〝行くべき52か所〟選出で「複雑」「バレてしまった」の声も 富山市のインバウンド対策、どうなってる?観光協会に聞く
Jタウンネット / 2025年1月19日 18時0分
2025年1月7日、米紙ニューヨーク・タイムズが「52 Places to Go in 2025(2025年に行くべき52か所)」を発表。日本からは大阪市、そして、富山市が選ばれた。
TVや新聞でも大きく取り上げられたので、ご存じの読者は多いはずだ。
8日には富山市観光協会が公式Xアカウント(@toyamacitykanko)でそのことを報告。ポストには7400件を超えるいいね(14日夕時点)のほか、こんな声が寄せられている。
「ついにこの時が来たんですね」
「遂に富山が知られてしまったーー」
「富山って穴場だと思ってたけど、見つかったね」
「とうとう富山が良い所だとバレてしまったーー取り分け魚が旨いんだよ」
「薄々感じてたけれど、ついに世界規模で富山の存在(魅力)がバレてしまった」
「私の故郷の魅力が世界中にバレてしまった... (オーバーツーリズムになりませんように...静かなのが良いのよ...)」
「複雑な気持ちです。。観光客が押し寄せると街にゴミが増え、マナーも悪いし、交通機関が混み合い地元の方のストレスが増えると思います」
富山が選ばれたことは嬉しいのだが、ちょっと複雑な心境になっている人も少なくないようだ。静かであるということも富山の魅力のひとつなのだから、たくさんの観光客が来たら損なわれてしまうのでは......? ということらしい。
たしかに、NYタイムズも富山の魅力について「Enjoy cultural wonders and culinary delights while skipping the crowds」――〝人ごみを避けながら文化的感動と美食を楽しめる〟と評価している。
富山市観光協会としては、いったいどのように受け止めているのだろう? Jタウンネット記者が話を聞いた。
何気ない日常こそ、特別な体験
NYタイムズ紙の「2025年に行くべき52か所」選定について、どのように受け止めているか? と尋ねると、富山市観光協会の担当者は、こう答えた。
「このような名誉ある選出をいただき、大変驚いています。そして世界に『Toyama(City)』の名前が発信されたことは非常に嬉しく感謝しております」
「今回選ばれた理由には、『能登の復興支援』という意味も含まれています。そのため、富山市を玄関口として、訪れる方々に滞在を楽しんでいただき、県内や能登(石川)、さらには北陸地域を周遊してもらうことで、能登の復興に貢献できることを願っています」
NYタイムズに富山市を推薦したのは、アメリカ出身、日本在住の作家・写真家のクレイグ・モド氏。富山市の見どころとして、隈研吾氏が設計した「富山市ガラス美術館」や、富山市八尾町で9月に実施される行事「おわら風の盆」に言及。ワインバー「アルプ」、富山おでんを楽しめる居酒屋「飛騨」、スパイスカレー店「スズキーマ」、鉄道模型が走る喫茶店「珈琲駅ブルートレイン」、音楽を楽しめるバー「ハナミズキノヘヤ」など、地元の飲食店も紹介している。
富山での体験を語り、「行くべき場所」に都市を推薦する理由のひとつとして、「観光客向けに形づくられたのではない〝実際の生活〟が営まれている様を見ることができる」という点を挙げた(原文は英語)。富山市観光協会の担当者は、モド氏のこの評価を誇らしく感じているという。
「私は、普段、X(旧Twitter)で、『雄大な立山連峰』『スーパーで買った新鮮な魚』『街を行き交う路面電車』『ガラス細工』など、今の富山市の日常をリアルタイムに発信しています。そして、3~4年前くらいから、地元では当たり前で何気ないものが、富山ならではの魅力として大きな反響(バズる)をいただくことが増えてきました」
「これらの反応から、訪れる方々が富山市の日常にこそ魅力を感じていることを体感しています。そして、地元の人たちが、富山市の日常の魅力を誇りに感じ、積極的に発信するようにもなりました」(富山市観光協会担当者)
「富山市の魅力は、他の観光地に比べると派手さがないかもしれませんが、立山連峰をはじめとする自然の風景や、新鮮な食材、そして地元の人々の何気ない暮らしの中にこそあります。それが、訪れる方々にとっても特別な体験を提供する大きなポイントだと考えています」
「地元の人々の暮らしや風景を尊重し、それを観光客に紹介して来てもらうことが、より持続可能で誠実な観光地作りに繋がると信じています」(富山市観光協会担当者)
世界一キレイなスタバ、町中でふらりと入った居酒屋や食堂で安くて旨い魚が食べられること、スーパーのお刺身・お寿司コーナーも充実していること、路面電車に乗ってゆっくり市内観光ができることなど、富山市の旅の楽しさを挙げていけば、切りがない。もちろん3000メートル級の立山連峰がすぐ間近に見えることも、ごく日常の一部だ。
そして、その〝日常〟が観光客の増加によって損なわれるのではないか? という不安が、人々に「富山の魅力がバレてしまった」という複雑な思いを抱かせているのだろう。
「行くべき52か所」に選ばれたことによる観光客の増加が予想される今、富山市のインバウンド対策は充分なのだろうか?
欧米豪の富裕層を誘致する事業を推進
富山市観光協会の担当者によると、実は富山市では2022年度から、欧米豪の富裕層を誘致する事業を次のように実施している。
【1】欧米豪の富裕層に向けた、富山市ならではの高付加価値旅行商品を造成
(富山ガラス工房でワイングラスを作り、翌日にダブルツリーbyヒルトン又はリバーリトリート雅樂倶でそのグラスで乾杯できる特別なプラン)
【2】欧米豪向けに富山の上質な魅力を伝える観光PR動画を作って公開
(動画の中で上記の高付加価値旅行商品を紹介)
【3】欧米豪の富裕層に対応できるガイド育成
【4】欧米豪の富裕層を取り扱う海外エージェントに【1】の商品を売り込み販路を開拓。
(2025年2月20日~21日に日本政府観光局(JNTO)が主催する、海外富裕層向け旅行者商談会「Japan Luxury Showcase2025」に初めて参加し、富山市を売り込む予定)
高付加価値旅行商品の中で使用される、ダブルツリーbyヒルトン富山は、世界的に有名なホテルチェーンであるヒルトングループの中級から上級クラスに位置するホテルブランド「ダブルツリー」で、富山駅から徒歩約3分の好立地。
リバーリトリート雅樂倶(がらく)は、富山市春日温泉郷にあるリゾートホテル。神通峡が目の前の風光明媚な立地で、館内および敷地内に300点のアートも展示する「川のほとり、アートの宿」である。富裕層向けのホテルとしては、どちらも申し分ないだろう。こうした欧米豪の富裕層をターゲットとした事業が推進されることによって、逆に日本人の富裕層が改めて富山市に関心を抱くことにつながるかもしれない。
他に、「富山市まちなか観光案内所」での甲冑着付けや馬に乗れるSAMURAI体験、観光マップの英語版作成、SNS(X,Instagram,Facebok,YouTube)やWEBでの情報発信なども積極的に行っていくとのこと。
オーバーツーリズムの弊害を心配する声に対して、富山市観光協会の担当者はこう語った。
「富山市を訪れる外国人は日本文化に深く魅了され、何度も日本を訪れるような旅行者であり、彼らは地元の人々の暮らしや風景に敬意を払い、上質な旅行を求めていると期待しています」
「富山市にお越しいただいた際には、しっかりとした受け入れ体制を整え、訪れた方々に満足していただき、また訪れたいと思っていただけるよう努めてまいります」
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