「家族とは絶縁してます」坂本ちゃん『電波少年』東大受験でブレイク後の苦悩と覚悟
週刊女性PRIME / 2024年7月20日 21時0分
'92年から'03年まで放送された『電波少年』シリーズ。アポなし突撃、ヒッチハイク、無人島脱出、東大受験など今では考えられない無謀な企画のオンパレードだった。当時は出川哲朗や有吉弘行らも番組に出ていたが、思いもよらない転身を遂げた人もいて……。
「もし、『電波少年』に出演していなかったら、どんな人生だったんだろう……」
そう語るのはタレントの坂本ちゃん。
2000年、日本テレビ系のバラエティー番組『進ぬ! 電波少年』で、最高学府・東京大学を目指すという企画『電波少年的東京大学一直線』が放送された。
不可能だろう――、誰もがそう思った企画に挑戦したのが、学生服を着てハチマキを巻いた当時34歳の坂本ちゃんだった。
マンションで女性といきなり共同生活
同年7月、偽の番組企画で呼び出された坂本ちゃんは、番組スタッフに拉致される。連れていかれた先は、
「都内にあるマンションの一室でした。到着してアイマスクとヘッドフォンが外されると、目の前に女性がいたんです。女性は、未知の生物に遭遇したかのようなおびえた目で、私を見ていたのを覚えています」(坂本ちゃん、以下同)
それが“運命共同体”となる、春野恵子さんこと東大卒の家庭教師として呼ばれていたケイコ先生だった。
「彼女も、たまに勉強を教えに来るぐらいなのんきな気持ちで来たようで、一緒に生活すると聞いて驚いていました。得体のしれない男と同じ部屋で過ごすことになって怖かったでしょうが、それは私も同じでした」
今でこそ同性愛者であることを明かしている坂本ちゃんだが、当時は公にしていなかった。
「私を1人の男性として見ていたら……、アッチからモーションかけられたら、どうしよう……、みたいな(笑)。ケイコ先生はベッドで、私は布団で寝ていたんですが、夜にガサッと物音がすると“まさか……”と、ビビってました。結局、そんなトラブルはいっさい、なかったんですけどね(笑)」
ときには2人で“ズル”も
到着したその日から、勉強をスタートしたが、思うようには進まない。
「学生時代から15年以上たっていましたから、引き算もわからなくて。15引く8すら指を使って計算していたぐらい。東大なんて絶対無理だって思っていたんですが、ケイコ先生はずっと“絶対に大丈夫だから”って励ましてくれて。ケイコ先生の言葉って、すごく安心するんです。今も何かあると彼女の言葉が頭に浮かぶんです」
とはいえ、お互い出会ったばかり。このときはまだ、心から信頼していたわけではなかった。
部屋の外に出ることは許されず、毎日行われるテストで80点以上を取れなければ、2人とも食事ナシ。勉強内容もわからず、何も食べ物を口にできない日々が続いた。精神的に追い詰められ、張り詰めた気持ちの糸が切れたときのことだった。
「私はイライラすると無言になって、しゃべらなくなる性格なのですが、当時も勉強で間違えると、ケイコ先生にワーッと言われて無言になっていました。私は、それまでの人生で人と腹を割って話すということをしてこなかったんです。常に両親や友だちの顔色をうかがっていて……」
そのとき、ケイコ先生は坂本ちゃんにこう問いかけた。
「彼女は“どうして黙っちゃうの?”と優しく聞いてくれて、私は人生で初めて自分の意見を言えたんです。ケイコ先生も“企画どおりに一生懸命やっているのに”という思いがある一方で“自分の思いを伝えるだけじゃダメなんだ”と気がついたようでした。そこで、お互いの気持ちを吐き出して一緒に泣きました。そのとき、はじめて素の自分になれたと感じました」
絆を深めた2人は、一致団結して前を向いた。ときには“ズル”をしたことも。
「スタッフさんは、私たちの隣の部屋にいて、ときおり撮っているテープの回収に来るのですが、ケイコ先生は誰が何曜日の何時に来ると記録をつけていて、そのパターンをすべて把握した段階で“外に出よう”と言うんです。幸いなことに、マンションの鍵は開いていましたから、ガムテープで靴を作って2人で近くのコンビニに行きました」
それはちょうど夏の終わりごろだったという。
「ケイコ先生が持っていた小銭で肉まんを買って、中学校の石垣に座って食べました。秋の風が吹いて、すごく気持ちよかったのを覚えています。不思議な夜でした。興奮した私は、部屋に帰ってから“次はいつ外に行く?”と言ったんです。するとケイコ先生の顔がみるみるうちに曇っていって……」
異変を感じた坂本ちゃんが後ろを見ると、鬼の形相をしたスタッフが立っていた。それ以降は監視が厳しくなり、二度と勝手に外出できる機会はなかった。
「スタッフに叱られただけでなく、ケイコ先生にも“坂本ちゃんには、もう何も言えない”と怒られました(笑)」
身近な関係に大きな変化
年が明け、第一関門である『センター試験』に臨んだが、東大の受験資格を得るために必要な点数が足りずに撃沈。番組の企画は『どこでもいいから一直線』に変更され、大学受験を継続することに。
「知識が増えていく喜びは快感でした。このころには、だんだんと英文が日本語みたいに読めるようになっていました。数学は最後までダメでしたけど……」
最終的に8校に合格する快挙を果たし、日本大学への入学を決めた。しかし、大学には7年間在籍した末、結局は中退することに。
「入学して2~3年は仕事が忙しくて、大学にはまったく行けませんでした。朝から晩まで働いていましたから。仕事が落ち着いてきて、余裕ができたから学校に行こうと思ったのですが、なんせ入学当初のオリエンテーションを受けておらず、どうやって単位をとればいいかわからない。受験のときのようにケイコ先生がいれば教えてくれたんでしょうけど、もうそばにいなかったので……」
とはいえタレントとしては大ブレイクを果たした。
「月収800万円から900万円ほどのときもありました。タレントとして売れることが目標でしたから、うれしかったです。なので『電波少年』には感謝しかありません」
その一方、身近な関係に大きな変化も。
「家族とは縁を切っています。もう20年以上、連絡を取っていません」
収入が増加した当時、最初は実家にお金を送っていたが、次第に金の無心が加速。数千万円を渡して、稼いだお金はほぼ手元から消えてしまったという。悩んだ末に家族と関係を断つことを決めた。
「母親は今、認知症になって施設に入っているようです。市役所から私に、母が施設に入るために後見人になってほしいと連絡があって知りました。私は心を鬼にして拒絶しました。後見人には弁護士がなっています。母に会えば情が出てしまう……。だからこそ縁を切らないと、自分もダメになってしまうと思って」
“未知の生物”から“家族”へ
それで1人なったとしても、寂しくはないと続ける。
「今はタレント活動の傍ら、東京の新宿にあるゴールデン街のバーで週1回、店頭に立っているのですが、店のオーナーさんや、同じ事務所の岡元あつこさんなど、親身になって助けてくださる人がいますから、全然寂しくありません。小学校で友達100人できるかなって歌がありましたが、これって友達は多ければ多いほうがいいっていう“洗脳”だと思う。ものすごい波長が合うパワーのある友人が2、3人いれば、それで幸せだと思っています」
その友人の中には、かつて運命を共にしたあの人も。
「ケイコ先生とは今も連絡をとりあっています。会えば毎回“坂本ちゃんは家族のようなものだから”と言ってくださって、いつか恩返しができればと思っています」
時は流れ“未知の生物”から“家族”へと、その関係性は変わった。最近は、健康の大切さを実感しているという。
「昨年の秋に健康診断を受けたら、ほぼ、すべての検査項目の数値が悪くて……。なので、それから毎日歩いて20kgやせたんです。受験で知識が増える喜びと同じように、やせることも自分の自信につながっています。今後は、自信のなかった自分から脱却して、大好きな人と愛し合うような素敵な恋愛も経験したいですね。だからこそ、もっともっと動けて楽しめる時間を長く作れるように、健康が1番大切だと感じています」
24年前、マンションの1室から坂本ちゃんの人生は大きく変わった。そのとき巻いていたハチマキは、今も大切に保管しているという――。
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