シンパパ住職「お寺はブラック企業と言われ…」離婚でたどり着いた「諸行無常」の生き方
週刊女性PRIME / 2024年11月17日 8時0分
お寺は「檀家さんみんなの家」。夜中の電話、早朝の訪問は当たり前。調理の匂いにすら気を使うプライベートのない暮らしのため、妻に去られたシンパパ住職・池口龍法さん(44)。アイドル育成から本堂でのDJイベントまで企画する型破り住職の“シンパパ生活”を聞いた!
お坊さんだって失敗もすれば離婚もする。当たり前だが、法事や葬儀ぐらいでしか接点がない身からすれば、やはりお坊さんは聖職者。
しかし池口龍法(いけぐち りゅうほう)さんは、なんとバツイチのお坊さんだ。7年前に離婚、2人の子どもを育ててきたシングルファーザーでもある。
お坊さんが離婚するのは一般の人に比べて難しい?
「実際の統計があるわけではないのではっきり言えないですけど、離婚したことを隠している人はいます。恥ずかしいことだという認識がやっぱり強い。
今の日本では離婚が当たり前ですし、選択肢のひとつになっていますけど、お坊さんの場合には、まだやましいことのように感じている。離婚したほうがいいよねって思う場合でも我慢しながら生活している人もいます」
1616年に開かれた歴史ある龍岸寺の24世住職、池口龍法さん(44)は28歳のとき、7歳年上の薬剤師の女性と結婚した。
妻は感性の赴くままに行動する自由な女性。外国車を乗り回す彼女に、池口さんの両親は「ああいうタイプは寺の奥さんには向かない」と反対したが、押し切った。
「自由に生きる彼女と接して、自分も自由に生きたいと思いましたし、結婚を決めたことで、両親に代表されるお寺の旧習に挑んでいるような気持ちもありました」
結婚して1年後、住職として多忙な日々を過ごす池口さんは、新しいお坊さんのスタイルを提言するフリーマガジンの発行人としての活動を開始しようとしていた。そんなころ、妻が第1子の長女を妊娠。
最初は池口さんの活動に理解を示していた彼女だったが……。
「出産を機に妻は専業主婦になったのですが、僕は週5日、お寺で奉職して、休みの日も取材や編集で家を空けがち。家事も育児も妻に任せきりでした。『お寺が大事?家庭が壊れてもいいの?』と迫られたこともありました。今思えば妻も限界だったのだろうな……と。ついには妻の愚痴を聞くのもつらくなって」
プライベートかお寺か
お寺の生活にはプライバシーがない。お寺は住職一家の所有物ではなく、檀家さんの寄付で建てられ、維持されてきた「みんなの家」。それゆえ、檀家さんはいつでも気軽にふらっと訪ねてくる。
キッチンの料理の匂いも境内に抜けるため、子どものためにクリスマスのチキンを焼くのも居心地が悪そうだったという。
「お寺で育った僕にとっては、プライバシーのない生活が子どものころから当たり前。いつも檀家さんが出入りしていて、夜中でも平気で電話がかかってくる。オン、オフの概念もない。
だから、『一日二日休みがないと精神的にしんどい』とか、『お寺はブラック企業だ』と妻が言うのも理解できないし、どこまで譲歩すればいいのかもわからなかった。譲歩するってことは、詰まるところ、お寺のあり方を変えることになりますから」
プライベートを優先するか、公器としてのみんなのお寺を続けるか。
本堂をクラブスペースにしたDJイベントや、菩薩アイドルのプロデュース、『冥土喫茶』と題したメイドカフェのイベントを開催するなど、新しい仏教のスタイルに果敢に取り組む池口さんの選択は“お寺”だった。
「人として生きる道を説きながら離婚か、みたいな葛藤はありました。どんな顔して説法しようかと。檀家さんも別に何か言ってくるわけではないですが、心の中で『離婚したクセに』とか思われているんじゃないかと悶々(もんもん)としたり。
でも、ギアチェンジじゃないですけど、説得力のある話ができるようにもっていきました。今はもう1周回って、『人間、いろんなことありますよね』と自信を持って言えます。
檀家さんの中で離婚している人も当たり前にいるので、向こうも同じ人間として同じ目線で話してくれるようになりました」
経験値UPで困難に勝つ、RPGと仏教は似てる?
離婚した当時、長女は小学2年生、長男は幼稚園年長。家庭内の不和が原因で、長女は生活リズムが乱れてしまい、登校させるのもひと苦労。
葬式の予定がある日の朝に長男がおねしょをしてしまったときには、グーグルでおねしょの対処法を検索したと池口さんは振り返る。
「でも、シングルファーザーとしての経験値を積んだことで、檀家さん一家と、よりアットホームな感じで付き合えるようになったと思います。
この前すごかったのは、法事があって、後ろを振り返ったら、檀家さんのお子さんのおむつからおしっこがジャーって漏れていた。小さいお子さんなので仕方ないんですけど。
でも時間のない朝に息子のおねしょに対処してきた僕にしてみれば、しょうがないかなとわかるし、それぐらいの修羅場もいっぱいくぐり抜けてきているので(笑)。普通に『雑巾取ってきますね!』みたいな平常心です」
最初はまったく料理ができなかった池口さん。外食は月1回と決め、子どもたちと手料理でちゃぶ台を囲む時間を大切にした。一方で、お通夜の日にはマクドナルドのハッピーセットを解禁するなど、工夫しながら乗り切った。
「常に転んでもただでは起きないところはあります。どんな困難な状況でも、何もしないよりは考えて、自分ができるだけのベストを尽くす。考えるのをやめたら負け、と思っているところはあります」
難問をクリアし、経験値を積んだ時間は裏切らないと、子ども時代にプレーした『ドラゴンクエスト3』を例に出して池口さんは語る。実はRPGと仏教は似ているとも。
「諸行無常。僕の考え方の基本に、それがあります。今のままの生活がずっと続いていくことは基本的にない。物事の流れに身を任せるだけでも生きていくことはできます。
でもその中でいろいろと変化しながらも、より良く生きていくため、自分の生活のありさまや、周りの環境をより良く整えていくために自分自身のエネルギーを使う。それが仏教的な生き方だと僕は思っています」
一時はマッチングアプリに登録したこともあるという池口さん。最近の婚活は?
「浄土宗の教団がやっている婚活イベントがあるのは知っていますが、参加したことはありません。お坊さんと結婚したいという人も一定数いるようですね。古い日本のしきたりに関心があったりする人でしょうか。
知人がお坊さん限定の婚活イベントを開催しているので、ブログをのぞいてみたところ、参加しているお坊さんはみんな袈裟(けさ)姿でした(笑)」
今後の再婚予定は?
「今のところ、ちょっとまだないかなって感じですね」
池口龍法(浄土宗龍岸寺住職)●1980年、兵庫県生まれ。京都大学大学院中退後、知恩院に奉職。2009年に超宗派の若手僧侶を中心に『フリースタイルな僧侶たち』を発足させ代表に就任、フリーマガジンの発行などに取り組む。近著『住職はシングルファザー』(新潮新書)の出版記念イベントを12月15日開催予定。詳細は龍岸寺ホームページを!
取材・文/ガンガーラ田津美
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