<鉄道記者コラム>「落石海岸」の鉄路、いまなお健在 旧国鉄根室本線を50年後に再訪
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年2月10日 17時0分
鉄道ファン、しっかり神奈川新聞社内にも生息しております。思うがままに訪れ、乗り、記した旅情、うんちく、郷愁…。「鉄道愛は続くよ、どこまでも」を地で行く鉄道記者コラムの最新版。
雪に残るエゾシカの足跡を追いクマザサの丘を登る。頂上の風景は雄大である。太平洋の波が寄せる落石(おちいし)海岸が大きな弧を描く。断崖の上の鉄路は根室に至る花咲線。
人気の撮影地には先客がいた。三脚に2台の一眼レフを取り付けた「撮り鉄」は海風に耐え、釧路発根室行き普通列車を待っていた。
1両だけのディーゼル車両が姿を現した。西に傾いた冬の陽を浴び、ゆっくりと静かに通り過ぎた。わずか30秒ほどの出来事。だがローカル線が織りなす豪華な舞台である。
50年ほど前にもここに来た。落石駅と別当賀(べっとが)駅の間の区間は当時、国鉄の根室本線と呼ばれた。蒸気機関車C58が客車2両と貨物車を一緒に引き蒸気のにぎやかな走行音を響かせた。
丘の風景や線路はあのときとほとんど変わらない。北海道の鉄路の多くが廃線の憂き目に遭った中では奇跡的であろう。「黄色線区」の通称がある花咲線。国や地元などの負担を前提に存続を目指さざるを得ない。
赤字だけでなく野生のエゾシカ出没も悩みである。直前を横切るため、そのたびに運転士は減速し警笛を鳴らす。遅れや運休にもつながるという。それでも花咲線ほどの魅力的な車窓はほかにない。いつまでも元気であってほしい。(O)
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