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『スペースコブラ』の主題歌をカバーした葉月みなみ、苦節10年の下積み時代や展望を聞いた

週刊女性PRIME / 2024年11月24日 20時0分

葉月みなみさん

 1980年代に一世を風靡したTVアニメ『スペースコブラ』をご記憶のアニメファンは少なくないだろう。

 昨年(2023年)亡くなった漫画界の巨匠寺沢武一の原作で、フランスをはじめ海外でも評判を呼び、半世紀近くを経た現在もテレビの再放送や配信での放映が続くSFアドベンチャーだ。

 主題歌も元ペドロ&カプリシャスのヴォーカリスト・前野曜子が歌ってヒットした。このほど、その名曲『コブラ』が新潟で苦節10年、40歳で上京して念願のメジャーデビューを果たした歌手の葉月みなみによってカバーされ、令和の時代に蘇った。

 カバー曲にこめた思いや、一念発起して新潟から上京し歌手人生が180度変わったという劇的ストーリーを、葉月さんに聞いた。

野性味と大人の女性のイメージを表現した葉月版『コブラ』

2022年に『レイニー・バスステーション』という曲を世界185カ国に配信して以来、世界を意識しながら歌ってきました。世界配信第6弾となる今回は、海外に向けてよりアピールできる楽曲をということで、フランスをはじめ各国で人気の高いアニメ作品の主題歌のカバーに挑戦したんです。

 前野さんのカッコいい元歌のイメージがすっかり定着しているところに、どうやって葉月みなみの色を出していくかに悩み、プロデューサーの岩尾(三四郎)さんとも相談しながら、パンチを前面に押し出しつつ、これまでとは違う大人の女性のイメージを意識しながら歌いました。そしたら、野性味溢れる感じがいいねという評価もいただき、仕上がりには満足しています

 原作者・寺沢武一氏の1周忌の9月8日には、開催中だった原画展にも足を運び、繊細なタッチに圧倒され、原作の独特の世界観にどっぷり浸ることができたという。

欲しかった、主人公のキャラクターが描かれたコブラTシャツも購入し、それを着てレコーディングに臨みました

 歌うことが大好きで、演歌や歌謡曲ばかり聴いて育った葉月さんは、幼い頃から歌手への夢を抱き、小学校の卒業文集にも「将来は歌手になる」と記した。4歳からピアノを習い、小学生でフルートを始めるなど、歌にとどまらず楽器演奏でも才能を磨いた。

 その一方、高校では書道部に入り、いろいろな賞をもらうほど熱心に取り組み、大学は音大ではなく文学部に進んで書道を専攻。

当時はまだ、『書道ガールズ』の世界のような派手なパフォーマンスの大会はなく、個人でひたすら地道に練習していました。でもそのおかげでお礼状やサインもきれいに書けますし、ジャケットのタイトルも、『コブラ』以外は全部私が書かせてもらいました。

 曲のイメージに合わせて文字の雰囲気を変えていますが、それが自在にできるのも書道を習ったおかげ。本当にやっていてよかったです

 美しい文字に季節の風物などの絵を添えた絵手紙も得意で、もらった人に強い印象を残している。身体を動かすことも好きで、大学時代は躰道という、沖縄の玄制流空手をルーツとするアクロバティックな武道にも打ち込んだ。

前方宙返りやバク転をしながら、3次元空間を使って技を繰り出すような見ごたえのある武道で、私も当時はバク転してましたね。今はもう無理ですけど(笑)

40歳で一念発起し、車に身の回りのものだけ詰め込んで上京

 こうして幅広いジャンルでさまざまなことに挑戦しながらも、歌手への夢は一貫して持ち続けていた葉月さん。その決意を新たにしたのは、これも子どもの頃からの夢だった『NHKのど自慢』への挑戦がきっかけだったそう。

20代の頃、地元(新潟市)に近い魚沼市で収録があることを知って予選会に応募したところ、抽選で250組の中には選ばれたんですが、そこで歌って見事に落ち、本選に出ることができなかったんです。それが悔しくてたまらず、絶対にプロになってやると思ったんです

 とはいえ歌手への道はすんなりとは開けなかった。一度は就職し、新潟でCDデビューしたのは30歳のとき。そこからの10年間は泣かず飛ばずの状態だった。

当時は着物姿でド演歌ばかり歌ってましたね。お祭りやカラオケのイベントによんでもらったり、介護施設を慰問したり。あとはキャンペーンで各地を回っていました。そんな仕事ばかり続けて40歳になったとき、このまま新潟にいたんじゃダメだ。世の中に出たいし、もっと上を目指したいと、一念発起して上京したんです

 地元新潟には根強いファンがいて後援会もでき、それなりに活躍の場はあった。だが上京しても仕事の当てはない。幸い後援会副会長のお身内が所有するアパートの1室に住まわせてもらえることになったものの、それ以外は何の見通しも立っていなかった。

新潟で乗っていた『CUBE』(ワゴン車)に、布団とちょっとした洋服など身の回りのものだけを詰め込んで出てきて、文字通りゼロからのスタートでした

一人のプロデューサーとの出会いで、人生が激変

 それが2020年1月のこと。その数か月後、世の中をコロナ禍が襲い、新潟で決まっていた仕事もなくなり途方に暮れかけていたときに、プロデューサーの岩尾さんと出会って状況は劇的に変わった。

もう一度ボイストレーニングを一からやり直し、声の出し方や表現の方法を徹底的に見直しました。そして2021年にようやく、テイチクレコードから移籍第1弾CDをリリースしメジャーデビューできたんです。

 その後、どうせなら人と違うことをやりたい。それには配信がいいのではないかと、歌謡曲・演歌のジャンルでは初の世界配信に踏み切りました

 東京で葉月さんの歌の才能を見出した岩尾さんは、彼女に「マジカルボイス」というキャッチフレーズを与えた。

「葉月みなみはいろんな声や歌い方ができる表現力を持ったアーティスト。抜群の才能があり、常に進化している彼女が、さらなる飛躍を遂げるようにという思いも込めて命名しました」と岩尾さん。

 そこから今回の『コブラ』まで、わずか3年で配信は第6弾に至り、海外での反響も上々だという。

南魚沼で凱旋コンサートも実現

すべて数字で出てきますが、たとえば、最後にフランス語で“Merci beaucoup”(ありがとう)と歌う『魔法のしずく』は日本を含めた19カ国でランクインしていますし、葵司朗さんとデュエットしたラブソング『恋は素敵なショータイム』はトルコのランキングで1位になりました。

 私が想像もしなかった国の人たちに聴いてもらえるなんて、配信の力を実感しています

 ちなみに、『恋は素敵なショータイム』は、歌詞に出てくる「Jin Jin Jin ジンときてキュンとして」というフレーズがきっかけで、大分の本格麦焼酎「神々(ジンジン)」のweb CMへの出演も果たした。

飲んで『おいしい』という場面では、お水ではなく実際に神々を飲みながら撮影しました。何テイクも撮り直し、OKが出たときには1本空けちゃってましたね(笑)

 昨年(2023年)9月には南魚沼市での凱旋コンサートも実現した。東京から、生バンドをはじめ照明や音響など総勢約30名のスタッフを引き連れての凱旋を、地元の人々は驚きとともに迎え入れた。

3カ月前に始めたばかりのタップダンスを、コンサートでどうしても披露したくて、先生には無謀と言われながらも猛特訓したおかげで、『雨に唄えば』の曲に合わせて踊ることができました。

 そのほか、フルート演奏を披露するなど、これまでにない葉月みなみの多彩な表現を地元のファンのみなさんに届けられて、とても喜んでいただきました

 こうして「上京後は人生が180度変わった」という葉月さん。新潟時代はお祭りの舞台や小さなイベント会場で歌っていたのが、『新・BS日本のうた』の公開収録ではNHKホールの舞台に立つことが叶った。

 かつて落とされた『NHKのど自慢』の予選で歌ったのが、田川寿美さんの『女…ひとり旅』。その田川さんとも、同じ歌番組に出演した。

「その際にのど自慢予選の話をしたらすごく喜んでくださって、『これからも一緒に頑張っていこうね』と温かい言葉をかけていただき感激しました」

女優業、フランスでのステージ……挑戦は限りなく続く

 2024年11月24日にスタートする連続テレビドラマ『寺西一浩ミステリー〜SPELL〜緑の猿の逆襲』(寺西一浩監督、BSフジ)では女優にも挑戦した。シンガーソングライターで俳優の寺西優真が演じる霊能者の主人公の友人でテレビ局員という役どころ。

寺西監督に声をかけていただき、自分の表現の幅を広げたいという思いでチャレンジしました。役柄のキャラクターや登場シーンを自分なりに想像しながらセリフを頭に入れるのが大変でしたが、監督には『そのままの葉月さんでいいから』とアドバイスいただき、自然体で演じることができました。

 また、オープニング曲に私の『永遠に、二十歳さ』を抜擢していただき、本当に夢のようです

 本業の歌手としては、今回の「コブラ」で海外をより強く意識して新たなファンを掘り起こしたいという。

 特に、アニメ人気が高く『スペースコブラ』のファンも多いフランスに向けてアピールするために、来年(2025年)は、毎年フランスで開催されている日本文化の祭典「ジャパンエキスポ」への参加に意欲を燃やしている。

申請が認められれば行けるんですが、これまではグループでの参加が多く、個人での参加は狭き門なんです。でも実現したら、フランスの人たちに『コブラ』の歌と葉月みなみを認知してもらえるように、しっかり目立ってきたいです

 このインタビューから実年齢を公開することにしたという葉月さんは、現在45歳。溌剌とした歌声や透明感のある肌は、実年齢よりはるかに若く見える。これからもその若さを武器に新たな挑戦が続いていくことだろう。 

取材・文/伊藤淳子

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