「不倫の傷のケア」すれ違い夫婦の思い込みと本音、約3000組の「関係修復」実例
週刊女性PRIME / 2024年10月20日 8時0分
コロナ禍を経て「夫婦カウンセリング」が注目されている。 株式会社リライフテクノロジーが2024年7月に既婚者2000人(20~59歳の既婚の男女)を対象に『夫婦問題に関するカウンセリングへの障壁』に関するインターネット調査を実施したところ、既婚者の約6割がパートナーに対し、ストレスや不満を感じているという結果が出た。
だが夫婦問題に関するカウンセリングを受けた経験があると答えた人はわずか5.15%。一方、メンタルヘルスケア(心の健康に対する意識)について、全体の約56%が「非常に重要」または「重要」と答えている。
メンタルヘルスの重要性を半数以上が感じつつも、カウンセリングを受けるに至らないのは、夫婦カウンセリングの専門家の情報がまだ浸透していないせいかもしれない。
最近注目の「夫婦カウンセリング」
そんな中『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』(日本ビジネスプレス)の著者で、夫婦カウンセラーとしてこれまで約3000組の夫婦をカウンセリングし、現在は1か月で約120組から相談を受けるという安東秀海氏は、
「'18年ごろから『夫婦カウンセリング』の検索数が伸びた」
と語る。きっかけは'18年にお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦が夫婦カウンセリングを受けたと発言したことや、海外映画やドラマで頻繁に登場する夫婦カウンセリングのシーンによって、関心を持つ人が増えたのでは、と安東氏は分析する。
安東氏のカウンセリングルームを訪れる層は36歳から45歳が中心で、結婚10年前後のカップルが目立つ。
その中には親が子ども夫婦の仲を心配しての申し込みもあるが、カウンセリングは本人たちからの申し込みを原則としているという。では、どのような悩みの相談が多いのだろう。
「いちばんは不仲です。漠然と、原因がはっきりしないが不仲というケースが全体の6~8割。結婚10年くらいのご夫婦に非常に多いですね。次に多いのは不倫で2割。夫婦仲の良しあしによらず、夫が不倫や浮気をしていたというパターンですが、この半年は妻が不倫をしているという相談も多くなっています。
3番目に多いのはセックスレスですが、不仲も不倫や浮気、セックスレスなど顕在化した問題だけでなく、なぜそうなってしまったかに目を向けることが大切です」(安東氏、以下同)
安東氏が夫婦カウンセラーになったきっかけは、彼の妻がカウンセリングの勉強を始めたこと。もともと、営業職で人と話すことが得意だった安東氏はカウンセリングが、
「クライアントの問題を解決するプロセスに似ている」
と感じて、カウンセリング会社に転職。さまざまなカウンセリングを行っているうちに、夫婦問題にやりがいと手ごたえを感じ、'15年に独立。東京で妻と一緒にカウンセリングオフィスを設立した。
「夫婦カウンセリングでは、問題となっていることを“コミュニケーション”“価値観”“感情”の3つの領域に分類し、どこに、より大きな問題が潜んでいるのかを探りながら、各ご夫婦それぞれのケースに応じて、最適な取り組み方を提案していきます」
では、実際に安東氏がカウンセリングをしてきた例で、夫婦が抱えていた問題を見ていこう。
実例1:問題は過去に?妻のわだかまりに気づかない夫
夫婦の会話が減り、ケンカが増えて、妻(37歳)から避けられていると悩む夫(39歳)。結婚10年目で共働き、9歳と2歳の子どもがいる4人家族だ。
夫婦でカウンセリングを受け、不仲の原因を探っていくと、妻は10年前の結婚式で、義母から言われた“赤ちゃんをたくさん産んでね”をはじめ、デリカシーのない数々の言動に嫌気が差していると話す。しかもそのことを夫がまったく理解していないと感じている。
「根っこにこのわだかまりがあって、夫婦ゲンカになると“あなたはいつも私の味方をしてくれない”と言ってしまうのですが、夫の側はそう言われても意味がわからない。
そこで掘り下げると、結婚式でのことがずっと引っかかっていたことがわかってきました。仲がいいときは気にならなくても、2人の関係がこじれてくると、未消化な感情が出てきて、つい夫に批判的になってしまうわけです」
お互いの気持ちが理解できない2人に、安東氏はこんなカウンセリングをした。
「彼女に“普段から彼は自分の味方ではないと感じますか?”と聞くと、実はそうでもないようなんです。では、どうしてそう感じるのか掘り下げていくと、結婚式のエピソードが出てきました。
そこで、怒っているのは“今”の彼にですか?それとも“あのとき”の彼にですか?と分解していくと、怒っているのは“今”の夫にではないと気づくことができました。これだけでもずいぶん気持ちは軽くなったようです。
怒りは悲しみの二次感情ともいわれます。何もないのに怒るのではなく、傷つく出来事があるから怒るわけです。
また彼には、誰に何を怒っているのか?が見えてくると、何に傷ついているのか? も見えてきます。何に傷ついているかが理解できると、少し気持ちの整理がつくものです。
彼女はこんなふうに傷ついているのだ、と理解してみること。怒っているように見えるのは“傷つき、悲しいのかもしれないと考えること”を伝えました」
すると、夫婦の間に変化が起きたという。
「彼女は夫に対する腹立たしさは残っているものの、過去と今の感情を分けて考えることができるようになりました。そして“2人にとって大切な結婚式のはずなのに、悲しくなった”と当時の気持ちを打ち明けたのです。
妻の“悲しかった”という言葉を聞いた夫は妻の言動に隠れていた気持ちを知り、自分自身も拒否されているようで悲しいと思っていたと言葉にすることができました。こうして、お互いに心の内を分かち合うことで、それぞれが抱えていたわだかまりも解きほぐされていきました」
この場合は、傷ついた過去を今の自分がどのように見ているかというカウンセラーの問いかけが効果的だった。
実例2:親の借金の肩代わりを隠す夫に、不信感を覚えた妻
夫(29歳)には結婚前から、妻(26歳)が知らされていなかった親の借金があった。そのことを後から知らされた妻は、夫に対して不信感を抱くようになったという。
「話してもらいたい妻と、その必要性を理解できない夫のそれぞれに言い分があり、そこに結婚観や夫婦間の違いがくっきりと表れていました」
夫に話してもらいたい妻は、知ることで夫を理解したいと思っている。そこには夫に対する愛情がにじみ出ているが、一方の夫は、親の借金のことを話すのは恥ずかしいと感じ、また妻に心配をかけさせたくないと思っていた。しかも結婚前のことなので、わざわざ話すこともないというのだ。
「互いの本音を聞くと、彼女が抱えていたのは“私を信頼していない”という寂しさでした。“信頼”が彼女にとっては“愛”を示す方法だったのかもしれません」
そこでまず、安東氏は、夫には「妻に甘える」ことをすすめた。夫は躊躇(ちゅうちょ)したが、そのことによって妻が納得してくれるとわかり、妻に「親の借金の肩代わりを、家計から出させてください」とお願いすると、夫婦の関係に変化が表れた。
「彼のほうは夫婦だからと、頼るのはよくないと考えていたようです。でも“そのことで君が寂しさを感じていたならごめんなさい”と謝ってくれたことで、彼女も少し気持ちが晴れたようです」
夫婦間の価値観の違いがカウンセラーによって、解きほぐされていく。解決の糸口となったのは、妻の夫への愛情。それを見抜いたことも解決につながったといえるだろう。
実例3:夫の不倫の傷がケアされない妻、気づかない夫
経営者の夫(43歳)に連れられてきた妻(38歳)。9歳と5歳の子どもがいる専業主婦の妻は、夫の長年の不倫の傷が癒えない。夫は相手と別れて、妻にすべての非を認めているが、妻は今でもあまり眠れず、食欲もない。「このままでは妻が病気になるのでは」と夫が心配している。
「夫は、不倫相手とは終わっていると不貞についても謝っているのに、どうして? と困惑しています。でも私からは、信じたくても信じられないし、許せなくても無理はないと2人に話しました。
というのも、不倫のように心が深く傷つく出来事があると、信じたくても、心がそれを拒みます。なぜなら信じることができるほど、心がまだ回復していないからです。信頼を取り戻すにも、心の回復にも時間が必要ということです」
夫は不倫をしても妻との関係は崩れることはない、と思っていたのかもしれない。身勝手だが「妻には自分しかいない」という思い込みがあり、自分自身が不倫をしても、家庭という帰る場所があると。
謝罪を受け入れたはずなのに、どうして以前のような関係に戻らないのか……。心の傷は身体の傷と同じではない。夫は自分のことを棚に上げて、傷ついた妻の気持ちをケアしようとしていないのだ。そんな妻の傷は、時間がたてば回復して痛みが薄れるとは限らないと、安東氏が指摘する。
「不倫をされた側は、心の傷を抱えています。でも本当の問題はそのことを夫が十分に理解をしていないことです」
心の傷が癒えないまま、子どものために我慢してきた妻が、子育てが一段落したり夫の定年を契機に、離婚を決行することも熟年離婚の特徴のひとつだ。妻の心の闇に気づかず、ある日突然離婚を言い渡されて、慌てふためく夫。だが修復の時期はとうに終わっていることが多い。
「このケースでは、不倫に傷ついた心をケアする方法をお伝えしました。一方、彼には焦らないで彼女のペースに合わせて一緒に歩んでいく感覚を持つことを提案しました」
心が傷ついているときは、前を向くことが難しいことをわかってもらう。まずは自分の心のケアに専念することが、解決の第一歩なのだ。
実例4:セックスレスの裏に隠された、本当の問題
子づくりのためのセックス以外は、10年もセックスを拒否された専業主婦の妻(38歳)。営業職の夫(40歳)に育児や家事の協力を呼びかけても無視されてきた。現在はセックスレスに関しては諦めていて、離婚を考えている。子どもは7歳と2歳。
「10年間抱えていたセックスレスの問題と今ある離婚問題。2つはつながっていますが、まずはそれぞれ分けて考えることが必要でした。
妻が離婚を考える理由は、セックスレスにあると夫は考えていましたが、カウンセリングを進めていくうちに、本当の問題は彼の無関心にあることがわかってきました。でも夫は、そのことをすぐに理解できませんでした」
妻は「女として自分を見てくれない」という孤独を夫は理解していなかった。一方、離婚を考えた理由は精神的なつながりが希薄になっていることが原因だった。
「セックスレスに起因する痛みは峠を越えて、別の問題に置き換わっているのに、行為ばかりを意識すると、問題の本質である、ケアすべき部分を見誤ってしまいます」
セックスレスの悩みは、自分を受け入れてくれない、大切に扱ってもらえないという寂しさにつながる。問題の本質と心の傷を夫に理解してもらうことが、修復への手がかりとなった。さらに最近、特に目立つ相談を安東氏は2つ挙げる。
「コロナ禍でほかの女性とオンラインで交流している夫に、モヤモヤするというご相談が増えました。この悩みは全年代に見られ、『SNS浮気』といえる問題が増加傾向にあります」
平日の夜や休日に、夫がオンラインでほかの女性と楽しくおしゃべりをしていることで、夫婦関係が悪化するケースが目立っている。
夫は肉体関係がないから浮気ではないと主張するが、妻は自分よりもオンラインの女性と話す時間が長いから本気だ、精神的に浮気をしている夫が許せない、と夫婦の間で食い違いが生じている。
「SNSでの交流が問題になるのは、夫婦関係が希薄だからではないでしょうか。夫婦間に親密な関わりがあれば、オンラインの交流が、それほど気にならないはずです」
肉体関係がないから浮気ではないという夫と、精神的に浮気しているという妻の言い分は、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープが共演した『恋におちて』('84年)のワンシーンにも登場する。
夫婦の問題は今も昔も変わらない。また前述したように、この半年間で、妻の不倫についての夫からの相談が増えているという。
「夫が妻の不倫を疑うと、探偵事務所に調査を依頼するケースが少なくありません。証拠をつかむことで、いっそう夫婦関係の修復が難しくなっているケースもあります。情報をつかむことが必ずしもいいとは限らないんです」
また50代以上の相談で特徴的なのは、一方が離婚を決意し、もう一方はそのことに気づいていないことだという。
「結婚してからの長きにわたるわだかまりは、すぐには解消できません。夫婦関係を見直すなら、早いほうがいいと思います」
ため込むことで不平や不満、さらには不信感が募っていく。手遅れにならないうちにケアが必要だ。
安東秀海(あんどう ひでみ)●夫婦関係を専門とするカウンセリングオフィス『LifeDesignLabo』(https://life-design-labo.com/top/counselor-profile/)のカウンセラー。もっと実例を知りたい人は『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』(日本ビジネスプレス)を。
取材・文/夏目かをる コラムニスト、小説家、ライター。恋愛、婚活、結婚をテーマに取材・執筆活動を行う
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