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《秋葉原事件から13年》加藤智大死刑囚が“家族”と呼んだ「ネット世界」の変わらぬ孤独

週刊女性PRIME / 2021年7月7日 5時0分

東京・秋葉原で通り魔事件を起こした加藤智大死刑囚

《5時21分 車でつっこんで、車が使えなくなったらナイフを使います みんなさようなら》

《12時10分 時間です》

 2008年6月8日、加藤智大(当時25=死刑囚)が東京・秋葉原で通り魔事件を起こした。2tトラックで中央通りの交差点に突っ込み、横断中の歩行者5人をはねたあと、通行人や警察官をダガーナイフで切りつけた。その結果、7人が死亡。10人が重軽傷を負った。

ネットに居場所を求めてさまよう人たち

 当初、非正規雇用の劣悪な待遇への不満が犯行理由と思われていた。だが、裁判で明らかになった動機は別のところにあった。ネット上のトラブルが要因だったのだ。

 このころ、ガラケーでしかアクセスできないサイトがあった。加藤はそうしたサイトのひとつ、匿名で書き込める掲示板へ日参していた。

 加藤は獄中出版した手記『解』の中で、こう述べている。

《ネット上での出来事は非現実であるかのような言われ方をすることがありますが、ネット上は、仮想空間ではあっても非現実のものではなく、れっきとした現実です》

 秋葉原通り魔事件の発生から今年で13年がたつ。いまやインターネットは広く普及し、SNSが災害時の連絡手段として機能するなど、生活に欠かせない存在となった。その一方で、トラブルや事件も頻発している。

 ネット犯罪の変遷をたどりながら、それでもネットに居場所を求めてさまよう人たちの姿を追いかけてみよう。

 ネット上のトラブルを発端とした殺人事件に、'04年6月に起きた「佐世保小6女児同級生殺害事件」がある。長崎県佐世保市の小学6年の女児が給食の準備中、同級生を殺害した。舞台になったのはコミュニティサイトだ。そこではウェブ日記を書くことができ、掲示板でのやりとりも可能。被害女児が加害女児に対し“言い方がぶりっこだ”と書き込み、削除しても再び同様の書き込みをするなど複数のトラブルが背景にあった。

 佐世保の事件後、文部科学省は掲示板やネットいじめを予防・対処する「情報モラル教育」を加速させる。'08年には社会問題となっていた、いわゆる「学校裏サイト」の実態調査が行われた。誹謗中傷が多いことがわかり、利用上の課題となり始めた。

掲示板は“家族”同然の人間関係

 ネットが居場所になるのは、リアルな世界で居場所を得られないことが一因だ。秋葉原事件の加藤の場合、自殺願望も抱えていた。《生きていても仕方がない。死んでしまいたい》というメールを友人に送っている。だが結局、自殺をやめ、ネット上に居場所を求め続ける。自殺を考えるほどの生きづらさを抱く若者たちにとって、匿名の相手に気を許せる雰囲気のあるネット世界は、居心地がいい。

 しかし、加藤の書き込みは掲示板で「荒らし」扱いされてしまう。そこで別の掲示板に居場所を移す。

《私にとっては家族のような。家族同然の人間関係でした》(『解』)と振り返るほど、掲示板の存在は大きかった。

 そんな中、加藤が依存していた掲示板の中で「なりすまし」が現れた。

《人間関係を乗っ取られたという状態になりました。帰宅すると、自分そっくりな人がいて、自分として生活している。家族からは私がニセモノ扱いされてしまう状態です》(『解』)

 そうした状況の中、加藤は“自分はここにいる”と言いたくなってきた。裁判の被告人質問で、当時の心境を次のように語っている。

「自分が事件を起こしたことを(掲示板のユーザーへ)示すために大事件を起こす必要があると思いました」

 加藤はこうも考えた。

《事件を起こさなければ、掲示板を取り返すこともできない。愛する家族もいない。仕事もない。友人関係もない》(『解』)

 秋葉原事件に関心を寄せ、裁判の傍聴を繰り返した人もいる。マサヨさん(仮名=40代)だ。当時、失恋で自殺未遂をしたこともあって、自分より弱い者を殺したいと思うほど屈折した心理状態に陥っていた。両親は厳しく、友達付き合いもうまくいかない。だが、ネット上では自分の気持ちを吐露できた。

「当時、ミクシィやモバゲーにハマっていました。そこで自殺未遂のことやメンタルヘルスについて日記に書いていたんです。そんな私にとってSNSは居場所でした」

 日本で最初にSNSが登場したのは'04年だ。マサヨさんも加藤も、匿名性の高いネットに自分の居場所を見いだした。しかし、加藤が殺傷した相手は、掲示板でのトラブルとは何ら関係のない人たちだ。犯行は理不尽極まりない。

つながり求める思いを悪用した座間事件

 SNSやネット掲示板は、匿名の中で自分の気持ちをつぶやき、それを受け入れてくれる居場所だった。しかし、インターネットが広く普及されるのに伴い、誹謗中傷が増え、行政などの対策も強化された。今では居場所の要素がなくなっているのが現状だ。

 '17年10月30日、神奈川県座間市のアパート内で切断された遺体が見つかった。逮捕されたのは、白石隆浩(当時27=死刑囚)だ。被害者9人のうち、8人が女性だった。

 1人目の被害者・Aさんは中学2年のときにいじめに遭っていた。恋愛にも悩みがあり、高校1年のときに家出をしている。'16年8月、ネットで知り合った女性と自殺を図り、自分だけ助かった。罪悪感から入院先でも自殺未遂をする。'17年8月ごろ、死にたい気持ちはより強まった。

 このころ、白石は風俗スカウト時代の経験上、「自殺願望のある人は言いなりになりやすいと思っていた」(検察側冒頭陳述)ことから、ツイッターで「死にたい」「寂しい」「悲しい」などとつぶやく女性を探していた。

 白石は同年2月、売春させるのを知りつつ風俗店に女性を紹介した罪で、執行猶予判決を受けていた。釈放後、「まともな仕事はできないだろう」と考え、女性のヒモになろうと思いつく。そのため「一緒に住もう」とAさんを誘い51万円を振り込ませた。

 それから白石は座間市内のアパートを借りることになるが、ここでAさんだけでなく、ほかの8人も殺害する。

 白石に殺された被害者の心情は「自殺系サイト」に集まるユーザーの心情に近い。「死にたい」と打ち明けるだけで心理的に安定する。死にたい理由は、学校や夫婦関係、仕事の問題、精神疾患の悩みなど、さまざまだ。

 座間事件の裁判の傍聴に何度も通ったチカさん(仮名=20代)は、被害者の心情がわかるという。

「鍵付きのアカウントですが、私もSNSで“死んでもいい”とつぶやいたことがある。もし、鍵をはずしていたら、白石とつながったのかもしれないです。ネットは気軽につながれますよね」

 なぜチカさんは、そのようにつぶやいたのだろうか?

「コロナ禍でずっとひきこもっていて、大学も卒業できませんでした。生きていても意味があるのかな、と思っていたんです。友人数人に自殺をほのめかすLINEを送ったこともあります」

 最近でも座間事件と類似の事件は起きている。'19年9月、東京・池袋のホテルで、ツイッターで「死にたい」とつぶやいていた女性が大学生の男に殺害された。'21年3月にも、「自殺したい」とつぶやいていた19歳の女性の殺害未遂事件があった。

 居場所を求めても見つけきれないまま、今なお多くの若者たちがネット上で漂流している。

取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)ほか著書多数

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