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家族には言えなかった殺害理由、加害者本人からの手紙でわかった「家族間殺人」の真相

週刊女性PRIME / 2021年10月15日 11時0分

※写真はイメージです

 連日報道される殺人事件。日本で起きる殺人の半数は、家族間で起きているという。「野田市小四虐待死事件」「池袋暴走事故」ほか、これまで200件以上の加害者家族を支援、『家族間殺人』(幻冬舎新書)を上梓したNPO法人World Open Heartの理事長・阿部恭子さんが実例とともに家族間での殺人について伝える。あるとき、阿部さんに届いた加害者本人からの手紙。そこに書かれていたこととはーー。

* * *

 9月20日、東京都・羽村市で、息子への嘱託殺人容疑で保釈中だった77歳の女性が、今度は74歳の妹を殺害するという事件が起きた。女性は、自宅で転倒し骨折して身体が不自由になった妹から「苦しいから殺して欲しい」と頼まれ、電気コードで首を絞めたと供述している。次々と家族に手をかけた女性に一体何があったのか、注目が集まっている。
 
 このように、介護や育児の限界により、家族の将来を悲観した末の心中殺人、配偶者間のドメスティック・バイオレンス、虐待死事件など、家族間で起きる殺人は後を絶たない。全国的に報道されないケースも数知れず、もっとも身近で起きている殺人にもかかわらず、多くの事件は真相が解明されないまま世間から忘れ去られていく。

 一方で、加害者家族でありながら、同時に被害者家族でもある家族は、なぜ事件が起きてしまったのか、真実を求めてきた。ここでは筆者がこれまで見てきた実例を元に『家族間殺人』について考えていく。

殺人犯になった弟

「事件を知った時は耳を疑いました。まさか、あの子が人を殺すなんて……」

 ひとみ(30代)の弟・雅樹(30代)は、ギャンブルで嵩(かさ)んだ借金が妻に知られ、離婚を迫られるが受け入れられず、妻を殺害するに至った。

 世間ではよくある“ギャンブル好きの暴力夫による妻殺害事件”として片づけられ、よくも悪くも関心を集めることはなかった。

「弟は真面目に働いていましたし、暴力を振るう子ではありませんでした。奥さんのほうがしっかりしていて、尻に敷かれている雰囲気でした。借金だって、家族に相談してくれれば返せない金額ではないし、ギャンブルは嫌いだったはずなんですが……」

 ひとみが話すには、雅樹の母親(80代)は事件を聞いてから外出できなくなり、今では寝たきりの生活になってしまったという。“人を殺したんだから、死刑になっても仕方ない”と、息子に面会しようとも裁判に関わろうともしなかった。おそらく懲役17年を言い渡された息子と再会できる日は来ないだろう。

 弟を許すつもりも庇うつもりもない。ただ、何が弟を殺人犯にしたのか、真相が知りたいーー。ひとみはその一心で、真相を知るべく公判すべてを傍聴した。

「ああいう人、サイコパスっていうんでしょ」

 あるとき、傍聴人の会話が耳に入った。

 なぜギャンブルにのめり込むようになったのか、妻を殺さなければならなかったのか。結局、雅樹の口からその理由が明かされることはなかった。

隠された真実

「家族はまた深く傷つくと思いますが、どうかご支援の程宜しくお願いします」

 ある日、受刑生活を送る雅樹から、筆者のもとに手紙が届いた。そこには雅樹が事件を起こすに至った経緯が綴られていた。母や姉は知らないほうがいいと思ってきたが、残された子どもたちのためにも真実を伝えて欲しいと姉に諭され、手紙を書くことを決意したのだという。

* * *

 雅樹と妻の美沙(仮名・30代)は、交際を始めてまもなく、妊娠をきっかけに結婚した。

「子どもの世話で忙しいから、自分のことは自分でやってね」 

 雅樹が仕事を終えて家に帰ると、いつも美沙と息子は食事を済ませていた。休みの日でも家族で一緒に食事をすることはなく、雅樹はいつもひとりで外食をしていた。いつになっても自分の家という実感が持てず、パチンコや飲み屋に寄って深夜に帰宅する生活になっていたという。

 それでも美沙は、友人の家族と一緒にキャンプに行ったり旅行することが好きで、家庭の外では仲よくできていたのだ。
 
 ところが、美沙はふたり目の子どもを出産してから体調を崩すようになった。そのころから心配した雅樹の母親が、家事や子育てを手伝うために自宅に来るようになっていたが、

「クソババアまた余計なことして! あたしを馬鹿にしてる」

 と、雅樹の母親が作り置きしていった料理を、美沙が投げつけることもあったという。美沙は料理が得意ではなく、母の気遣いを馬鹿にされたと感じ激怒したのだ。

「まずいし、貧乏くさい!こんなもん食べて、まともに育つわけないでしょうが!」

 美沙はそう言いながら、次々とゴミ袋に流し込んでいった。雅樹は一瞬、怒りが込み上げたが、子どもたちがいたので喧嘩はすべきでないと感情を抑えた。雅樹は次第に、家庭のストレスからギャンブルにのめり込むようになっていく。

 そんなある日の夜、雅樹の父親が急に倒れたという連絡が入る。

 “あたしは関係ない”と言う美沙を置いて、雅樹はひとりで病院に向かうことになった。その日の明け方、父は息を引き取り、雅樹が帰宅すると、

「死んだ?ねえ、死んだの?」

「死んだんだ、よかったじゃん。寝たきりとかになったら面倒くさいよね」

 笑いながらそう話す美沙に、雅樹は初めて殺意が湧いたという。それでも雅樹は美沙に感情をぶつけることはできなかった。

 美沙の問題行動は続く。雅樹が夜遅くに帰宅した日に、長男が駆け寄ってきた。美沙の体調が悪く、夕食を済ませていないというのだ。雅樹はすぐに食事を作って与えた。美沙は娘だけに食事を与え、長男には与えていなかったのだ。

 さらには長男を怒鳴りつけ、蹴り飛ばすこともあったという。

「何すんだよ、やめろよ」

 ある日、倒れ込んだ長男を抱き起こす雅樹に、美沙はテーブルにあった封筒を投げつけてきた。それは借金返済の督促状だった。

「あんたも親父に似て馬鹿なんだから」

 雅樹の父親は経営に失敗し、破産していた。雅樹は沸々と殺意が込み上げてくるのを感じていた。これまで目にしてきた妻の言動、そして父の葬儀の間、ずっと友人と電話やメールをしていた美沙の姿も蘇ってきた。

「この子にもおんなじ血が流れてると思うと虫唾が走る! 本当に間抜けな家族!」

 そう言われた雅樹は、息子にお菓子を渡して子ども部屋に行くよう伝えたことまでは覚えているが、その後の記憶は定かではないという。我に返った雅樹が見たものは、血まみれで倒れている妻と返り血を浴びた自分の姿だった。

家族に絶対言ってはならないこと

 度重なる美沙からの両親を侮辱する言葉に、雅樹は殺意を募らせていった。息子への暴力と暴言を目の当たりにし、ついに理性が崩壊した。

 しかし、どれだけ酷い言葉を浴びせられようとも、人を殺していい理由には到底なり得ない。酒やギャンブルに逃げず、妻とコミュニケーションを取ることで問題を解決する努力を重ねていれば、事件は回避できたはずだ。

 家族を侮辱されたことへの憤怒は「家族間殺人」の動機として度々報告されている。

 たとえ自分の家族をよく思っていなかったとしても、他人から悪口を言われると傷ついてしまうのは、家族は自分の一部であり、自分まで否定されたように感じるからであろう。

 配偶者の家族と折り合いが悪く、悩みを抱えている人は少なくない。耐えられないことは率直に配偶者に伝え、話し合うことが重要だ。

 ただし、くれぐれも言い方には注意が必要である。他人に対して抑えるべき言葉は、家族に対しても控えるべきなのだ。 
 
 一瞬でも、家族に対して殺意が湧いたことがあるという人は、実は少なくないのではないか。他人ごとにせず、長く付き合う家族だからこそ気を付けるべきことを、今一度考えてみる必要がある。

阿部恭子(あべ・きょうこ)
 NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)、『家族間殺人』(幻冬舎新書、2021)など。

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