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偽ベートーベン・佐村河内守氏の言動に見られる「危険な兆候」について

TABLO / 2014年2月16日 10時25分

偽ベートーベン・佐村河内守氏の言動に見られる「危険な兆候」について

「全聾の作曲家」として騒動の渦中にいる佐村河内守氏(50)が、「3年前くらいから耳が聞こえていた」との謝罪文を公表した。2月6日に、ゴーストライターだと記者会見で告白した大学講師の新垣隆さん(43)は「耳が聞こえないと感じたことはない」と話していた。35歳で両耳が聞こえなくなったことを自伝で書いていた。佐村河内氏は障害者手帳を取得している。仮に聴力あるとすれば、手帳を発行した横浜市を騙していたことにつながる。

 佐村河内守さんが公表した謝罪文を、朝日新聞デジタルが掲載している。

 この中で佐村河内氏は嘘をついたことを告白した。ゴーストライターが言っているように、音楽の経歴は嘘と認めている。一方で、「出会った初めころから聞こえていたはずだと言われていることは事実と違います」と、新垣さんの告白を否定している。この話を聞いたときに、頭に浮かんだキーワードが「演技性人格障害」だ。アメリカの精神医学会による診断基準DSM-IVによると次の通り。

 過度に情緒的で、度を越して人の注意を引こうとする行動の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)で診断される。

1. 自分が注目の的になっていない状況では楽しくない。

2. 他者との交流は、しばしば不適切なほどに性的に誘惑的な、または、挑発的な行動によって特徴づけられる。

3. 浅薄ですばやく変化する感情表出を示す。

4. 自分への関心を引くために絶えず身体的外見を用いる。

5. 過度に印象的だが内容のない話し方をする。

6. 自己演技化、芝居がかった態度、誇張した感情表現を示す。

7. 被暗示的、つまり他人または環境の影響を受けやすい。

8. 対人関係を実際以上に親密なものとみなす。

 筆者は専門家でもないので、診断する立場にはない。しかし、「演技性人格障害」にあてはまるのではないかと推測できる要素は少なくない。たとえば、嘘をついてまで「耳が聞こえない」立場を維持しようとし続けたのは、1、4、6、7は当てはまるように感じる。また、新垣さんから関係解消を申し出ると、佐村河内氏は「夫婦で自害しお詫びしようと思います」という電子メールを送ったと言われている。これは自殺をほのめかすという意味で、2の「挑発的な行動」として位置づけられなくもない。

 佐村河内氏は聴覚障害者2級の障害者手帳を持っていたという。障害者手帳は、市が指定した医師の診断に基づき、書類等で審査をする。等級を変更することはあっても、更新手続きは必要ない。謝罪文の内容が本当であれば「3年前くらいまでは、聞こえていなかった」ということであり、逆に新垣さんが印象操作をしていることになる。

 耳が聞こえないことが虚偽だった場合、横浜市に対する詐欺になる可能性もある。もちろん、刑事事件になるためには責任能力が問題となる。仮に演技性人格障害だった場合、それは人格の歪みであって、それだけで刑事責任を免責できる「心身喪失」、あるいは軽減できる「心身耗弱」とは言えない。

 1989年に東京埼玉連続幼女殺傷事件が発生した。宮崎勉死刑囚=死刑執行済=は、精神鑑定で、1)人格障害だが完全な責任能力がある、2)多重人格で責任能力は限定的、3)総合失調症で心神耗弱、という三種類が出された。裁判所は人格障害とした上で、責任能力があるとされた。

 また、2001年6月8日、大阪教育大附属池田小学校に、宅間守死刑囚=死刑執行済=は児童8人を殺害し、ほか児童13人、教諭2人に重軽傷を負わせた。宅間死刑囚の場合は、妄想性人格障害とされたが、責任能力ありとされ、死刑判決を受けた。

 佐村河内氏が、もし「演技性人格障害」などなんらかの人格障害だとしても刑事責任が認められる可能性は高い。さらに詐欺までが問われれば、その責任から逃れようがないだろう。

Written by 渋井哲也

Photo by 朝日新聞デジタル

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