「ある日突然、カミさんが出て行った」玉袋筋太郎、激動の50代でやっと気づいたこと
週刊女性PRIME / 2024年6月1日 17時0分
「『週刊女性』なんて名前の雑誌に、『男性自身』みたいな名前の俺が出て大丈夫なの?」
そう豪快に笑い飛ばすのは、玉袋筋太郎さん。ビートたけしに弟子入りし、お笑いコンビ「浅草キッド」として活躍。洒脱で気取らない性格から、「玉さん」「玉ちゃん」の愛称で親しまれる、昭和を感じさせる芸人だ。
『美しく枯れる。』
「気がついたら50代になっていてさ。人間、50年も生きているといろいろありますよ。50代を生きるって、とても大変で難しいよね」(玉さん、以下同)
その言葉どおり、玉さんの50代は激動だ。52歳のときに、長年所属してきたオフィス北野(現・TAP)を辞めて、フリーの芸人として独立。相方である水道橋博士とは疎遠になった。プライベートでは、「俺に愛想を尽かして突然、妻が出ていった」と自戒を込めて告白し、認知症を患った母親は施設に居を移した。
「せがれ夫妻に子どもが生まれて、おじいちゃんにもなった。50代っていろいろなことが起こる。でも、トラックの荷台と一緒でさ、積み込みすぎるとよくないんだよね。過積載のまま運転したら事故が起きるでしょ。だから、起こった出来事を一つひとつ整理して、背負いすぎないようにしていくことも大事だと思うんだよね」
この3月、玉さんは50代に訪れた悲喜こもごもを吐露した『美しく枯れる。』(KADOKAWA)を上梓。「本の中で吐き出せたことで、自分自身、心の積み荷を軽くすることができた」。玉さん流の人生後半戦の歩き方ともいえる本書は、発売直後から共感の声が続出した。
「若いころのように、ギラギラし続けるなんてできないもん。身の丈を知るっていうか、老木には老木の美しさがある。加齢臭を蘭奢待のように味わいあるものにしたいよね。俺は年をとっていくことが悪いことだと思わないんですよ。最新のEVカーにはなれないけどさ、だったらこっちはクラシックカーになってやろうじゃないかって」
老いていくことで生まれる“味わい”や“深さ”がある。劣化ではなく、経年変化を楽しむことが、美しく枯れていくために必要なことだと語る。
「だって、俺の芸名は玉袋筋太郎ですよ。師匠(ビートたけし)からいただいた名誉な芸名だけど、若いときは、“玉袋筋太郎になっていかなきゃいけない”って気負いもあった。もし違う芸名だったら、好き勝手に酒を飲んだり、競輪をやったりしていなかったかもしれないんだから(笑)」
だが、50歳を超え、「それなりにこの芸名に見合う生き方ができているんじゃないか」、そう思えるようになったという。
「だったら、頑張りすぎなくてもいいじゃんって。ゆっくり枯れていくような人生の後半戦を楽しみたい。中には、ビッグモーターじゃないけど、除草剤をまかれて枯れちゃう人もいるんだからさ。自分が好きなことや大切にしていることを考えたいよね」
玉さんは、50歳を過ぎてフリーの道を選んだ。当時の心境を問うと、「不安だらけだった」と正直に振り返る。
「師匠が独立して、いなくなっちゃった。自分は、師匠がいない事務所に残り続けるよりも、師匠の教えを受け継ぎつつ自分の『看板』を掲げて、自分の足で歩いてみたかった。ラーメン店でもさ、○○軒がたくさんのれん分けして、いろんな場所に出店している。弟子が本店にとどまり続けるよりも、自分なりに受け継いだことを広げていくほうがいいと思った」
だが、相方である水道橋博士は、その考え方には賛同しなかった。
「博士には博士の考え方がある」と尊重しつつも、結果的に浅草キッドは無期限活動休止になってしまった。
「オフィス北野の看板もなくなって、長年やってきた仕事もなくなるのかな、なんて不安を感じていたんだけど、テレビやラジオのスタッフさんたちに『私たちは事務所と付き合ってきたわけじゃなく、玉さんと仕事をしてきました』って言われたときは、本当にうれしかった。独立して、心境的には屋台からのスタート。不安で倒れそうだったけど、支えてくれる人たちがいるから、今がある」
『お義母さんは帰ってこない!』
玉さんがレギュラーの『町中華で飲ろうぜ』(BS―TBS)は、今ではBS屈指の人気番組へと成長した。
「町中華は決して派手さはないけれど、いつも同じ味を提供することのカッコよさがある。自分の腕一本で生きている─そういう姿勢は独立した自分にとって、大きな刺激を受けている」
反面、独立してほどなく、長年連れ添った妻が出ていった。結婚したとき、彼女には前夫との子どもがいた。血こそつながっていないが、愛情を持って息子に接してきたことは、前著『粋な男たち』などでも綴っている。
「せがれは立派に育ったと思いたい。でも、カミさんには30年間、迷惑をかけっぱなしだった。堪忍袋の緒が切れたんだと思う。ある日突然、何の前触れもなくいなくなった。最初は、自分をごまかすために宇宙人に連れ去られたと思い込むようにしていたけど、ダメだった(苦笑)。寂しいやら情けないやらで、家に帰るたびに独房にいる気分ですよ」
自虐ぎみに笑う。
「カミさんは今でも経理をやってくれているし、孫の行事で顔を合わせることもある。離婚はしていないから、なんとかよりを戻そうといろいろ画策しているけど、せがれの嫁さんに『お義母さんは帰ってこない!』と突き放されて……ショックだった(苦笑)。やっと気づきました。自分ファーストじゃダメなんだって」
そう考えられるようになった背景には、初孫が生まれたことも大きかったという。
「孫の存在は、俺という老木に止まっているシマエナガみたいなもので、本当に愛おしいんですよね。その孫を育てているせがれ夫婦から教わることはとても多くて、自分にとって先生。父親の名前が玉袋筋太郎だよ? でもせがれはグレることもなかった。カミさんの教育がよかったんだろうし、せがれの根もよかったんだろうなぁ」
「偽らざる姿でジジイになりたい」
妻に未練があることを隠そうとしない。その姿は、背伸びをせずに身の丈で老いていく─50代を迎えた玉さんのポリシーのようでもある。
「カッコつけたってしょうがないもんね。それこそ心の底では、浅草キッドとして漫才をやりたいってずっと思っている。去年の年末に、かつて放送していた格闘技情報番組『SRS』(フジテレビ系)の同窓会みたいな集いがあって、久しぶりに博士と会った。今だったらどんな漫才をするかな、なんて話をしましたよ」
活動再開は、すぐには訪れないだろう。だが、玉さんはこう続ける。
「俺らはビートたけしの弟子だから、『絶対負けねえ』っていう気持ちでやってきたからさ。それは博士も同じ気持ちだと思う。兄弟子には順序で勝つことができないけど、漫才で評価されれば外側から見方が変わってくると思って、2人で腕を磨いてきた。そういう時代を共に過ごしているから」
生きていればいろいろなことが起こる。ひょっとすると、突然、時計の針が動き出すこともあるだろう。
「どうなるかはわからないけれど、ありのままに生きて、美しく枯れていく人生を目指していきたい。ただ酒を飲んでる時間とか、気の合う仲間と話すだけの時間とかさ、そういうことが大切だと思う。そんな些細なことが心を軽くして、過積載を防ぐから。俺がスナックを経営しているのもそう。嫌な気持ちを置いて、気持ちが軽くなれる場所って必要じゃん。いまだに俺は半人前だけど、偽らざる姿でジジイになりたい。そういう意味では、まだまだこれからなんだろうな(笑)」
取材・文/我妻弘崇
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