいる。

 さらに、患者宅のテレビを使用してビデオ通話ができる在宅医療支援サービスを利用した診察をするときもある。

 患者やその家族からは「医師の声だけだと誰かわからないが、画面を見るといつもの先生だとわかりほっとする」という声が上がっており好評だ。

 現在は、発熱患者の臨時の往診をオンラインで実施している。まず患者の元に看護師が赴き、患者の状態を確認し、看護師のスマホを通じて医師の診察を行う。患者には看護師が到着する前に、部屋の換気をしてマスクの装着を済ませておいてもらう。看護師は防護服を着用して、なるべく患者に接する時間を短くしている。

 オンライン診療は、医師側も患者側も移動時間がかからないという利点があるが、問題もある。双方に信頼関係が成り立っていることを前提としているので、初診の患者の診察は難しい。また、足の傷など部位によっては画面越しでは確認しづらい場合もある。そして、スマホやパソコンなどのデバイスを患者が持っていない、あるいは持っていてもアプリをダウンロードして使うことができないなどの点だ。

 精神科医が在宅医療に関わることについて内田医師は、

「在宅医療では患者の家族が疲弊している場合も多く、精神科医として、その家族を支える役割も大きいと思っています。また、患者の問題は、生活環境の影響で起きていることもあり、その場に行くことでわかることもあります。医師の訪問を嫌う患者もいますが、精神科医は患者との関係を良好にすることにたけているため、他科の医師より受け入れられやすいこともあります」

 と説明する。患者家族の疲弊については、広島大学と日本老年医学会による調査・研究でも、コロナ禍で認知症患者が介護サービスを受けられなくなったとき、4割の家族が介護のため仕事を休み、2~3割の家族が精神的・身体的負担が増したと回答している。

病院より自宅にいるほうが患者の状態がよくわかる

 内田医師が精神科医として訪問診療にかかわるようになったきっかけは、医師になって間もないころに勤務していた病院で起こった出来事だった。

「外泊許可が出て自宅に戻っていた患者が病院に帰ってこないことがありました。先輩の医師と一緒に患者の家まで迎えに行くと、そこには病院で見せたことのない、いきいきとした表情の患者がいたのです。その時、病院より自宅にいるほうが患者の状態がよくわかるのだなと実感し、今に繋がっています」(内田医師、以下同)

 在宅における認知症の症状の悪化を少しでも遅くするために、本人や家族ができることを聞くと、

「人と話すこと、規則正しい生活をすること、バランスのいい食事をとること、運動をすること。さらにデイサービスに行くなど少しでも社会とのつながりを保つことで、悪化を遅らすことができます」

 と話す。

 同クリニックでは、多くの人に認知症の基本知識を身につけてもらおうと、公民館や介護施設で講演なども行っている。

 今後、在宅医療を希望する場合、診療所を決める際のアドバイスとしては、

「クリニックによって臨時の対応を速やかにしてくれるところと、そうでないところがあります。見分けるにはどの程度、看取りをしているかが1つの指標となります。多職種連携が重要になるため、地域包括支援センターやケアマネさんの評判がいいクリニックもおすすめです」

 と語る。

 2025年には認知症患者は、高齢者の5人に1人の割合である約700万人、在宅医療を必要とする者は約29万人になると推計される。誰もが認知症になる可能性を持っている。たろうクリニックのように、精神科医や認知症専門医による訪問診療が行える在宅療養支援診療所・病院が全国的に広がっていけば、患者や家族が安心して過ごせる社会に向けた取り組みの1つになっていくのではないだろうか。

医療法人すずらん会 たろうクリニック
所在地 福岡県福岡市東区名島1-1-31
理事長 浦島創
院長  内田直樹


宇山公子(うやま・きみこ)
フリーライター。OL、主婦、全国紙記者を経て、現在はフリーランスで活動。主に、健康、介護、医療、食分野での執筆を行っている

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