「住み込みバイトで寝るのは6人の相部屋。布団をかぶった私の横で、同室の連中が...」(千葉県・50代男性)
Jタウンネット / 2024年10月17日 12時31分
シリーズ読者投稿~あの時、あなたに出会えなければ~ 投稿者:Jさん(千葉県・50代男性)
若き日のJさんは、お金を稼ぐためにホテルで住み込みのバイトをしていたという。
昼は皿洗い、夜は6人の相部屋で就寝。同室の人たちは、寝ようとするJさんのすぐそばで騒ぎ続ける日々を送り......。
<Jさんの体験談>
高校を出て大学も受けず就職もせず音楽で食っていく、と夢見ていた頃のこと。
初めて実家を出て、親元から遠く離れた雪深い山のホテルのレストランで住み込みのアルバイトを始めた。
夜、怒鳴り声が聞こえて...
自堕落な生活を見つめ直すため、誰とも話さず打ち解けず独り黙々と、そして悶々と皿を洗う日々。
離婚して出て行ったお袋が作った借金を返済するためのカネを貯めるため、食事はカロリーメイトと、飲み物はペットボトルに汲んだ井戸水。住まいは6人の相部屋だった。
そこでは、20歳そこそこの誰とも話さない生意気な若造を揶揄おうとでもしたのか、同室の連中は寝床の横で連夜麻雀。それでもオレは背を向け布団を被って寝ていた。
そんなある夜、怒鳴る声が聞こえた。
「そんなんじゃ彼が寝られないじゃないか!」
その声をきっかけに、麻雀の音は止んだ。30代くらいのコックらしき人が声を上げてくれたのだった。
それ以来、夜の麻雀はなくなった。
「オレが山をおりたら...」
声をあげてくれたのはNさんという人だった。
それ以来、自分はNさんと親しくなり、山に来た理由や悶々と過ごす日々のこと、自身の境遇をポツリポツリと話すようになった。
その内飲みにも誘ってくれたり、おどけて雪山に飛び込んだり、「大丈夫だから」と寮のもう時間外の風呂に忍び込んで入ったり......。Jさんは、オレを笑わせようとしてくれた。
そして、ある日、Nさんが言った。
「オレは明日、山をおりる。そしたらこの袋をホテルの売店にいる山田って女の子に、オレからだと言って渡してくれ」
「いいですよ」と請け負ったが、内心自分で渡せばいいのにと思っていた。
その後、「オマエ電話番号教えてくれよ。オレのも教えておくから」と言われたのだが、怖いボクサーのような鋭い目をしたNさんに、オレは実は心を許しきれていなかった。
おそらくそんな雰囲気が顔に出たのだろう。Nさんは「心配するな電話はしねえよ」とメモを渡してきて、オレに山田という人に渡してほしいという袋を預け「じゃあな頑張れよ」と部屋を出て行った。
翌日、売店の山田さんを尋ねたが、店員は「山田なんて人はいないよ」と言う。訳分からず部屋に戻って袋を開けてみるとたくさんのお菓子が入っていた。
袋のお菓子は自分への餞別だったのだろう。東京から山奥に独りやってきた生意気な若造を、Nさんは気にかけてくれたのだと思う。
山を降りてNさんに電話してみたが、その番号は通じなかった。
あれっきりNさんに会う事はなかった。「ありがとう」や「さようなら」も言えず終いで最後までクソガキのまま別れてしまったこと、今でも悔いが残っている。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」「あの時はごめんなさい」、聞かせて!
名前も知らない、どこにいるかもわからない......。そんな誰かに伝えたい「ありがとう」や「ごめんなさい」を心の中に秘めている、という人もいるだろう。
Jタウンネットでは読者の皆さんの「『ありがとう』と伝えたいエピソード」「『ごめんなさい』を伝えたいエピソード」を募集している。
読者投稿フォームもしくは公式X(@jtown_net)のダイレクトメッセージ、メール(toko@j-town.net)から、具体的な内容(どんな風に親切にしてもらったのか、どんなことで助かったのか、どんなことをしてしまい謝りたいのかなど、500文字程度~)、体験の時期・場所、あなたの住んでいる都道府県、年齢(20代、30代など大まかで結構です)、性別を明記してお送りください。秘密は厳守いたします。
(※本コラムでは、読者の皆さんに投稿していただいた体験談内の場所や固有名詞等の情報を、プライバシー配慮などのために変更している場合があります。あらかじめご了承ください)
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