息子は有名私立の特進クラス、シングルファーザーのコウメ太夫「勉強しろ」とは言わない子育て
週刊女性PRIME / 2024年6月15日 16時0分
ネタ番組での大ブレイクから一転、仕事が激減してどん底の日々を過ごしていたお笑い芸人・コウメ太夫。そんなころ、離れて暮らしていた2歳の長男を引き取って育てることに。約15年を経て、息子は数学と将棋に熱中する成績優秀な高校生に成長した。時間とお金をやりくりしながら、子どもの決断を信じて見守る父親像がそこにはあった。
仕事が激減していた時期に息子を引き取る
最高月収400万円から、900円へ─。かつて“一発屋芸人”と呼ばれたコウメ太夫。収入が激減してどん底だったころ、離婚によって一時的に離ればなれになっていた2歳の息子を引き取った。
時は流れ現在、息子は私立高校の特進クラスに在籍中。成績優秀で、数学が大得意。お笑いには一切興味がないという。シングルファーザーとして一人息子に向き合ってきた、紆余曲折の15年間を聞いた。
「大学受験を控えているんでね、大事な時期なんです。数学は得意で、塾の先生からは今はもう手をつける必要はないと言われているくらい。課題はもっぱら英語。これがなかなか難しいみたいで」
おなじみの白塗り、かつらの太夫姿で真剣にそう語る。見た目以外は、高校生の子を持つどこにでもいる父親だ。
「行きたい大学は決まっているので、それに合った対策をしてくれる塾を僕がいくつか探して、息子に選ばせました。保護者面談ももちろん僕が行ってますよ」
2歳の息子を引き取って以来、実母とともに3人暮らしを続けてきた。子育てに協力してくれた母は今年、90歳になる。
「息子を引き取ったころは、仕事が激減していた時期。時間だけは十分にありました」
子育てにはお金がかかる。幸いにも、ブレイク中に貯めていたお金があった。息子と暮らし始めたのとほぼ同時期に頭金3000万円で投資用の2階建てアパートを購入。
ずいぶんと思い切った決断だが、家賃収入から月々のローン支払いを差し引いても生活費として毎月25万円ほどが手元に残った。
「とにかく時間だけはあるので、幼稚園の送り迎えも基本的に僕がしていました。たまに仕事が入っても、母がいてくれたので助かりましたね」
朝、幼稚園に送ってからスーパーマーケットで買い物。午後は園にお迎えに行き、簡単な夕飯を作る。一緒に食べ、一緒に入浴し、本の読み聞かせをして、寝かしつけた後が自分の時間だった。
「飲みに行きたいなんて、あのころは思わなかったなぁ。子育てって、自分のことは後回しで、子どもが優先。愛情があるからそれが当たり前にできちゃうんです。もちろん息子が寝た後はひと息ついて、好きなテレビ番組を見ながらビールを飲んだりしてましたけど。それで十分でしたね」
休日には2人で郊外へドライブしたり、鉄道博物館やアンパンマンミュージアムに出かけたり。子育ての大変さよりも、一緒にいられるうれしさのほうが大きかったという。
「仕事が激減して落ち込んでいた時期だから、息子といるだけでこちらが力をもらえたし、彼のために頑張らなきゃとやる気が湧いたりもしました。親がどんな思いで自分を育ててくれたのかとか、いろいろ気づきもありましたね」
「勉強しろ」と言ったことは一度もない
もちろん、うれしい、楽しいことばかりではない。幼稚園から呼び出されて困ったこともあった。
「僕のネタである『チクショー!』を、園で叫び続けているからやめさせてほしいと言われたんです。それに、女性の先生のお尻を触っているので注意してほしいと。おばあちゃんがいてくれるとはいえ、やっぱり本能的に母親とのふれあいを求めているんだろうなと感じましたね。いろんな事情があって、彼は母親と会えていなかったので」
一方で自身は、7歳のときに父親を事故で亡くしている。
「小さかったけど、記憶はちゃんとあるんです。一緒に海に行ったときに逆立ちしていた親父の姿とか、僕が砂浜で迷子にならないよう、名前や電話番号を書いた札を首からぶら下げられたこととか。ただただ、優しい父親でしたね。あのままずっと親父に甘やかされ放題で育ったら、僕はロクな人間になってなかったんじゃないかって思うくらい」
父親亡き後は、教育熱心な母親に育てられた。だが勉強が大の苦手で、学校の先生が何を言っているのかすらよくわからない。にもかかわらず、将来は医師を目指すよう母親に言われ、7人もの家庭教師をつけられた。
「医師や教師になっている成績優秀な親戚が多かったんです。でもね、僕は本当に勉強ができなかったんですよ。家庭教師が『こんな子は見たことない』って、さじを投げるくらい。なんで親は気づいてくれねぇんだよ、って思ってました。それがすごく嫌だったから、僕は息子に勉強しろって言ったことは一度もないです」
そんなコウメ太夫の息子は父親とは正反対。小学生のころから勉強がよくできた。将棋に夢中になり、近所の将棋サロンにも足しげく通った。その手筋を見た親戚から「この子はすごく頭のいい子だね」と言われたことも。
「もともと教育熱心な僕の母が、中学受験させてみたらどうかと。息子に聞いてみると、やってみたい! と言うんです。それで高学年くらいから塾に通い始めました」
いくつかの学校を受験し、難関の私立中高一貫校に見事合格。入学後は先生にかけあって将棋部を設立するなど、充実した学生生活を送っている。
「僕が小学生のころは、先生の言うことはまったく聞かないし、おしゃべりでうるさいし、おふくろはしょっちゅう学校に呼び出されていました。でも息子は、好きなことはとことん突きつめるし、我慢強いし、リーダーシップもある。僕とは大違いですね」
最近はドラマなど、素顔でのテレビ出演も増えているが、息子の友人に自身の存在を知られているかどうかはよくわからないらしい。
「学校の先生はもちろん知っています。友達も知らないはずはないと思うんだけど、彼はあんまりそういう話をしてこないんです。小さいころこそ僕のモノマネをしたりしていたけど、大きくなるにつれてほぼ興味がなくなってきたみたい。お笑いも全然見ないし、とにかく驚くほど数学が大好き。高校に進学してからは新たに数学部に入部しましたし、将来も数学に関する仕事に就きたいと言っています。それってどんな仕事なの? そんな仕事あるの? って、僕はよくわからないんだけど(笑)」
今のところは、反抗期らしいものもないという。
「4、5年前に一度だけ、大ゲンカしました。あまりにも態度が悪かったのでかなり強く叱ったら、翌日、彼から謝ってきましたね。それ以来、大きなケンカはないです」
将来ちゃんと自立してくれればいい
怒るときはしっかりと怒ると決めているが“こういう父親でありたい”という理想像はない。
「だって僕は僕だから、僕なりの親父にしかなれない。同じように息子に対しても、将来こうなってほしいという理想はないです。人はそれぞれ自分に合ったところで生きていくものだと思うから、興味のないことを無理にやったり、やらせたり、そんなの時間がもったいない。人に迷惑かけない限り、彼がやりたいことを貫いて、将来ちゃんと自立してくれればいい。ただその思いだけです」
親は手や口を出しすぎず、子の決断を信じて見守るべし。わかっちゃいるが世の親たちがなかなかできないことを、ごく自然にやってのけるコウメ太夫。父と息子の二人三脚は、これからも続いていく。
取材・文/植木淳子
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