「低い山でも事故は多い」秋のレジャーに潜む事故!遭難のプロに聞く、クマだけじゃない危機
週刊女性PRIME / 2024年9月7日 6時0分
猛暑が落ち着いてくるとアウトドアレジャーを楽しむ人も増えるが「遠足や、ちょっとしたハイキング気分で出かけて遭難してしまったり、最悪、命を落とすケースもある」と、山岳遭難防止アドバイザーは注意を呼びかける。実際に起こったアウトドアでの死亡事例を紹介。安心、安全を改めて確認して!
高尾山のような低い山でも事故は多い
“自然”は私たちの心を癒してくれるが、時に危険な牙を剥く。
「山や川、海であれ、野外のレジャーには、さまざまな危険が潜んでいます。そのことを認識していないと、ケガではすまず、命を落とすことにもなりかねません」
そう話すのは、山岳遭難などに詳しいフリーライターの羽根田治さんだ。実際、行楽シーズンに新聞やテレビを見ていると、山での遭難事故や海・川での水難事故、中にはクマのような野生動物との遭遇など、痛ましいニュースを目にする。
日本人にとって身近な富士山では今年、インバウンドの影響などで準備不足や体力不足の登山者が増えて夏山遭難が多発。7月の山開き初日から8月1日までで、すでに7人も亡くなっている。
「富士山は標高差が大きく、行動時間が長くなる分、身体に大きな負担がかかります。実は日本でいちばん厳しい山なんですよ。ただ、山での事故は標高の高い山だけで起きるわけではありません。案外、東京都の高尾山のような低い山でも事故は多いです」(羽根田さん、以下同)
旅先で紅葉を楽しめるハイキングコースを見つけ、軽い気持ちで「せっかくだから歩いてみようか」と、何の装備も持たずに山に入って道に迷ったり、滑落や転倒をしたり、危険な動物に出くわすトラブルも少なくない。
警察庁が発表した2023年度の都道府県別山岳遭難発生状況を見ると、1位の長野県に続いて多いのが、低山の多い東京都、加えて4位は神奈川県である。
「週末に奥多摩や丹沢に出かける人は多いのですが、標高が低いわりに山が深いので道に迷って行方不明になる人も。中には何年も見つからないという例もあるんです」
水辺でも注意が必要だ。水難事故と聞くと、夏に海や川で泳いでいるときに起こるとイメージするかもしれない。しかし、遊泳中よりも釣りの最中が最も多い。
「高波にさらわれたり、防波堤や消波ブロックから足を踏み外す、船釣りの場合には船から落ちて亡くなる事故も結構起きています。夜釣りをしていて、いつのまにか姿が見えなくなるといったことも」
自然から命を守るために大事なのは、“事前に情報を集めて計画を立てる”ことにつきる。どういった服装や装備で行くべきなのか、持ち物は何があるといいのか、どれくらいの時間がかかるのか。
例えば、釣りに行くならライフジャケットを必ず着用するなど。万が一、何かが起きてしまったときを想定して、準備をしていれば大事に至らないはずだ。
「遭難でよくあるのは、『登山に行く』とだけ言って出かけたあと帰ってこないから、家族が警察に相談したものの、どこの山にいるのか誰も知らないケースです。捜したくてもどこを捜していいのかわからず、初動が遅れて手遅れになってしまう」
登山をするときは、山の名前と、どのコースを歩くのかを記したメモを、必ず家族や身近な人に残すこと。登山者と連絡がとれなくなってもそのメモがあれば、すぐに捜してもらえる可能性が高い。
秋の特徴は寒暖差が大きいこと
もうひとつ大切なのが、山への持ち物だ。昨今、タウンウエアで荷物をほとんど持たずに山登りをする“軽装登山”が増えているが、羽根田さんは「もってのほか」と警鐘を鳴らす。
「山岳事故でいちばん多いのは『道迷い』。ヘッドランプと防寒着、万が一のことを考えてツェルト(簡易テント)を持っていくと、遭難して山で一夜過ごさなければいけなくなっても耐えられます。携帯のモバイルバッテリー、雨具は絶対に必要です!」
特に秋の登山は、ヘッドランプと防寒着が必携だ。ヘッドランプは、遭難した際に自分の存在をアピールする役目も果たしてくれる。
「秋になるとだんだん日が短くなりますが、そのことを想定していない人が少なくありません。『日帰り登山だから必要ない』とヘッドランプを持っていかない。でも、気づいたら周りが真っ暗で、下山できなくなる。それで救助要請しなければならなくなったケースもあります」
山間部では午後3時を過ぎると、暗くなってくる場所も多い。山に行くときは午後2時過ぎには下りてこられるように計画しよう。
そしてもうひとつ、秋の山で注意したいのが、天候の急激な変化だ。
「山はもともと天候が変化しやすいのですが、秋の特徴は寒暖差が大きいことです。天気がいいときは、秋晴れのさわやかな陽気となりますが、ひとたび天気が崩れると、真冬のようになることも」
2023年10月、那須連山の朝日岳で悪天候の中で登山をしていた人が低体温症になり、行動不能に陥った結果、4人が亡くなっている。
この事故の現場となった那須連山は、標高2000mほどの山が多く、中級山岳といわれている。そのような山でも天候次第では低体温症を誘発してしまう状況になるのが秋の山の恐ろしさだ。
さらに標高3000m級の山になると、秋でも猛吹雪に見舞われることもある。
「野外のレジャーは誰でも楽しめる反面、ちょっとしたミスが命取りになってしまう。決して、日常の延長線上ではないのです。自分の体力や技術を過信せずに自然に対して謙虚でいること。事故のニュースを見て、対岸の火事だと思わないこと。明日はわが身かもしれないという気持ちを持ってほしいです」
野外では気を抜かないで!
「まさか」が起こるのがアウトドア。特に秋の山には危険がいっぱいだ。
スズメバチに襲われる
巣に近づくと威嚇してくる習性を持つスズメバチ。特に10月ごろまでが危険だ。
「大人数で山道を歩いていて、巣があることに気づかずに近づき、集団で被害に逢うケースが頻発しています。刺されればアナフィラキシーショックで亡くなる人もいるので、ハチを見たら迂回するなど、絶対に近づかないで」(羽根田さん、以下同)
2、3匹でも見かけたら近くに巣がある可能性大。
「スズメバチには甘い匂いや黒い色に反応する習性があります。そのため、アウトドアへ出かけるなら、香水や制汗剤、黒い服などを避けることも身を守ることにつながりますよ」
一酸化炭素中毒で意識不明
テントや車などの密閉された空間で火器を使用すると、酸素が足りずに不完全燃焼を起こし、有毒な一酸化炭素中毒が発生するので危険。
「秋にテントの中で30代男性が亡くなっているのが発見された例があります。キャンプ用のコンロや使用済みの固形燃料などがあったことから、換気の悪い中で就寝し、そのまま一酸化炭素中毒を起こしたと考えられます」
テント内では登山用ガスストーブやコンロなど火器の使用は厳禁だが、やむをえず使う場合は、十分に換気をすること。
クマに襲われケガ
昨年に続き、今年もクマによる人身被害が増えており、登山中やきのこ狩りでクマに襲われ、死傷する事故も発生している。
「特に冬眠前の秋は動きが活発になります。目撃情報がある場所には近づかず、真新しい足跡やフンを発見したらすぐに下山を。音を出すクマ鈴やラジオ、笛などは必須です」
もしクマに遭遇してしまったら、距離がある場合は慌てて逃げ出さずにゆっくりと後ずさりし、その場から離れて。
至近距離でクマが突進してきたら、クマ撃退スプレーが最も有効だ。ない場合は、うつ伏せで両手を首の後ろで組む防御姿勢でやりすごすしかない……。
写真撮影で滑落
「私が聞いた中でさもありなんと思ったのは、山頂で仲間と記念写真を撮るときに、全員入らないからとカメラを構えながら後ろに下がって滑落した死亡事故です」
「そんなバカな」と思うかもしれないが、今年、富士山で亡くなった人の中にも撮影中に断崖絶壁から足を踏み外して滑落したことが原因になったケースも。海外では自撮り中に起きることが多いため、「死のセルフィー」と呼ばれる。
カメラの画面に集中してしまい、周囲の確認がおろそかになる行為は、自然の中ではとても危険なのだ。
転んで骨折
「転ぶと街中では手足を擦りむく程度のケガですみますが、山では岩に頭を強打したり、滑落して重傷を負ってしまいます。打ちどころが悪ければ命を落とすことさえあります」
転倒は不注意や油断が原因になることが多い。周囲はもちろん、足元も見ながら慎重に行動しよう。
「秋は登山道に葉が積もって滑りやすくなるので、注意が必要です」
2019年11月に山梨県にある高川山で60代の女性が落ち葉に足を取られて転倒し、足首を骨折して救助された。もし狭い山道で起きれば、滑落してしまう可能性も。
取材・文/オフィス三銃士
羽根田 治さん フリーライターとして活動しつつ、長野県の山岳遭難防止アドバイザーを務める。日本山岳会会員。近著に『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』(山と溪谷社)。
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