特急「雷鳥」が通過します――栃木県での〝疾走〟に3.4万人歓声 かわいい姿の背景に動物園の奮闘あり
Jタウンネット / 2025年1月1日 8時0分
2024年12月2日、栃木県那須町にある「那須どうぶつ王国」のX公式アカウント(@nakprstaff)から、次のようなポストが投稿され、注目を集めた。
1匹の白い鳥が疾走する様子を捉えた、わずか5秒の動画である。「特急『雷鳥』が通過します」というコメントが添えられていることから、鳥がライチョウであることが伺える。このポストには3万4000件を超える「いいね」(12月18日時点)のほか、こんな声が寄せられている。
「白いボディに流線型の顔... まさに、681系『ニュー雷鳥』だ」
「この勢いで金沢まで行って欲しい」
「可愛い特急」
「さすが速い」
「これぞ、本物」
「思わず笑ってしまいました」
かつて京阪神と北陸地方を結んでいた特急列車「雷鳥」を想い起こしてしまった鉄道マニアもいたようだが、野鳥や動物を愛してやまない動物園好きも多かった。
しかしライチョウといえば本州中部の高山に棲む希少な野鳥と聞いている。「那須どうぶつ王国」では、いったいどのように飼育しているのだろうか?
Jタウンネット記者は詳しい話を聞いた。
「このまま放っておけば近い将来1羽もいなくなってしまいます」
2012年8月に環境省が公表した第4次レッドリストで、ライチョウはVU(絶滅危惧II類、絶滅の危険が増大している種)からEN(絶滅危惧IB類、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)にカテゴリーが引き上げられた。
そこで同庁は文部科学省・農林水産省と共に、同年10月に「ライチョウ保護増殖事業計画」を策定。ライチョウが「自然状態で安定的に存続できる状態とすること」を目標として、ライチョウの保護増殖事業をスタートさせた。
その計画期間中の2018年、ライチョウが絶滅したと考えられていた中央アルプスで1羽のライチョウが確認された。
「1羽いるという事は、ライチョウが生息できる環境自体は整っている可能性が高いと考え、動物園で増やしたライチョウを野生に返す、野生復帰事業を開始しました」
取材に応じた「那須どうぶつ王国」ライチョウ担当者は、そう語る。
同担当者によると、JAZA(日本動物園水族館協会)は環境省が策定した「ライチョウ野生復帰実施計画」に則り、ライチョウの保護増殖事業に協力。ニホンライチョウは現在、那須どうぶつ王国を含む7園館で飼育されており、そのうち4園館で野生復帰を実施した。
那須どうぶつ王国も、その1つだ。
同園のライチョウ保護増殖事業の今までの活動は次の通り。
2015年 シミュレーション飼育のため、近縁種であるスバールバルライチョウの飼育開始(シミュレーション飼育:希少な種の飼育に挑戦する前に、近縁種にて飼育方法を練習すること)
2017年 ニホンライチョウの飼育を開始
2019年 ニホンライチョウの展示開始
2021年 野生のニホンライチョウを那須どうぶつ王国に連れてきて飼育開始
2022年 野生から連れてきたニホンライチョウの繁殖を行い、数を増やしてから野生に帰す(この野生復帰に成功したのは那須どうぶつ王国のみ)
そして2024年、「那須どうぶつ王国」で生まれたニホンライチョウを野生に返したのだという。動物園生まれ動物園育ちの動物を野生復帰させるのは国内初の事例で、大町山岳博物館と那須どうぶつ王国が成功したそうだ。
「特急『雷鳥』が通過します」という親しみ溢れる投稿の背景に、長年にわたる努力があったとは......。
ライチョウ担当者は説明する。SNSで発信する時は、シンプルで分かりやすい内容を心がけているのだと。
「かわいい」「おもしろい」をきっかけに、ライチョウに興味を持ってもらうのが狙いだ。
今回のXには「那須どうぶつ王国」にライチョウがいるなんて知らなかった」というコメントも多く、少しでも興味を引くことができたと、担当者は手応えを感じているそうだ。
まだまだライチョウ自体について知らない人は多い。ライチョウについて興味を持つ人が少しでも増えるよう、今後も普及啓発に努めたいと、担当者は語る。
「ライチョウという鳥が絶滅の危機に瀕していて、それを救うために環境省や動物園が奮闘しています。
今までは高山に登ればライチョウに会うことができましたが、このまま放っておけば近い将来1羽もいなくなってしまいます。
ライチョウに限らず、絶滅に瀕している動植物種に少しでも目を向け、寄附や支援など自分には何ができるのか考えてみてほしいです」(「那須どうぶつ王国」担当者)
那須どうぶつ王国内では、「保全の森」というエリアで、野生復帰をする予定のないニホンライチョウを見ることができる。
可愛い〝特急〟に会いに行き、彼らのために何が出来るのか考える。そんな旅はいかがだろう。
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