「そのお肉の食べ方、大丈夫?」脳卒中・心筋梗塞を招く命を縮める“危険なお肉”
週刊女性PRIME / 2024年6月29日 11時0分
空前のプロテインブームが続き、炭水化物を抜いて肉をメインに食べるダイエットや、「高齢者のフレイル予防には肉を食べたほうがいい」という考えも広く浸透している。しかし、そこには意外な落とし穴がある。
「肉は筋力の維持などに欠かせないタンパク源ですが、食べ方に気をつけないと、健康寿命を縮めてしまう可能性があります」
と警鐘を鳴らすのは、腎臓専門医の高取優二先生。
「肉に含まれる必須アミノ酸は、とりすぎると老化を促すことがわかっています。そして特に、腎臓の衰えを加速させ、慢性腎臓病のリスクを高める要因が、肉の食べ方に関わっているのです」(高取先生、以下同)
多くの人が抱いている健康イメージとは真逆の側面があるというのだ。
成人の5人に1人が患う“慢性腎臓病”
近年注目されている“慢性腎臓病”とは、腎臓の働きが慢性的に低下した状態の総称。患者数は増加傾向で、2020年に発表された推計データでは、成人の5人に1人が罹患(りかん)し、“日本人の新国民病”といわれている。
「悪化すると、心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクが上がります」
腎臓は、身体の中で目立った働きをしていないと思われがちだが、実は老化を防ぎ、寿命を延ばすためには非常に重要な臓器だ。
「血液中の老廃物や毒素を濾過(ろか)し、尿によって体外に排出させるのが腎臓の役割の一つです。老廃物の排泄(はいせつ)といえば多くの人は便を想像しがちですが、便よりも尿が重要。
便は2、3日出なくても健康に大きな害はありませんが、尿が丸一日出なければ、汚れた血液が身体中を巡り、命の危機にさらされてしまうんです」
そんな重要な働きをしていながら、腎臓の大きさは30代をピークに、加齢とともに縮小し、機能も衰えていく。
「腎臓の濾過機能は、健康な人でも40代ごろから落ちていきます。さらに、食生活の乱れなどにより糖尿病や高血圧になると急激に低下。そして、一度失った機能は戻すことができません」
腎臓の機能低下は自覚症状が出にくいため、気づかないまま進行し、むくみやだるさなどの症状が出たときにはすでに腎不全で手遅れということが多い。
「ですから、早い段階で生活習慣を見直し、腎臓機能が落ちるスピードを速めないことが重要なのです」
間違った肉の食べ方に潜む3つのリスク
では具体的に何がよくないのか。まず、タンパク質に含まれる必須アミノ酸の一つ、メチオニンという物質。
「メチオニンは、肉類、鶏卵、魚介類、乳製品に多く含まれています。必要以上にとりすぎると、血管の中に蓄積して悪玉コレステロールと結合することで、動脈硬化を引き起こします」
カロリー制限の効果を検証した動物実験では、栄養全般でカロリー制限をした場合、寿命は延びたが筋力が低下。一方、必須アミノ酸(タンパク質)を多く含んだエサでカロリー制限をした群では、筋力は保持されたが、腎機能が悪化し寿命が短くなった。
しかし、必須アミノ酸のうちメチオニンの含有量を減らした場合、カロリー制限をしても筋力が維持され、寿命も延びたというデータが出ている。
「つまり、タンパク質をたくさんとることで筋力は維持できますが、そこに含まれるメチオニンをとると、腎臓機能が衰え、カロリー制限による長生きのメリットが得られなくなってしまうのです」
メチオニンは、鶏むね肉や豚ロース赤身肉などに多く含まれる。“むね肉や赤身肉は低脂質でヘルシー”といったイメージだけで、偏った食べ方をすることは避けるべきだ。
「同じタンパク質でも、大豆製品などの植物性タンパク質は、おしなべてメチオニンが少ないことがわかっています。タンパク質をとる際に選択肢がある場合は、動物性食品よりも、大豆製品などの植物性タンパク質を選ぶのがおすすめです」
赤身肉やレバーがリンのとりすぎにつながる
他にも、腎臓のリスクとなるのが、加工食品などに多く含まれるリンの過剰摂取。
「リンは、私たちが生きていくうえで必須のミネラルで、カルシウムとともに骨格を形成する働きもあります。しかし、過剰に摂取することでリンとカルシウム、血液中のタンパク質が結びつくと、血管の内側を傷つけて炎症を起こし、腎臓の機能低下や老化を早めるのです」
なおリンには、食材にもともと含まれている有機リンと、加工食品の食品添加物として使われている無機リンがあり、身体への吸収率は有機リンが10~40%に対し、無機リンは約90%と非常に吸収されやすい。
「まずはファストフードやコンビニ食、加工食品の利用を減らすことが第一ですが、赤身肉や内臓肉にも比較的多く含まれるので注意が必要です。豚肩赤身肉や牛肩赤身肉、牛レバーは、タンパク質量のわりにリンが多いので、食べる頻度が高い人は見直しを」
貧血予防にレバーばかり食べるという食習慣もNGだ。
「近年の研究で、マグネシウムに腎臓を守る働きがあることが判明しています。マグネシウムは、ほうれん草など緑色の鮮やかな野菜に豊富に含まれますので、肉食が多い人は、副菜として積極的にとるといいでしょう」
腸で作られる悪玉菌も腎臓にリスクが
人間の腸内には約3万種もの細菌が生息しており、顕微鏡で見ると花畑(フローラ)のように見えるため、腸内フローラと呼ばれている。実はこの腸内フローラも腎臓と関係がある。
「タンパク質多めの食事を続けていると、腸内細菌のバランスが崩れて腸内フローラの中の悪玉菌が増え、そこから発生する毒素が腎臓にダメージをあたえます」
さらに、肉類はほとんどが腸で吸収されるので、便の量が減り、蠕動(ぜんどう)運動が弱まって便秘になりがち。便秘の人は慢性腎臓病のリスクが高まるというデータもある。
「腸内で産生される悪玉菌毒素を減らすためには、善玉菌のエサになる発酵性食物繊維の摂取が有効です」
身近な食品でいえば、“もち麦”。発酵性食物繊維の一つであるβ(ベータ)グルカンを豊富に含むもち麦を肉と一緒に食べることで、悪玉菌による腎臓ダメージを軽減できる。
「一番のリスクは、肉の同じ部位ばかり食べる、連日食べるなどの極端な食べ方。腎臓のダメージを減らす食品と合わせたり、肉を植物性タンパク質に置き換えることを心がけましょう。
肉をまったく食べてはいけないということではなく、例えば週2回程度に抑えるなど、今から食生活を見直していくこと。それが今後の老化を緩やかにし、慢性腎臓病のリスクを下げることにつながります」
教えてくれたのは……高取優二先生●医学博士、腎臓専門医。埼友クリニック外来部長。抗加齢医学(アンチエイジング)の観点から、腎臓病を捉えなおす新たな手法に取り組んでいる。著書に『人は腎臓から老いていく』(アスコム)など。
取材・文/當間優子
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