大病と闘う彫刻家・西巻さん 12年かけ命刻み込んだ干支石像、ついに十二支そろう 秦野の出雲大社相模分祠に奉納
カナロコ by 神奈川新聞 / 2024年12月28日 5時30分
新年を祝い、出雲大社相模分祠(ぶんし)(神奈川県秦野市平沢、草山清和分祠長)が飾ってきた干支(えと)の石像を巡り、20日に来年の「巳」(み)であるヘビの石像が奉納されて12年越しで十二支がそろった。大病を患いながら十二支に自らの命を刻み込んできた彫刻家の西巻一彦さん(65)=伊勢原市=は「毎年作る約束を守れたのが一番大きい。四苦八苦して歯を食いしばりながらやってきた、重みのある12年だった」と振り返った。
石像は真鶴町産の本小松石を使ったもので、高さ60センチ、重さ約250キロ。同分祠の境内にある社(やしろ)のご神体にちなんでウミヘビを刻み込んだ。「硬い石にものを刻むのは時間も労力もかかる。命を刻むような思いがなければ制作は続けられなかった」。西巻さんは12年の制作活動をそう説明した。
2011年に「ステージ3」の悪性リンパ腫が発見され、治療を経て「寛解」はしたが、いつ再発してもおかしくないと医師から言われてきた。知人から西巻さんを紹介された草山分祠長が「12年間かけて長生きできるように干支を作ってほしい」と依頼し、13年から制作に着手した。
16年には心筋梗塞を起こし、21年には悪性リンパ腫が再発した。それでも西巻さんは「仕事として受けた以上、途中でやめるわけにはいかない」と自らを奮い立たせてリハビリに励み、制作現場に戻ってきた。病状を知る知人や、毎年同分祠を訪れる参詣客からの激励も励みになったという。
西巻さんは「干支は毎年入れ替わり、石像を見る人が1年を鏡合わせのように見ていく。それぞれ思いや来年への希望などを彫刻を通して伝えられたのではないか」。制作活動を支えた妻の千佳さんは「毎年見に行きますと連絡を受け、新年を励みにしていたようだった。12年間やり遂げられてよかった」と安堵(あんど)の表情を浮かべていた。
現在の病状は「寛解」したが、抗がん剤の影響で免疫力は「乳児並み」と診断され、病気のリスクは常に付きまとう。草山分祠長からは新たに出雲大社にちなみ「因幡の白ウサギをテーマに作ってほしい」とオファーも受けた。西巻さんは「草山さんや家族、病院スタッフなど周囲に支えられ、12年生きて前向きにできた。来年は低空飛行でも新たな一歩を踏み出したい」と力を込めた。
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