この夏、水俣病に触れてみよう 本や映画を紹介 武田真一さんおすすめの本も
KKT熊本県民テレビ / 2024年7月24日 19時52分
(緒方太郎キャスター)
月曜日から金曜日の午前に放送の「DayDay.」のMCで熊本出身の武田真一さんと、リモートで結んでお伝えします。今回は、この3か月、熊本のみならず、全国から注目を集めたこちらのニュースです。
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【VTR】
水俣病の懇談会の席上で起きたいわゆる「マイクオフ事件」。事件は、5月1日の水俣病犠牲者慰霊式の後、伊藤環境相と水俣病患者・被害者団体が年に一回話し合う席で起きました。
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去年、妻を亡くした松﨑重光さんが思いを話している途中。
■松﨑重光さん
「水銀を垂れ流さなかったら、こういうことにはならんかったがねと私はいつも家内と話していました」
■環境省職員「申し訳ございません話をおまとめください」
■松﨑副会長
「妻の…」
「3分間の制限時間を過ぎたから」という理由で、松﨑さんのマイクの音が絞られました。
7月、再度の懇談が、今度は3日間にわたって行われました。伊藤環境相は時間に制限なく話してくださいとしましたが、被害者側は自主的に進行に協力しました。
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【スタジオ】
(東島大記者)
全国でも連日詳しく報道され、ある意味、水俣病問題がこれほど注目を集めたのも久しぶりです。武田さんは東京でどう見ていましたか?
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(武田真一さん)
環境省の対応は残念でした。水俣病患者の皆さんの認定や補償をめぐっては、どんな症状があるのかとか、どこに住んでいたのかという、いわゆる「線引き」の議論が焦点になっていると思うのですが、こうしたことが問題になる現実を見ると、政府は当事者のみなさん一人ひとりの苦しみにどれだけ寄り添おうとしているのかなと疑問に思います。被害者の救済、そして二度と繰り返さないために、当事者の声に真摯に耳を傾けることを原点とすべきだと改めて思いました。
(東島記者)
被害者団体から出された要望のほとんどについて、環境省は「検討中」としただけで、そういう意味での成果は乏しかったのですが、実は水俣病の課題は山のようにあるということが突きつけられました。
(武田さん)
そうですね。私自身も、もっと水俣病の「いま」について知らなきゃいけないと思っています。
(東島記者)
伊藤環境相も5月1日以降、水俣病を勉強していると語りました。
【VTR】
■伊藤環境相
「5月1日以降は特に集中的に資料を読み、映画をドキュメントを見て、本を読み、多くの関係者と話し合ったり意見交換もしてきました」
再懇談の合間には、水俣病の記録を生々しく伝える「水俣病歴史考証館」などを訪れ、予定時間を大きくオーバーして熱心に話を聞いていました。
夏休みに水俣病に触れてみよう
【スタジオ】
(東島記者)
夏休みに入った子どもたちも多いと思いますので、きょうは、この夏、子どもも大人も水俣病に触れてみませんかというテーマでお伝えしたいと思います。
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まずは伊藤環境相が訪れていた水俣病歴史考証館です。こちらは水俣病患者・被害者の支援団体「水俣病センター相思社」が運営しています。水俣病の原因を突き止めるためにネコを使って実験した際のネコ小屋などが展示されています。開館日は土曜と年末年始以外の午前9時から午後5時まで。日祝は午前10時から午後4時まで。入館料は大人が550円です。
そして、水俣市の施設「水俣病資料館」です。こちらは市の施設だけに大きなところです。また、この資料館の隣にある国の施設「水俣病情報センター」にも広くはありませんが、水俣病の展示スペースがあります。どちらも入場は無料、月曜休館で、この2つの施設は渡り廊下でつながっています。
本で学ぶ水俣病
水俣病を巡っては多くの映画や本もあります。ますは本です。伊藤環境相は歴史考証館を訪れた後、本を2冊買い求めています。その2冊がこちらです。
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まずは「魚湧く海」です。1995年の政治決着と向き合った被害者団体・水俣病患者連合の軌跡をたどったものです。懇談会でマイクを切られた松﨑重光さんも登場しています。松崎さんは現在83歳ですが、この頃は55歳、「毎朝、仏壇にお経をあげて生きていることに感謝して仕事に向かう」とこの本の中で話しています。
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次の「水俣病事件と法」は、一転して法律の専門家の立場からあくまで冷静に水俣病について解説した本です。とはいえ、実は著者の富樫貞夫さんは、水俣病の最初の裁判で、どうして企業が海を汚染したらダメなのか、公害はなぜダメなのかを初めて論理立てた熊本大学の先生です。一般の人が読んでも、とても読みやすいのは、そうした富樫さんの熱い思いに裏打ちされているせいかもしれません。
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マンガもあります。こちらは原田正純医師の生涯を描いた「マンガふるさとの偉人原田正純物語」。今年出たばかりの本です。原田正純さんは、医師としての人生を賭けて水俣病に取り組んだ方です。亡くなって12年たちますが、先日の再懇談の場でも多くの患者、被害者の人たちから、原田先生、原田先生と慕う声が聞かれました。
この本は、原田さんが少年時代を過ごした鹿児島県さつま町が作り3000部を町内の学校などに配ったものです。原田さんがなぜ水俣病に関心を持ち、患者のために診察や研究を続けていったのか、わかりやすく描いています。さつま町では学校で子どもたちの教材としても使っているそうです。ただすべて配り終わっていて、もう本はないそうですが、さつま町のホームページで無料で読めます。
(緒方キャスター)
武田さんは、これまで読んだ水俣病の本のおすすめはありますか?
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(武田さん)
私は、原田先生がお書きになった岩波新書の「水俣病」という本です。NHKの熊本局に勤務していた頃から、折に触れて繰り返し読んで来ました。
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そして、映画にもなりましたが、アメリカの写真家、ユージン・スミスとアイリーン・スミスの写真集「水俣」(三一書房)には大きな衝撃を受けました。この写真集は、水俣病を告発する書として優れているだけでなく、患者さんやご家族、支援者、チッソの関係者も含めて、水俣病に関わる人たちの生々しい生き様や思いを映し出し、人間とは何か、文明とは何かを描いた優れた芸術作品だとも思います。
こちらは、フランスの美術館の売店で買ったフランス語のポケット版「MINAMATA /PHOTONOTE」です。歴史に残る優れたフォト・ルポルタージュとして、世界的に求められた名著だと思います。
(東島記者)
初心者におすすめな水俣本ですと、薄くてすぐに読めるブックレット「水俣病小史」(熊本日日新聞社)があります。また、私の本、「なぜ水俣病は解決できないのか」もありますが、これ完売していまして、今は書店やアマゾンにある分だけとなっています。
伊藤環境相も観た水俣病が題材の映画
(緒方キャスター)
再懇談で伊藤環境相は、「映画を観た」とも話していましたね。
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(東島記者)
伊藤環境相が何を観たのか調べました。
1本はジョニー・デップ主演で話題になった4年前の映画「MINAMATA」です。音楽は坂本龍一さんです。大変わかりやすくまとめられている一方で、やはり映画ですので気になる点もあります。わかりやすくするためにいろいろ設定を変えていますが、中でも、原因企業チッソが日本の地方の小さな会社のように描かれているところです。実はチッソは水俣病を発生させるまでは世界的な大企業でした。
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【VTR】
これは戦前、チッソが日本の軍部と結託して朝鮮半島に進出し、現在の北朝鮮と中国の国境沿いにある鴨緑江という大きな河に世界最大級の巨大な水力発電ダムを建設した時の映像です。どれくらい大きいかというと、ダム湖の面積は琵琶湖の半分ほどもありました。
そしてこちらは、戦後、首相になる岸信介氏が視察に訪れた時の映像です。このころチッソは、三井三菱をしのぐ巨大新興財閥と目されていました。
【スタジオ】
(武田さん)
なぜそんな巨大企業が戦後水俣病を発生させ、現在に至るのか、そしてそもそもチッソと日本政府が戦前から強く結びついていたということ、そこを知るのも面白そうですね。
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(東島記者)
もう1本、伊藤環境相が観たという映画は「水俣曼荼羅」です。日本のドキュメンタリー映画の第一人者・原一男さんが15年にわたる水俣病取材をまとめた映画です。上映時間は6時間以上もありますが、評論家の四方田犬彦さんの「患者の人生に比べればとても短い」という言葉が印象的です。夏休みにぜひじっくり見て欲しい映画です。
ちなみに原監督は、先日の再懇談も取材に来ていました。続編があるのかもしれません。
先ほど紹介したチッソのフィルムは、10年ほど前に現在の「国立映画アーカイブ」で発見されたものです。当時は私も神奈川県の倉庫まで取材に行きましたが、今はYouTubeで観ることができます。また映画「MINAMATA」はHULUやNetflixなど多くの配信で観ることができます。映画「水俣曼荼羅」はU-NEXTなどで配信されています。
夏休みの勉強・研究にすぐ役立つ水俣病の調べ方を紹介してきましたが、武田さん、いかがでしたか?
(武田さん)
水俣病は公害の原点ともいわれていますよね。人間の活動によって環境が破壊され、人間自身がむしばまれていくという構図は、いま突き付けられている気候変動や環境問題に通じるものがあると思います。私も、わかった気になっていましたが、もう一度、おさらいしてみたいと思います。
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