65歳以上の約3割が罹患、精神科医に聞いた「喪失感が引き金に」認知症を招く “老後うつ”
週刊女性PRIME / 2024年7月14日 11時0分
“うつ”というと、いわゆる五月病の季節や、日照時間の減る晩秋~冬にかけて増える印象だが、実は夏も、うつになりやすい。特にシニアには要注意な季節だ。
「夏になると寝苦しい夜が続きますが、実は暑さによる睡眠不足や食欲不振などは、高齢者のうつ、いわゆる“老人性うつ(老後うつ)”の誘因になることがわかっています」
こう話すのは、精神科医で、保坂サイコオンコロジー・クリニックの保坂隆院長。先生のクリニックには、日々、うつの症状を訴えるシニアが訪れる。超高齢化が進む日本では、シニア人口の割合が増えるにしたがって、「老人性うつ」が急増しているという。
「高齢者は自律神経の働きが鈍って、暑さ・寒さを感じにくくなりがち。本人は気づいていなくても、さまざまなストレスを受けていることもあります。夏は特に、室内温度の調節や、バランスのとれた食事、水分補給に注意して、不眠や食欲不振に備えてください」(保坂先生、以下同)
年を取るとストレス耐性が低くなる
高齢化によって急増しているという「老後うつ」。そもそも、シニアがうつに陥る原因とは?
「うつは年齢に関係なく、心身へのストレスが原因で発症しますが、シニアの場合だと、例えば定年で会社を離れたり、配偶者と死別したり、子どもが独立したりして、喪失感をきっかけにうつになりやすいのです。
最近はひとり暮らしの高齢者数が多くなり、うつ症状を訴える方が急増しているようです」
「好々爺(こうこうや)」などという表現があるように、年齢を重ねると性格も柔和になると想像しがちだが、一方でキレる老人のニュースなども耳にする。実際はどうなのだろう。
「もとの性格にもよりますが、シニアになるとストレスへの耐性は低くなります。これは、感情のコントロールをつかさどる脳の活動が弱まるから。
こうなると、他人を理解したり、相手とコミュニケーションを取り合ったりするのが面倒になってきます。そのため、思いどおりにいかないことが増えて、大きなストレスを感じるようになるのです」
また、若いころの自分と比べて「白髪が増えた、肌につやがなくなった」「昔できていたことができなくなった」など、加齢による当然の変化を受け入れられず、自己評価を下げてしまう。
さらに「病気になったらどうしよう」「年金で暮らしていけるのだろうか」「伴侶に先立たれたらどうしよう」など、行く末に不安を抱いたりして、うつ状態になってしまうこともあるという。
深呼吸や大笑いで気分を上げる
意識もはっきりしていて身体も動くのに、幸福感が得られない。そんな「老後うつ」は、隠居したらのんびり悠々自適に……という「幸福な老後の暮らし」を奪ってしまう。
「怖いのは、老後うつをきっかけに、外界との接触が減って、それがロコモティブシンドローム(運動器症候群)を引き起こし、足腰が弱って、寝たきりや認知症の原因になってしまうことです」
うつから認知症や寝たきりへと至る負のスパイラル。陥らないために、できる対策はあるのだろうか。
「認知症と違って、うつは自分の気持ちや行動を切り替えることで解消される場合もあります。例えば、加齢による衰えは、“自分ではどうにもならないことがある”と自然体になって現実を受け入れる。
また、“〇〇すべき”“〇〇でなければならない”というこだわりを捨て、肩の力を抜いて頑張りすぎないようにする、などです。今まで一生懸命やってきたのだから、そろそろ“いい人”はやめて、もっと適当に生きてはいかがでしょうか」
普段からマメに深呼吸をして、脳に大量の酸素を送り込む。また、大声でよく笑うようにすると、脳内に「幸せホルモン」とよばれるオキシトシンが充満して、悩みや不安を吹き飛ばしてくれるそう。
簡単にできることなので、さっそく試してみたい。
家族やパートナーにできること
親や、パートナーがうつかもしれない、と思ったら、家族はどのように対処したらいいのだろう。
「まずは、親やパートナーが、無為に時間を過ごしている様子はないか、“自分が必要とされていない”というあせりなどは見られないか、よく観察してみてください」
そして、意識が外に向くように、習いごとや、旅行などに誘ってみるのも、いいそう。
「また、ちょっとしたことでも、“あなたに頼んでよかった”“やっぱりあなたがいないと”などと、相手の存在を評価するような言葉をかけるようにしましょう」
相手をよく観察して、まめにコミュニケーションを取ることが、うつの早期発見・早期解決に役立ちそうだ。
教えてくれたのは……保坂 隆先生●精神科医。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長。1952年、山梨県生まれ。慶応義塾大学医学部卒業。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授などを経て現職。近著に『精神科医だから知っている「老後うつ」とは無縁の暮らし方』(主婦と生活社)がある。
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