アメリカのBTSと銀河で一番静かな革命 『うたた寝は生活を狂わす』(第三回)

太田出版ケトルニュース / 2019年6月11日 12時59分

アイダホ、シアトル、ワシントンD.C.……、ネットの上を宛てもなく転がりつづけける旅は続く。シカゴに到着したところで、スティーヴ・アルビニがGEZANの新譜をプロデュースしていたことを知った。リリースされたのは昨年秋。やはり、アンテナを張っていないと情報は入ってこない。考えてみれば、最後に彼らの音源を聴いたのは3年ほど前ではないだろうか。曖昧模糊な記憶、音像は鮮明によみがえらない。普段だったらそこまで気になったりしないのだが、この時ばかりはCDプレイヤーで「blue hour」を再生。スマパンっぽいフレーズが入っていたなんてことも思い出し、嗚呼、確かにこういう曲だったと。沁み入るノスタルジー。容量600ml、サーモスの真空断熱タンブラーいっぱいに入れたハイボールが、いつもより美味しかったのも気のせいではないはずだ。

ほどなくしてある晩、ひょんなきっかけで『銀河で一番静かな革命』という小説をいただいた。著者はマヒトゥ・ザ・ピーポー。GEZANのボーカルである。なんたる偶然。自己告白的なものがくるのか、ネクロノミコンも慄然する名状し難い何かなのか。この瞬間からGEZANのこともマヒトのことも、書名も、一切の検索を禁じ、情報を遮断。本を開くまでは、何もわからないようにした。そして冒頭数行で、自己告白でも奇談でもないことはすぐにわかったのである。

あとすこしで終わってしまう世界で、孤独を抱える登場人物たちは何を見つけるのか。それぞれに与えられた寿命ではなく、それぞれが同時に終わりを迎える日を目前にして、何を思うのか。4人の視点から語られ、時に彼らは交差する。雑誌のキャプションに短くまとめろと言われたら、こんな風に書くだろう。うーん、これではあまり伝わらない。

本書は紛れもなく、詩人であり音楽家である人間が紡いだ物語なのである。冒頭でいきなり訪れる無音、フィクションのなかで聞こえてくるタンジブルな生活音、はっきりと情景は浮かぶが、くどさはまったくないしなやかな筆致。テンポも心地よい。とても音楽的で、とても詩的。

映像は時間を盗むことができると本に書いたのは、神山健治監督だったか。子どもが門限を過ぎても帰って来ない親のもとに、一本の電話がかかってくる。受話器をとった母親は驚愕の表情を浮かべる。次のシーンでは家の前にパトカーが止まっている。ここまでで、誘拐事件に巻き込まれた可能性が思い浮かぶ。これが、1ヶ月の出来事を2時間に閉じ込められる映像の魔法である。歌詞に許される時間はもっと短い。たいがい3分、5分、長くて10分のなかに言葉を置いていく。それ以外ない言葉を、それ以外ない音に乗せ、尺と文字数以上の情報量を作り上げていく。

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