「大学入試の帰りに出会った女学生・Fさん。色々話したけど連絡先を聞かず、1年後...」(沖縄県・40代男性)
Jタウンネット / 2025年1月19日 11時0分
沖縄県在住の40代男性・Yさんは30年ほど前、大学受験のために関西へ向かった。
そこで同じ大学を受験しに来た女性・Fさんと出会って......。
<Yさんからのおたより>
確か1993年11月のことです。沖縄県の離島出身の私は大学受験のため、試験の前日に初めて一人で飛行機を乗り継いで大阪まで行きました。
そこに住む叔母が試験会場のある奈良県まで連れていってくれて、叔母は「明日、試験が終わったらまた駅まで迎えに行くからね」と大阪へ戻りました。
見知らぬ土地で小雨の中で試験会場の下見をし、その日はホテルで早めに休みました。
大荷物を持って試験会場へ...帰りには雨
翌日は試験後ホテルに戻らずそのまま大阪へ行くので、早朝、冬物衣類の詰まった大きなバッグを持ってチェックアウトして試験会場へ向かいました。
試験を終えてバスで駅へ向かうためたくさんの受験生が並ぶ列に加わり、しばらく待っていると薄曇りだった空がまさかの雨模様に。
身体が濡れるのはあとでどうにでもなるが、着替えなどが入っている防水でもないバッグが濡れるのはとても困ると思っていた矢先、後ろから肩をトントンとされ、「傘入りませんか?」と声をかけられました。
振り向くと一人の女生徒(以下、Fさん)が傘を傾けていました。
正直とても驚いて、悪いので断ろうかと思いましたが、バッグが気になったので「すみません。バッグだけでも」とFさんと私の間にバッグを挟ませてもらうことに。
「寒いですね」とか「試験できましたか?」とか他愛もない会話をしながら10分ほど待ってようやくバスに乗車。満席で座ることができなかったので中央の通路に二人並んで立って乗っていると、Fさんが「洋服、びしょ濡れじゃないですか!」。
バッグを濡らさず身体も濡らさないほど私が傘に入ると、確実にFさんも濡れてしまうので、右半身は傘の外に出していたのですが、バスに乗り込んだあとに私の右側にFさんが立つ形になったので気づかれてしまったのです。
Fさんはハンカチを取り出し、私の右腕や背中の水滴を拭いてくれました。
「大丈夫ですよ」とハンカチをそっと押し戻しましたが、「大丈夫です」と言って水滴が目立たなくなるまで拭ってくれました。
電車で叔父が「さっきの子がいるぞ」
恥ずかしいやら申し訳ないやらでお礼を言っているうちに駅に着き、バスを降りてもう一度お礼を言っていると、人混みの中で叔母と叔父が二人で私を見つけて駆け寄ってきました。
Fさんが傘へ入れてくれたことを叔父と叔母に話し、またお礼を言いつつFさんとはお別れして、電車に乗って大阪へ。
電車の中で社交的な叔父の隣に座って試験の出来など話していると、叔父が私の頭越しに少し離れた席に目をやって「さっきの子がいるぞ。電話番号とか聞いたか?」と聞いてきたので「それはない」と返すと「お話してこい」と。
私が振り返ってFさんを見ると、ちょうどFさんもこちらに気がついて隣の空いている席に手招きしてきたので、多分、連絡先とかは聞かないけど、せっかくなのでお話はしたいなと思ったので、隣の席へ座りました。
それからお互いの高校生活のことや、私は空手部でFさんは剣道部であることなど話しているうちに、あっという間に大阪へ入り、Fさんは鶴橋駅で乗り換えということで降車していきました。
Fさんが電車を降りて右手へ進んでいくのを車中から見送り、また叔父の隣へ戻って座ると、電車もFさんが歩いていった方向へ進み始め、ホームから改札へ上る階段のそばでFさんが待っていて手を振っているのが見えました。
まだスピードも出ていなかったので、Fさんも私を見つけられたらしく、見えなくなるまで小さく手を振っていました。
連絡先を聞いておけば...
結局、私は試験は不合格でその大学へは進学できず、Fさんとの話はここまでですが、この1年ちょっと後に、あの大地震が関西を襲いました。私の19歳の誕生日の早朝でした。
大阪の叔父、叔母、兄の無事が確認できて安心していると、Fさんとの会話を思い出しました。
「大阪寄りの兵庫県に住んでいる」。確かFさんはそう言っていました。
当時の報道では頻繁に被害が大きかったのは東灘区と報道していたので、土地勘も距離感もなく地図で東灘区を探すとまさに〝大阪寄りの兵庫県〟でした。
Fさんの身を案じても何もできず、報道で被災された方の名前が出るたびにFさんの名前を探し、名前が無いのは無事な証拠だと言い聞かせることしかできず......。「あの時、連絡先を聞いていれば」と後悔もありました。
Fさんは気さくで透明感があり、剣道部らしい凛とした心の優しい方で、今もきっとどこかで幸せに暮らしていることと思います。
今ではお顔も思い出せないくらいですが、今でもずっと心に残っていて、ふと思い出すたびに「あの時はありがとう」と感謝の念に堪えません。
誰かに伝えたい「あの時はありがとう」、聞かせて!
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