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「術後は腫れに悩まされて…」72歳で乳がんになった大学教授が語るシニアサバイバーのリアル

週刊女性PRIME / 2024年11月14日 8時0分

※写真はイメージです

 女性のかかるがん第1位の乳がん。罹患のピークは40代後半から閉経後の60代前半だが、70代でかかるケースも少なくない。日本赤十字広島看護大学の元教授である迫田綾子さんも、その一人。

自分で気づいた左胸の小さなしこり

 大学病院に長年勤務しながら2人の子育てに邁進。その後大学院にも進学し、70歳まで教授として活躍した。定年後、老後を楽しもうと思っていた矢先に72歳で乳がんが見つかった。人生のクライマックスで病に直面した迫田さんは、どんな選択をしたのか。

「コロナ禍の2020年9月。いつもどおり、朝目覚めて頭から首、胸とマッサージしていると左胸に小指の先ほどのしこりがあることに気づいたんです。すぐに、乳がんかも……という恐怖と漠然とした不安が胸をよぎりました」

 その数年は、乳がん検診は受けずにセルフで触診を続けていた迫田さん。コロナ禍でダイエットに励んでいたこともあり、胸の脂肪が減ったことでしこりの発見につながった。

「地域で評判のいい乳腺クリニックを調べて予約し、1週間後には超音波検査とマンモグラフィー、さらに乳房内転移の可能性があるかもしれないと組織検査も受けました。左胸に長く太い針を刺されましたが、緊張のせいか痛みは感じなくて。でも検査結果がわかるまでは、“もしかしたらがんが2個あるかも”“リンパ節に転移していたら?”と不安で仕方なかったです」(迫田さん、以下同)

 後日、乳腺の外までがんが広がる、浸潤性乳がんと告知を受けた。乳房内転移の確認には精密検査が必要だった。

「告知されたときは、ショックよりもいよいよ来たか、という気持ちでした。70代になると、背負ってきた家族や社会への責任がなくなり、自分の人生が中心になるんです。だからどこか冷静だったのかもしれません」

乳がんのおかげで命と向き合えた

 手術を受けるため、事前に調べた近隣の大学病院を紹介してもらい、10月に転院。女性医師を希望し、誠実な主治医と巡り合った。

「精密検査でMRIとPET―CTを受けた結果、しこりは2~5センチ大。乳房内転移の疑いがあるが、リンパ節転移はなく左乳がんステージ2Aと判明しました。乳房の外に転移がなくてよかった!と本当に安心しましたね」

 標準治療に基づいて、乳頭と乳輪を残す乳房温存手術と放射線治療を経て、抗がん剤またはホルモン療法を行うと説明を受けた。

「主治医と話すうち、医師に任せきりにせず、自分も病気や治療について学んで意思決定する必要があると感じました。それから乳がんのガイドラインや国立がんセンターのサイトなどでいろいろ学びました」

 そして、がんの標準治療は“標準的な治療”ではなく、“日本における最善の治療”であること、日本は乳がんの治療研究が最も進んでいることなどを知り、安心して治療を受けようと思った。

「自分で学んだことで、きちんと納得した上で主治医が提案する治療に同意できたんです。おかげで前向きに治療を受けることができました」

 手術までの2か月間は、がんが悪化しないか心配だったが、主治医から“進行が遅いタイプだから大丈夫”と説明を受けて安心した。

「終活が必要だと思い、身の回りの整理を済ませてエンディングノートも書きました。再発転移があれば緩和ケアで穏やかに過ごしたい、人工栄養や点滴は受けないなど、最後までどう生きたいかを考えて書きました。乳がんが自分の命と向き合う機会をくれたんですね」

 また、長い看護師生活で、患者さんたちの落ち込んでも諦めずに歩み出す姿を間近で見て、人生と向き合う姿勢を学んだという。

「何が起きても自分の人生。患者さんたちのように覚悟を決めて逃げずに病と向き合う大切さを実感できました」

術後の痛みと腫れはセルフケアで楽に

 しこりを見つけてから、約3か月後の12月下旬に手術、無事に乳房温存に成功した。

「手術した日の夜、意識が戻って乳房が残っていることを確認したときはうれしかったですね。痛みもありましたが、傷も小さく、4泊5日でクリスマス当日に退院することができました」

 しかし、翌朝鏡で両胸の皮膚が赤、青、黄に変色しているのを見て慄いてしまう。

「胸の中にある塊のようなものも大きくなっている気がして、がんの取り残しが広がっているのでは……と妄想が広がりました。結局、病院に行くと乳房内に滲出液がたまっていることがわかり、年始に注射器で抜いてもらいました」

 その後もしばしば痛みや腫れに悩まされた迫田さんだったが、自分で試したセルフケアに癒されたという。

「濡れタオルを使って痛みのある部分を温めたり、冷やしたりする温罨法、冷罨法にはとても助けられました。リラックスしたいときは、アロマオイルを使った足浴。あとは軽い散歩もしました。最初は家の中、1か月後は外でも歩いて。身体の中の臓器や組織があるべきところに戻っていく感じがして、スッキリするんです。無理のない範囲でする、術後の散歩はおすすめですよ」

 2月から放射線治療、3月からは10年間の服薬のホルモン療法がスタート。以来、現在まで服薬を続けて再発転移なく元気に過ごしている。

「何より、がんに勝つ一番の秘訣は自分の“サポーター”をつくること。信頼する友人や乳がん経験者に話をしたら、思いもかけないサポートをしてくれて本当にありがたかったんです。自分の気持ちを率直に話せる相手がいるのはとても心強いこと。告知は勇気がいりますが、信頼できる相手に話すことはきっと力になってくれますから」

迫田さん直伝! セルフケアと病院選びのコツ

 温罨法は、患部に温かいタオルを当てて症状の改善を図るケア。迫田さんは、ヒタヒタに濡らしたタオルを耐熱ビニール袋に入れ、手で触れる程度に電子レンジで温めて使った。朝は温罨法を、夜は水で濡らしたタオルを当てて患部を冷やす冷罨法を使うと痛みが和らいだ。

 病院を選ぶ際は、一般に理解しやすいホームページの公開や乳腺外科の医師数、また希望する手術(迫田さんは内視鏡手術)の年間実績が多い病院を探した。

迫田綾子さん●看護師、日本赤十字広島看護大学元名誉教授、老年看護、看護技術:食事や口腔ケア専門。ひろしまナイチンゲール賞受賞。2022年、乳がんを体験。『70代の乳がんサバイバー記』(リーブル出版:著者名迫田あや子)を自費出版。高齢者の乳がん情報を発信している。


取材・文/井上真規子

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