「骨に“石”ができています」五十肩だと思ったら突然激痛!中年女性に要注意な病気
週刊女性PRIME / 2024年10月22日 7時0分
ある日の夕食後、ソファに寝そべりくつろいでテレビを見ていたA子さん(50代)は、突然、右肩に強い痛みを感じた。
ここ1年近く煩わされてきた肩の痛みが、何かの拍子で悪化していつもより強く感じるのかなと思い、患部を冷やさないように温かくして安静に過ごしたという。しかし、痛みはどんどん強さを増していき、腕を上げることもままならなくなる。
実は中年以降の女性に多いありふれた病気
「息を止めてしまうほどの激痛で、まさにのたうち回るといった感じでした。肩のあたりでこんな痛みに襲われたことは今までないので本当に驚いてしまって」
布団に入って休むもささいな動きで激痛が走るため、寝返りを打つことすら容易ではなかったという。
経験したことのないような痛みに耐えながら朝になるのを待って、最寄りの整形外科を受診。エックス線検査の結果、医師から告げられたのは「肩に“石”ができていますね」という、思いもよらないものだった。
A子さんを襲ったこの病気、正確には「石灰沈着性腱板(けんばん)炎」という。初めて聞くという人も多いかもしれない。A子さんはその病名に思わず身構えたという。
いったいどんな病気なのか、肩関節外科専門の牧原武史先生に詳しい話を伺った。
「肩の筋肉が上腕の骨にくっつくところを“腱板”といいます。この腱板の中や表面に石灰がたまり、それが強い炎症を起こして激烈な痛みを起こす病気です。
実は石灰がたまること自体はまれなことではなく、肩に痛みがない人を調査しても3~10%の人に石灰が認められています。石灰があっても必ずしも痛みが出るとは限らないんです」
身体の中に石の塊ができているかもしれないとは驚きだ。石灰がたまりやすい体質や原因はあるのだろうか。
「石灰の正体は、骨の主成分のリン酸カルシウムといって、血液中のカルシウムとリン酸が結びついたものですが、これがなぜ腱板にたまるのかはわかっていません。
ネット上では、コーヒーやタンパク質のとりすぎなどがよくないといった情報も見かけますが、裏付けとなるデータや報告を見つけることはできませんでした。食品をちょっと多くとるくらいではカルシウムやリン酸の血中濃度は変動しないため、食品が原因になることは考えにくいです」
注意したいのは発症が多い年代。
「40代から60代の方が多く、中でも女性がやや多いといわれています。中高年で増えるのは、加齢によって腱板の変性が起きて血流が乏しくなることが原因のひとつに挙げられます。ただ、70代以降では発症が少ないことを考えるとそれだけが原因ではないはずです」
いまだにはっきりとした原因は解明されていないが、糖尿病や甲状腺の疾患、女性ホルモン(エストロゲンの代謝)の変化、腎結石のような内分泌系疾患との関連が指摘されている。
勘違いしやすい五十肩との決定的な違いは……
件(くだん)のA子さんは、ずっと続いていた肩の痛みを、年齢的にも“五十肩”だと思い込んでいたという。四十肩や五十肩とは何が違うのだろう。
「まず石灰沈着性腱板炎による痛みには、急性のものと慢性のものがあります。急性のものは激しい痛みが急に生じ、わずかでも肩を動かすことができなくなります。特に夜間に痛みが強くなり眠ることさえ難しいほどです。
慢性の症状では、痛みはそこまで強くなく肩や腕は動かせるけれど、真上に上げる途中で痛みやひっかかりを感じます。一方で五十肩は、腕を上げようとしても途中でカチッとかたまってしまい、それ以上、腕が上がらないのが特徴です」
石灰沈着性腱板炎の慢性期の場合、五十肩と勘違いしやすいが、痛みがあっても腕が動かせるか否かがひとつの目安になりそうだ。
自己判断で五十肩と思い込んでいたA子さんは、周囲の人の経験談などからそのうちに治ると思い、病院を受診することもなく痛みを放置してきた。さらに、運動不足が原因かもしれないと考えて、痛みを押してストレッチやラジオ体操を行っていた。
「炎症が強い時期に無理して身体を動かすと、炎症を悪化させるおそれがあります。また、四十肩や五十肩だと思っていたら、腱板断裂など、別の疾患だったというケースも。症状だけで病気を区別するのは難しいので、まずは受診をおすすめします」
エックス線撮影すればすぐに診断がつくため、痛みをガマンしたり、くよくよ悩んで過ごすのはもったいない。
「治療では、急性で痛みがひどいときは痛み止めの薬を飲んで安静にしてもらいます。症状を抑えるステロイドの注射を打つ場合もあります」
そもそも急性の痛みは、石灰の一部が溶け出して身体に吸収されるときに起こる炎症なのだそう。吸収されてしまえば炎症は治まり、痛みも治まる。そのため、基本的に自然によくなることが圧倒的に多いという。
「頑固に痛みが残る方や、慢性的な痛みが気になる方は、石灰のボリュームを減らすために、石灰に針を刺して腱板の外に石灰を流れ出させる“乱刺法”という治療を行う場合も。また、衝撃波を当てて疼痛(とうつう)を緩和させる“体外衝撃波”という最新の治療法もあります」
ほかにも内視鏡を入れて石灰を掘り出すような施術など手術で取り除く方法もある。昔から患者数も多いうえに、“肩”という生活に支障をきたしやすい部位のことでもあるため、新しい治療法も発展している。
股関節やひざの痛みも石灰が原因かも!?
病院でステロイド注射を打ってもらったA子さんも、直後からみるみる痛みが軽くなり、数日後にはほぼ全快。いまでは難なく腕を回せて、日課のラジオ体操もラクにできるようになった。
「こんなに簡単に治るなら、もっと早く病院へ行けばよかった」と、反省しているそう。
「石灰は1度溶け出して身体に吸収されてしまえば、再発することはほとんどありません。ですが、完全に吸収されずに残っていると、それが溶け出せばまた炎症を起こし、痛くなる可能性があります」
完全に安心とはいかないが、すでに経験があるぶん、同じ状況に陥っても早めに通院するなど、冷静に対処できそうだ。また、石灰は肩以外の部位にもたまることがあるという。
「肩の次にたまりやすいのが股関節です。太ももの外側に出っ張った骨の近くにできるのですが、股関節を動かすと痛いので、歩いたり、あぐらをかいてもツラい。そのほかにも、ひざやアキレス腱など、さまざまな場所に発生することがあります」
石灰をたまりにくくするためには、生活習慣が大切。
「肩の場合は腱板を変性させないために、普段から肩を動かして肩の可動域を維持しましょう。食事の面では、糖尿病が関連していることは、はっきりしているので、糖質のとりすぎに注意を。
また、女性ホルモンの減少による自律神経の乱れを整えるためにも、バランスのいい食事を3食とるなど、一般的にいいといわれていることがこの疾患にも重要です」
いつまでも五十肩が治らない……そう思っている人の中には、石灰が原因という人も一定数いる。原因がわかれば治療もすぐにできて、完治も難しくはない。早めに痛みとおさらばするには受診が近道なのだ。
教えてくれたのは……牧原武史先生●独立行政法人 国立病院機構 霞ヶ浦医療センター 整形外科所属。肩関節外科が専門。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。
取材・文/荒木睦美
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