「血便がひどくずっと“おしめ”」橋爪淳、大腸がんと闘いながらの撮影と7時間の大手術を語る
週刊女性PRIME / 2024年6月16日 17時0分
1982年東宝50周年記念映画『海峡』でスクリーンデビュー。さまざまな作品で活躍し、'80年代は大河ドラマでも常連の名俳優、橋爪淳。NHK『光る君へ』では25年ぶりの大河ドラマ出演を果たすものの、人知れずステージ3の大腸がんと闘いながらの撮影だったという―。
1年くらい前から血便が出てヤバイ状態だった
「検査を受けた時点で、すでに予感はありました。だから告知されたときも“やっぱりな”という感じで、それほどショックはなかったですね」
そう話すのは、俳優の橋爪淳(63)。4月3日、自身のSNSで大腸がんが見つかったことを告白。病室での写真をアップし、大きな反響を呼んだ。
「実はもう1年くらい前から血便が出ていて、かなりヤバイ状態だなという自覚はありました。ただ『光る君へ』の出演が決まっていたので、とりあえず撮影が終わってから検査しようと思って……」
NHK大河ドラマ『光る君へ』に、関白・藤原頼忠役で出演。昨年7月から撮影に入るも、体調はすぐれず、体力は限界にきていたと振り返る。
「撮影後半は妻に車を運転してもらって現場に通っていました。そのころには血便もひどく、便も漏れがちになっていて。ただ衣装は一度着たら簡単には脱げないので、ずっとおしめをしていましたね」
頼忠は政治力を持てず、失意のうちに関白を辞し息子に託す。頼忠の息子・公任役を演じたのは町田啓太(33)。くしくも自身の病状は役に重なり、また2人の関係性に反映された。
「立っているのもキツくて、撮影の合間はセットの階段に腰かけていました。本番で撮影場所まで5m歩くのも大変なくらいです。そうしたら啓太さんがすっと手を取ってくれて。頼忠が関白を辞める決心をしたのは、自分が病気で先が長くないのがわかっていたから。その思いを自分の中に落とし込み演じるようにしていました。そんなとき啓太さんが肩を支え、手を添えてくれた。そこで絆が深くなって、息子に見えた。啓太さんにはとても感謝しています」
頼忠の死は思いがけず早く訪れた。昨年11月に撮影を終え、病院へ駆け込んでいる。
「これも不思議なタイミングでした。妻が毎年大腸の内視鏡検査をしていて、近所の病院に予約を取ってあったんです。急きょ私が代わりに検査を受けさせてもらうことになりました。そのころには体重も7kg近く落ち、下血もかなりひどくなっていたので」
内視鏡検査を受けるも、病状は深刻だった。
「内視鏡が大腸の中に入っていかないと言われて……」
もう少しで人工肛門になるところだった
大腸がんと診断される。かねて懇意にしていた東京大学医学部附属病院の中川恵一医師に相談し、即入院。がんは5cmにまで成長していた。医師によると、20~30年かけて育ってきたものだという。
「ギリギリのタイミングでした。中川先生にも、よくここまで育てたものだねと言われて。あともう少しで人工肛門になるところだったそうです」
もともと大の病院嫌い。父は60歳のとき胆管がんで亡くなり、母もまた大腸がんを患ったことがあった。がんは身近にあったが、長らく病院を避けてきた。だが実は心あたりがあったそう。
「10年くらい前に便の検査で陽性になったことがあって、詳しい検査をしろと言われてはいたけれど、痔だと自分に言い聞かせて検査を受けてこなかったんです。今考えるともう本当にバカなことをしていたなって思うんですけど」
手術は今年2月下旬で、7時間かけての大手術となった。
「腹腔鏡手術で4か所お腹に穴をあけました。ただ5cmのがんを摘出するには、大腸を20cm切らなければいけない。そのためおへその下を5cmほど切っています。あと大腸の裏のリンパ節に転移している可能性があるといわれていて、実際手術で40個取ったうち2個にがんが見つかっています」
手術は無事成功。しかしひどいめまいと幻視に悩まされ、感慨に浸っている暇はない。
「目を閉じていると、幻視でロボットのようなものが見えたり、花がたくさん見えたりする。だからといって目を開ければ世界がぐるぐるずっと回っていて、天地がひっくり返ったような状態です。手術後3日間はもう地獄でした」
励みになったのが医師や看護師の支え。彼らの献身的な姿勢に胸を打たれたと話す。
「恐怖心を包み隠さず先生に話していたら、大丈夫ですよと言って、手術のとき先生が手を握ってくれて。看護師さんたちも本当によくしてくれて、前向きになれた。彼らの献身にもう何度泣かされたかわかりません」
1か月余りの入院生活を経て、3月に退院。3月31日放送の『光る君へ』第13話で息子・公任のセリフにより頼忠の死が明らかにされると、自身のがん公表に踏み切った。
「がんは男性の3人に2人、女性の3人に1人がなる病気。でも早期発見すれば治る可能性は高くなる。私のように怖がったり忙しさを理由に検査をしない人を少しでも減らしたいという思いがありました」
入院・手術を経て、体重はマイナス15kgまで激減。体力を取り戻すべく、退院後はまずリハビリに打ち込んだ。
「退院してから1か月は信号と信号の間を歩くのも必死でした。まずは信号1つ、その次は2つと、少しずつのばしていって。今は意識して食べるようにしています。体重も少し増えて、4kgくらいは戻ったかな」
現在は2週間に一度のペースで通院し、血液検査と抗がん剤治療を継続している。
体調も回復し、4月初めに自身が講師を務める「非・演技塾」で現場に復帰。秋には舞台出演も控えている。
大病を乗り越え、意識が大きく変わったと語る。
「運命論者じゃないけれど、がんになったらそれが自分の寿命だと思っていたんです。だけどいろいろなタイミングが重なり、あれよあれよという間に手術ができた。60歳を過ぎて、今新たに命をいただいたんだと実感しています」
彼にとって、この大病は2つ目の大きな転機。第1の転機は50歳のときのこと。「50歳までダメダメな役者人生でした」と自嘲し、心機一転演技の勉強を始めている。
今回の病気は「神様がくれたプレゼント」
「演技は全然できないし、自己中心的で、仕事もだんだんなくなってきた。仕事がないということはお金もなくて、ニッチもサッチもいかなくなってしまった。ロケに行ったとき“この飛行機が落ちてくれれば残りのローンが払えるのにな”と思ったり、自暴自棄になった時期もありました。でも演技が少しでもうまくなれば、もう一度役者として復帰できるのではと考えて─」
演技を学び直し、道が開けた。かつては大河の常連で、1983年の『徳川家康』に始まり、『春日局』、『信長 KING OF ZIPANGU』、『徳川慶喜』、『元禄繚乱』と出演を重ねてきた。
「今また大河に出していただける俳優に戻ってこれた」と言うとおり、今回『光る君へ』で25年ぶりの大河出演を叶えている。
演技の勉強を経て開講したのが「非・演技塾」。生徒はプロの役者に限らず、幅広く演技の魅力を伝えている。そこでの気づきも多いという。
「演技を勉強し、そしていろいろな人に演技をお伝えすることで、自分に向いていた意識が相手に向けられるようになった。これはもう死ぬまで学んでいかなければダメだなと日々感じています。演技というのは非常に面白い。演技が好きだということに、演技を学ぶようになってから気づきました。呼んでいただける限りはこの仕事を続けていきたい。今回の病気も“さらに頑張れよ”って、神様がくれたプレゼントなのかな、なんて思っています」
取材・文/小野寺悦子
はしづめ・じゅん 1960年、東京都生まれ。出演作は映画『ゴジラVSスペースゴジラ』、ドラマ『若大将天下ご免!』、舞台『細雪』など。NHKでは大河ドラマのほか、『小吉の女房』、連続テレビ小説『エール』などにも出演。現在「まなびのスペース スタジオファジオス『非・演技塾』」の講師も務める。9月より舞台『本能寺が燃える』に出演。
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