通り魔事件の犯人宅周辺を歩く
TABLO / 2019年5月30日 19時42分
川崎市で起きた児童ら19人殺傷事件から3日がたったが、いまだ犯人・岩崎隆一容疑者の動機はもちろん、人となりなどもはっきりとつかめない。その理由として考えられるのは、容疑者が極度に孤立した生活を送ってきた、ということだろう。筆者はその孤立感の一端でも知るきっかけになれば、と容疑者が暮らしていた自宅周辺を歩いた。
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今回、事件でマスコミが流す容疑者の写真(いわゆる雁首写真)は中学時代のもので、散発的に報道される内容も「(中学時代に)キレたことがある」「近隣住民とささいなトラブル」があったという程度。つまり、容疑者は人との接触がほとんどないのだ。
さらに、警察による家宅捜査などによれば、岩崎容疑者はパソコンや携帯電話を所持していた様子もないという。これは、いまの社会の“概念”からすれば、存在しないに等しいとも言えよう。
事件以降、自宅周辺はマスコミ陣で溢れておりメディアスクラムの状況を呈している(筆者もそのひとりである)。それだけに住民のいら立ちも相当なもので、黒塗りのハイヤーで乗りつけていた大マスコミが「家の前に、路駐をしないで!」と怒鳴られている場面も目撃した。
容疑者の自宅がある川崎市麻生区多摩美(たまみ)は、多摩丘陵に位置する閑静な住宅街である。最寄りの駅周辺に住む人によれば、
「高度経済成長以降に、立てられた住宅地。それだけに、サラリーマンなど比較的安定した人たちが住んでいるイメージがる」
ということだ。
もっとも、初期に住宅地を形成していった世代はいまや高齢になっており、実際、高齢者らが2、3人集まって話す姿がみられた。反面、住宅地ゆえにそこに住む人たちはある程度固定化されており、保守的な側面もあるのではないか。
岩崎容疑者に関しては、メディア疲れもあるのだろうが、周辺住民はほとんど語らない。というより、実際にかかわりがないという印象も受けた。つまり、容疑者は保守的な住宅街で住民はもちろん、扶養してくれる高齢のおじ夫婦、さらに現代社会必須のネットとも隔絶した生活を送り、なんらかの理由で人生に絶望。この卑劣な犯罪に走った可能性が高い。
ドライブレコーダーや防犯カメラで少しずつわかってきた容疑者の行動は、事件当日の朝、近隣住民に「おはようございます」と一声かけ、ウグイスが鳴くのどかな丘陵を駅方面に下り、小田急線で3駅の登戸駅に降り立ったということ。そこで、バスの進行方向から(つまり児童らの背後から)2本の包丁を振りかざし、凶行に及んだのだ。
被害者は、保守的なかつての新興住宅地に潜んでいた、幽霊のような存在が発する強烈な殺意の犠牲者となった。テレビなどでは、「専門家」があれこれ犯人像を“推理”するのに忙しいが、到底、この存在感希薄な人間の深奥部を探り当てることなどできまい。ましてや、ハイヤーで乗り付けるような、きらびやかな世界にいる大マスコミには。(取材・文◎鈴木光司)
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