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「乳がん再発リスクを減らしたい」ホルモン治療中の栄養士が意識している“食材”と気づいた“前兆”

週刊女性PRIME / 2024年12月22日 11時0分

料理研究家の今泉久美さん 撮影/矢島泰輔

コロナ禍に乳がんが判明した、料理研究家の今泉久美さん。「親友も亡くしがんは遠い存在ではなかったから、冷静に受け止めることができました」ホルモン療法を経て、今は副作用や再発リスクを軽減させる食を研究する。「“がんになった自分”を生かしたい」 その思いに至った、治療の日々を聞いた。

「亡くなった妹が乳がんだと教えてくれたのではないかと今でも思っています」

 そう話すのは料理研究家としてテレビや雑誌などで活躍する今泉久美さん(61歳)。乳がんが判明したのは、コロナ禍の2020年秋だった。

まさに“梅干しの種”が

「その前年に亡くなった妹の法事の際に転倒して、左胸をあざができるほど強打しました。以来、左胸がなんとなく気になっていました」

 コロナ禍に入り検診にも行きづらい状況の中、乳がんだけは自分で見つけやすいからと、普段から胸を触るようにしていたと語る。そんなある日、左胸に強い痛みを感じ、くまなく胸を触ってみたら、内側の上部にしこりを見つけたという。

「何年か前にテレビを見ていたとき、乳がんを経験されたタレントさんが、しこりを“梅干しの種のよう”と表現していたのを思い出したのです。まさにそのとおりで、料理研究家の私には特にわかりやすい例えでした。自分の胸を触ることを習慣にしていたから、以前と違う感触で発見できたのかと思います」

 さらに前かがみになるとその部分にくぼみができるのを確認し、乳がんだと確信する。

「でも涙も出なかったし、意外に冷静でした。がんが遠い存在ではなかったからだと思います。一つは親友をかつてがんで亡くして、最後までそばで見届けさせてもらえたからだと思います。もう一つは乳がんや他のがんになった親族が何人かいたから。ただ、亡くなったときは老衰など、がんが原因ではなかったので、自分ががんになるとは思っていなかったのです。妹の法事での転倒がなければ、胸の違和感に早く気づけなかったかもしれません」

 治療は都内のがん専門病院を選んだが、最寄りにかかりつけ医を持つように指導されたため、提携先の中から通いやすい病院を選び、そこでマンモグラフィーやエコー、細胞診などの検査を行った。それらの病院選びから診察、入院、手術にあたっては、テレビ番組の仕事でお世話になった、三十数年来の友人が付き添ってくれたという。

「私は独身で、家族も行き来できなかったので、彼女がいつもそばにいてくれて心強かったですし、そのおかげで冷静さを保てた気がします」

 さらに、がんが判明してから毎日電話をかけてくれた親友や、冗談を飛ばしながら励ましてくれた仕事関係の後輩など、友人や知人が支えになってくれた。

「人間関係に助けられたと思います。入院中にも、3人の乳がんの患者さんと知り合い、現在も連絡を取り合っています。同じ病気の人との会話は退院した今も、私の心の支えになっています」

「豆を欠かさず食べていたら、まつげが生えてきた」

 がんは1センチのボタン程度の大きさで、医師からも「よく見つけられた」と褒められたほど。幸いにも転移のないステージ1のがんで、手術後は約1週間で退院。ただ女性ホルモンが影響するタイプの乳がんだったため、手術からしばらくたってホルモン療法をスタートする。

「1日1錠の飲み薬を丸5年間飲み続けるのですが、事前に医師から骨粗しょう症などの副作用が出る可能性があると聞いていたので、大学時代に学んだ“四群点数法”の食事法を、より一層意識するようにしました」

 四群点数法とは、女子栄養大学が考案した食事法で、食品を4つのグループに分け、バランスよく食べながらカロリーのコントロールができるのが特徴。1日3食の健康的な食生活の成果で体重増加もなく、今泉さんの骨密度は治療中でも20~30代並みを維持。ただ、副作用はそれ以外にも多岐にわたっている。

「もともと髪の量は少ないのですが、抜け毛が増えて頼りなくなりました。まつげも薄くなり、マスカラが塗れなくなって。大きな不安感に襲われたり、身体の節々が痛んだり、不眠にもなりました」

 そこでさらに着目したのが“豆”。

「豆類は乳がんの再発リスクを軽減させるという話を聞いたことがあるので、食事に欠かさず取り入れたら、まつげが生えてきたんです。このまま続けて髪にも効果があるといいなと思っています」

 とはいえ、豆だけ、カルシウムだけなど、1つのものに偏るのではなく、過不足なく食べることが大事、と念を押す。

「手軽にバランスよく食べるなら、みそ汁がおすすめ。タンパク質に野菜、きのこ、海藻といろいろな具を入れられて簡単。私は前日の余りの刺身もみそ汁に入れています」

 こうした自身の経験を生かしたレシピ本の出版も精力的に行っている。

「以前は依頼された仕事をやってきた感じですが、病気を経験してからは、今の私だからこそできることをやろうという意識になりました。がんになる前と後では考え方がまったく変わりました。私らしく、自分を生かせるように、今は生まれ変わった気持ちでいます」

 その思いはレシピ本にも反映されている。

「私と同じ悩みを持つ人がいると思うので、自分が闘病で得た経験や知識をよりリアルにレシピにしたいと思うようになりました」

ピンクリボンアドバイザーを取得

 この間、今泉さんはピンクリボンアドバイザーの初級、中級の認定を相次いで取得している。ピンクリボンアドバイザーとは、乳がんにやさしい社会を目指す新しい形のボランティアだ。

「ピンクリボンアドバイザーの試験を通じて大切なことを学びました。この認定の目的は自分の知識を相手に与えるのではなく、まずは人に寄り添って話を聞ける人であることが大事。その役割をいただいたと認識しました」

 実生活でもすでに生きている。

「乳がんと判明した知人に“ピンクリボンアドバイザーの認定を持っているから何か相談したいことがあれば連絡して”と伝えられたんです。心細い人にとっては、安心して自分の状況を話せるのではないかと。まずは身近な人が元気で闘病生活を送れるように寄り添うのが私の役目と思っています」

 今回、乳がんになったことを公表しようと決めたのも、少しでも乳がん検診や受診を促し、誰かのサポートができればという気持ちからだった。

「乳がんは私のように自分でも見つけられる病気です。私が梅干しの種という感覚でがんに気づいたように、私の記事を読んで、できるだけ多くの方が、自分で触診の習慣を身につけたり、乳がん検診に行くきっかけになったら幸いです」

 そんな今泉さんの闘病中の心残りは“がん保険”について。

「入院した日数分の給付だけでなく、検査の費用や通院時の交通費、下着やかつらなど身に着けるものを購入する必要もありますし、仕事を休んでいる間の保障もある手厚いタイプに入っておけばもっと安心だったと思いました。また、各自治体でがん治療に際してさまざまな補助金が受け取れるケースもあるので、調べたり、相談することをおすすめします」

 ホルモン療法はあと1年と数か月でひと区切りがつく。

「好きな料理を作ったり、推し活、ヨガ、金継ぎなどの趣味の時間を楽しんだり、部屋に花を飾り、手入れをしたり、この先再発の可能性もある病気なので、日々の暮らしを大切にしたいと思っています」

今泉久美さん●山梨県出身。栄養士、料理研究家。女子栄養大学卒業。同大学栄養クリニック特別講師。新聞連載や雑誌、テレビなどで活躍中。近著に『いくつになっても「骨」は育つ!』、『豆を食べる習慣が体を守る!』(ともに文化出版局)など。退院後は毎日の食事内容をブログやインスタにアップしている。


取材・文/荒木睦美

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