「人を刺してくる」と母親に告げて出て行った娘 裁判では「みんな私を見て笑う。ふざけんじゃねえ」と激昂
TABLO / 2019年5月14日 12時32分
銃刀法違反の被告、堀弥生(仮名、裁判当時28歳)は、小柄で童顔な女性で実年齢よりかなり幼く見えました。両手首に嵌められた手錠や腰縄が痛々しかったです。開廷前は涙ぐみながら傍聴席にいる両親を何度も振り返っていました。その時の不安気な表情はとても犯罪者には見えませんでした。
しかし彼女の犯行は非常に危険で悪質です。
事件は平日昼、郊外の街の駅前で起きました。
「女性が包丁を持って騒いでる」
という110番通報がありました。目撃者の女性は
「包丁を持った犯人に顔をのぞきこまれて『おめえのせいだ!』と怒鳴られました。恐怖で固まってると意味のわからないことを叫びながら走っていきました」
と証言しています。
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警官が駆けつけた時、彼女は抜き身の包丁を持って意味不明な言葉を叫んでいました。警官が「包丁を捨てろ!」と声をかけると彼女はその場でしゃがみこみ包丁を放り捨て、現行犯逮捕となりました。
包丁を持って路上を走っていた彼女の姿は多くの人に目撃されていますが、危害を加えられた人はいませんでした。
犯行動機は、「人を殺して刑務所に入りたかった」というものでした。
事件当日、彼女は台所から包丁を持ち出し同居している母親に「人を刺してくる」と告げて外出しようとしました。包丁を持ち「目つきが変わっていた」娘を止められなかった母親を強く責めることはできません。母親は娘が家を出てすぐ110番通報をしました。
前にも彼女は刃物を持って外に出たことがありました。その時は不起訴になり、彼女は措置入院させられましたが、退院後すぐ今回の事件を起こしました。このようなことを繰り返す原因は彼女自身の軽度精神遅滞と、10代のころ使用していた覚醒剤の後遺症に起因する幻覚・幻聴でした。
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「なんか、昔私が援交やってた話が駅の方から洩れてきてイヤガラセ受けました。頭きた。男がふざけたこと言ってて(幻聴)、もう男みんな死んでほしい。世の中がふざけててこうなったんです。こうなったのも全部いじめてたやつらのせいですよ。小学校、中学校、ずっといじめられてました。こんな世の中、許せないです。何も経験してない人には絶対わからない」
被告人質問では質問された内容と関係のない話をずっとまくし立てていました。
その様子を見て検察官が弁護人に、
「責任能力は争わないんですか?」
と確認していました。精神科医の鑑定結果では責任能力はあるとされています。彼女は公判中、ずっと怒り続けました。
「お母さんがもっとちゃんと止めてくれればよかったんですよ。こんなことで捕まるなんてバカバカしい。警察も憎い。みんな死んでほしい。わかりますか? 悔やんでも悔やみきれない人生だってあるんですよ!」
父親の証言では落ち着いている時もあるようですが、病気の影響で精神状態に大きな波があるそうです。公判中の彼女は、周りのもの全てが自分を傷つける敵に見えているようでした。
「包丁を持った私に顔をのぞきこまれた女の感じた恐怖なんて、そんなの理解できません! 普通に幸せそうな人だったから! 私は同じことされても怖くない。別に刺されて死んでもいいから。これだけ世の中に裏切られ続けてたら理解なんてできるわけない! 子供も大人もみんな私を見て笑う。ふざけんじゃねえって思う」
公判中の態度から見て反省をしている様子は全くありません。被害者こそいませんが通り魔と変わりない犯行です。
ただ、彼女の前後の脈絡も何もない供述はこの世界、そしてそこに生きる私たち全員に突きつけられた怒りの声です。精神障害者の被害妄想、と切り捨てることは簡単ですが、彼女は苦しいと訴えています。彼女の声を無視すれば、彼女の苦しみは今後も終わりません。
この裁判は世界を自分の力で裁こうとした彼女を裁く裁判です。彼女の目に映っていた世界は、彼女に対してどれほどの罪を犯したのでしょうか。
この裁判の判決は懲役4ヶ月、執行猶予3年でした。(取材・文◎鈴木孔明)
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