水俣病被害者支援の拠点「相思社」設立50年 激動の半世紀を乗り越え新しい世代へ
KKT熊本県民テレビ / 2024年11月8日 19時44分
今年5月、水俣病の慰霊式後に行われた患者団体と環境相との懇談会中、患者の発言が長いとマイクの音量が切られました。この時、患者の横にいたのは水俣病被害者を支える組織の職員です。その支援活動の拠点「水俣病センター相思社」が、設立から50年の節目を迎えました。この50年には思い継がれる歩みがありました。
■故 川本輝夫さん
「うちの親父は69で死んだ。69で。親父が死んだとき声を上げて泣いたよ。ひとりで精神病院の保護室で死んだぞ、保護室で。うちん親父は。牢獄のごたる部屋でだれもおらんところで死んだ。しみじみ泣いたよ俺は。保護室のある格子戸の中で、親父と二人で泣いたぞ。そげな苦しみがわかるか」
「水俣病センター相思社」の50年を記念したイベントで上映されたドキュメンタリー映画のワンシーン。チッソの社長に迫っていたのは、水俣病患者の川本輝夫さんです。今は亡き父の姿を、長男の愛一郎さんが見つめていました。
上映後、愛一郎さんは一通の電報を紹介しました。愛一郎さんが高校に合格した時、父の輝夫さんから届いた電報です。輝夫さんはこの頃、チッソ本社前での交渉を続け、1年以上家に帰っていませんでした。電報を送った場所はチッソ本社。
■川本愛一郎さん
「『合格と15歳の誕生日おめでとう。今から苦しい道だ、がんばれ。チッソ本社内より 父』。闘っている最中にも家族のことを思っていたんだなと」
「苦しい道が始まる」という電報を受け取ったその年、相思社の建設が始まりました。支援団体「水俣病を告発する会」の機関紙には、完成を心待ちにしている様子がつづられています。
1974年、相思社が完成。約3000万円の費用はすべて全国からの寄付でまかなわれました。その後、経営を安定させるためにキノコや甘夏ミカンの栽培に乗り出します。こうした物販が今も相思社を支えています。
一方で「自分探し」の若者たちを惹きつける場所にもなりました。元職員の高倉史朗さんです。大学を卒業後、九州を旅行中に相思社を訪ね、「1週間ほど泊まらせて下さい」と頼んだのが始まりでした。以来、川本輝夫さんをはじめとする患者たちとの交流を深め、支援活動に邁進します。
■元職員 高倉史朗さん
「川本さんと一緒に県庁に行って交渉して、大声上げてそのまま座り込んで泊まってしまう。県庁前に4か月テント張って座り込みましたから。相思社はそういう方々の運動のインフラを支えはしましたが、実は相思社がそういう方々に支えられてきたんだな、それが僕らの時代だったって思っています」
かつて相思社の理事長を務めた川本輝夫さんの長男・愛一郎さんが今、理事をしています。「これから苦しい道」。父が遺した言葉を、愛一郎さんは相思社の歩みに重ねます。
■川本愛一郎さん
「今後も苦しい道だと思います。もうそれは苦しいと思いますけれど、その苦しみの中で必ず良かったと思える瞬間というのに出会いますので、それを期待しながら職員たちが頑張って頂ければと思います」
「患者」と患者ではない「市民」が激しく対立し、地域を分断した水俣病。しかしこの日、乾杯の挨拶を務めたのは、地元の自治会長でした。
Q相思社のこういう席で地元の自治会長が乾杯の音頭を取るのは時代が変わったなあと。
■18区自治会長 川畑俊夫さん
「他にないんですよね。民間の人たちが相談に来て、親身になって相談にのってくれるっていうのはね。 そういう意味で存在価値が今後、ますます高まっていくのではないかと」
■相思社職員 永野三智さん
「相思社の50年の歴史は正直に言うと重い。重いですね。次の50年は水俣病をできるだけ 長生きさせる50年と思っている。水俣で起きたありのままを、例えば資料という形で次の世代に引き継ぐ、それこそバトン役が私たちなのではないかなと」
【スタジオ】
(緒方太郎キャスター)
取材した東島大記者です。相思社は普段はどういうことをしているのでしょうか。
(東島大記者)
水俣病の認定申請は、膨大な手続きを自分でやらなければなりませんから、その手伝いや、国や熊本県との交渉ごと、日常生活の介助など多岐にわたっています。乾杯をした自治会長の川端俊夫さんは、今年の慰霊式で祈りの言葉を述べた方です。分断された地域の絆というのは簡単には元に戻りません。水俣に「もやい直し」というキーワードが生まれて30年以上経ちますが、まだ道半ばです。しかし、こうやって着実に歩みは続いている、そう感じた相思社50年でした。
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