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「カタカナが思い出せない…」61歳敏腕記者を襲った認知症、“ボケの恐怖”と“体当たりの早期治療”

週刊女性PRIME / 2024年8月25日 8時0分

※写真はイメージです

 新聞や雑誌の記者として、40年以上にわたり、さまざまな現場の最前線で活動を続けてきた山本朋史さん(72)。そんな山本さんが、自身の脳に異変を感じたのは61歳を過ぎたころだった。

「いちばん大きな不安を感じた出来事は取材をダブルブッキングしてしまったことですね。30年以上記者をやってきてそんなミスは一度もしたことがなかったし、人にも迷惑をかけてしまったことがショックで……」(山本さん、以下同)

 ちょうどそのころ、インタビューでメモを取るときに、難しい漢字はおろか、カタカナが出てこないことがあったり、人に対して感情のコントロールがきかなくなることがしばしばあったという。

「認知症かも」不安を募らせ病院へ

「お店で頼んだものが出てくるのが遅かったりすると、“どうして僕のだけ遅いんだ!”と大きな声で怒ったりしてしまうことがあって、これは何かおかしい、と思ったのです

 認知症を疑った山本さんは、東京医科歯科大学病院の「もの忘れ外来」を訪れる。CTやMRI検査を経て、診察にあたってくれた朝田隆医師から、認知症になる前の軽度認知障害(MCI)であることを告げられる。

「認知症になる前の初期の症状だっていうんですが、僕は毎日原稿を書いていましたし、脳に刺激を与えているんだから、まさか認知症になるわけがないと思っていたんです。でも、放っておくと4年で半数の人が認知症になると聞いてビックリしました

 このまま症状が進んで認知症になれば記者の仕事も続けられなくなる。

 症状の進行を抑えるための選択肢には、薬と朝田医師が推進しているデイケアでの認知力アップトレーニングがあると説明を受けた山本さんは、デイケアに通い自力で認知力を回復するほうを選んだ。

 ただ、週に1回デイケアが行われている茨城県の筑波大学へ通うとなると仕事に支障が出る。そこで職場に相談したところ、治療の実体験ルポを、当時在籍していた『週刊朝日』で連載することを提案され、仕事と治療を両立して進められることになった。

誌面で実名を出すことには少し抵抗があったんです。でも職場の理解や、同じ仕事をしていた妻の後押しもあって、仕事と治療が同時にできたのはありがたかったです」

 そしてそれが、同じ悩みを抱える人たちの一助になれたらうれしい、という思いもあったという。

効果があると聞けば、なんでも試した

 デイケアでは、数十人の参加者たちと共に、認知ゲームやダンス、美術、音楽と、さまざまなプログラムに取り組んだ。なかでも山本さんがいちばん効果を感じたと話すのが「本山式筋トレ」。

 インストラクターの本山輝幸さんが考案した負荷のかかる強めの筋トレで、筋肉の刺激を脳に伝える“感覚神経”の働きを高めて、脳に刺激を与えることがわかっている。

「感覚神経が脳につながっていないと、痛みや疲れを感じなくなるんです。よく年を取ると暑さや寒さを感じにくくなるっていいますけど、鈍くなるんですね。何十キロも徘徊して行き倒れになる認知症の人がいますけど、それも疲れとか痛みの感覚を感じられないからだといわれています」

 感覚神経がきちんと働いているかどうかをチェックするには、スクワットなど強度の高い運動をすること。そのとき、筋肉に痛みを感じにくいという人は要注意だ。山本さんも最初のころは痛みの感覚を感じにくかったという。

「3か月ほどで痛みを感じるようになって、いまでは胸や腕の筋肉を動かせるまでになりました。ある程度、負荷の強い動きでないと痛みを感じにくいので、スクワットやダンベルを上げる動きが有効だと思います。鍛えている部位を意識しながらやるのがポイントです」

 デイケアでのトレーニングに加えて、生活習慣も改善していった。

「当時は、家に帰るのは午前様みたいな生活だったんですけど、できるだけ早く帰って早く寝て、お酒を飲む回数も少なくして深酒もやめました。睡眠障害があり、睡眠導入剤を何年も常用していたんですが、先生に相談しながら徐々に少なくして、服用をやめました

 食事も見直した。

「バランスのいい食事に気をつけて、青魚や野菜は意識してとるようにしています。自分で気をつけないとダメだと思うので、買い物も自分でして。事務所に朝早く行って、みそ汁やサラダを作って食べています」

 料理をすることは、段取り力を養い、脳を活性化させると考えられ、認知力アップトレーニングのひとつにもなっている。

劇的にミスが減って、進行もストップ

 現役時代に忙しかった人ほど、仕事を辞めた後もそれまでと同じような生活を送るのが大事、と山本さん。

「会社を辞めた後に陥りやすいのが、家に閉じこもってポカンとテレビを見て過ごすこと。そうならないために、日常にいくつか習慣をつくることが大切だと思います。僕の場合は、デイケアのほかに、自宅でも本山式筋トレを行い、絵を描いたり音楽を演奏する。

 スポーツクラブでヨガやピラティスのレッスンを受ける、それにときどき仕事も入ってくる。そうすると1週間ほとんど埋まってしまうんです。友達もできて、話もできて、気分も変わって、症状を止める効果が出るんじゃないかと思います」

 知り合いの中には、デイケアに通ったけれど数回でやめてしまった人もいるそう。

そのうちの数人は、その後、症状が進んで施設に入ったそうです。長年通い続けていたら、僕みたいに良くなっていたかもしれないので残念ですね

 デイケアでのトレーニングも今年で10年。途中、朝田先生の都内のクリニックに場所を移して、現在も週に1~2回のペースで通っている。個人差はあるけれどと、断ったうえで、山本さんご自身は開始から3か月ほどで効果を感じたという。

「頭の中に靄がかかっているような状態が前はよくあったんですが、そういうのがなくなって、何もしないでボーッとしている時間もなくなりましたね」

 新しいことをやりたいという意欲も湧くようになったそうだ。

「ヨガをやるにしても、以前なら女性ばかりの中に入るなんて絶対できなかったけど、リハビリになるかもって思ったら参加できるようになりました。新しいことに興味や好奇心を持つことも認知症予防に大切だと思いますね

 また、10年前からタブレットのカレンダーに、「カギを忘れた」「電気を消し忘れた」といった“今日のミス”を書き留めているという。

「最初のころは1か月で最高64回、1日最低2回はミスをしていたのが、2~3年後には月に15回、いまでは多くても月に5回程度にまで減ったんです。ミスが完全になくなることはないけれど、ミスしてもすぐに気づくようになったし、ミスしても落ち込まないようになりました」

 2020年には、症状が止まったと主治医からもお墨付きをもらったという。72歳になる現在も、フリーの記者として週刊誌や月刊誌、会報誌などの仕事を精力的に続けている。

「いまは良くなっているけど年を重ねていって、また認知症になる確率はほかの人より高いかもしれない。そう思ってトレーニングを続けています。がんみたいに病巣を取り除いたらよくなる病気じゃないからこそ、早く発見できてよかったです。

 MCIにいちばん早く気づけるのはほかでもなく自分だと思うので、おかしいなと思ったら早めに受診することが大事だと伝えたいです

山本朋史(やまもと・ともふみ)●1952年生まれ。毎日新聞社を経て、'83年に朝日新聞社に入社。'86年からは『週刊朝日』編集部へ。リクルート事件、KSD事件、オウム事件などを取材。副編集長を経て、編集委員に。現在もフリーの記者として活動中。


取材・文/荒木睦美

 

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