〝災害級〟豪雪の青森で実感した「先人の知恵」のありがたみ 命懸けの移動の途中で「ほっとしました」
Jタウンネット / 2025年1月7日 19時7分
2025年1月初旬、青森県は昨年末から降り続ける雪で大変な積雪となっているという。
「災害級」と呼ばれるこの豪雪の中、X上で注目を浴びたのはこんな光景だ。
1月5日、Xユーザーの「gamo.jun」(@gamojun1)さんが投稿した1枚。木造のアーケードのような通路の外側に、凄まじい量の雪が積もっている。軒まで届き、もはや壁のようだ。
「こみせを歩いている。先人の知恵、蔀の大切さ実感した帰り道だった...。」というコメントが添えられたgamo.junさんのポストには、6万7000件を超える「いいね」(1月7日夕時点)のほか、
「外が埋まってる!」
「すごいですね この雪にも耐えて安全に通れるように作られてるんですね」
「こんな豪雪なのにきちんと歩けるスペースを保持出来てる」
「先人の知恵は素晴らしいよね」
といった声が寄せられるなど、大きな話題となっている。
「こみせ」とはこのアーケードのことだろうか? いったいここは、どこなのだろうか?
豪雪でも「こみせ」には雪が流れこんでない
gamo.junさんの別ポストによると、写真が撮影されたのは青森県黒石市。4日には市内の観測地点で155センチの積雪が観測され、「令和7年黒石市豪雪対策本部」が設置された地域だ。
その市内に、重要伝統的建造物群保存地区に指定された「黒石市中町伝統的建造物群保存地区」がある。通称「こみせ通り」。
黒石市の公式ウェブサイトによると、「こみせ」とは表通りの正面に設けられた深い〝ひさし(庇)〟の、青森県や秋田県での呼び方。雪や雨をしのぐために作られたアーケード状の通路で、冬になると雪の侵入を防ぐために「蔀(しとみ)」という板が落とし込まれ、積雪時の貴重な歩行通路となるという。
黒石市の「こみせ」という空間はどんな居心地なのか? Jタウンネット記者は、gamo.junさんに詳しい話を聞いてみた。
gamo.junさんは地元・黒石で育ち、地元の歴史文化には常々興味を持ってきた。「黒石こみせ観光ボランティアガイド」を務めたり、「黒石美術会」の代表としてこみせ通りの中の一軒を利用して展示会を行ったり、地元に根付いた活動を行っている。
話題の写真は、5日に開催された総会から、徒歩で帰る途中に撮影したものだという。
「総会だったので、徒歩を選択しましたが、市内大通り、街の中心部全て危険な状態です。車も1台がやっとで対向車線が有るところではもっと危険。歩道も雪壁に囲まれ、ぬかるみにはまったり行き止まりだったり、雪降ろしで危険と車道に出されたりもしました。
道路は、歩行者歩ける場所もなく、すり鉢状になり、滑るし怖いです。転んだらひかれます。多分。(笑)どっちにしても、必要以上に疲れる命懸けの移動でした(笑)」
「帰り道もビクビク恐れながら帰りましたが、こみせという空間がありほっとしました。
友人待ちでちょっとベンチに座ってみた時、この豪雪でも雪が流れこんでないという、この状態に感心してしまったという流れです」(gamo.jun さん)
凄まじい雪によって、「こみせ」のありがたみが、つくづく実感できたというわけだ。
しかし「しばらくベンチにいましたが、お尻が冷たかった」と、別ポストでつぶやいている。たしかに周りを雪に囲まれたベンチはさぞ冷え切っていたことだろう。
私有地になっても「パブリックスペース」
黒石市公式サイトの「こみせ通りの歴史的背景と概要」というページによると、「こみせ」の誕生は、江戸時代前期(17世紀半ば)、黒石領初代領主・津軽信英が町割りを行った際に作らせたと伝えられている。18世紀には、高橋家住宅(国重要文化財)をはじめ、「こみせ」を持つ商家が数多く立ち並んでいたという。
黒石の「こみせ」は主屋1階の高さに合わせてひさしをつけた「落とし式」。雪を防ぐために落とし込む「蔀(しとみ)」や、幕板、欄間風の細工、庭への入り口部分に設けられた入母屋屋根など、通り全体の統一性を保ちつつ、家ごとに個性のある意匠が施されているようだ。
黒石の「こみせ」の空間は、江戸時代では公共のものとして扱われていたが、明治の地租改正時に私有地となった。
しかし現在もこみせの空間は多くの人々に利用されており、私有地でありながら公共性の高いパブリックスペースとなっているそうだ。
投稿者・gamo.junさんも、子供の頃の思い出をこう話す。
「このあたりももっと広範囲に『こみせ』が連なり、お店も建ち並んでいました。『こみせ』の中に商品が陳列されていたりと、雨や日射しを避けながら買い物もできました」(「gamo.jun 」さん)
黒石美術会の展示の際は、作品を「こみせ」に並べたという。雨が降っても心配なかったそうだ。
ところでXには、こんな反応もあった。
「新潟魚沼は雁木(がんぎ)って呼んでたかなぁ」
「ウチの田舎だと雁木と呼ばれます。雪国にはなくてはならない大切なものですよね」
「上越市ですが 雁木といってます。雪がひどいとき雁木がありがたかったです」
雪国・新潟をはじめ、全国からの共感のポストが続々と届いている。他にもほぼ同じ機能のものを「かりや」(鳥取県若桜町)や「こまや」(山形県米沢地方)などと呼ぶ場合もあるようだ。
呼び方は違っても、先人たちの知恵には感謝しかない。
7日、青森県の宮下宗一郎知事は、県内の10市町村に「災害救助法」を適用されたことを発表した。黒石市もその中に含まれている。
「こみせ」に守られながら、被害がこれ以上広がらないよう願うばかりだ。
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