元関脇・琴富士も手を染めた「偽装結婚」の報酬や夫婦関係の実態
TABLO / 2014年2月22日 12時0分
![元関脇・琴富士も手を染めた「偽装結婚」の報酬や夫婦関係の実態](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/knuckles/knuckles_1249_0-small.jpg)
1991年の名古屋場所で平幕優勝するなどして活躍した大相撲の元関脇琴富士(49、本名:小林孝也)が公正証書原本不実記載・同行使の疑いで逮捕された。
これはつまり、「偽装結婚」をしていたという疑いで、小林容疑者は飲食店従業員で韓国籍の李基賢容疑者(29)との婚姻届を台東区役所に提出している。この件で小林容疑者は李容疑者から謝礼として合計125万円を受け取っていたというが、李容疑者は別の日本人男性と同居しており、小林容疑者との結婚生活の実態はなかった。
このような「永住資格を取るための偽装結婚」「日本で就労し続けるための偽装結婚」は珍しいことではない。以前、わたしは足立区竹ノ塚で働くフィリピン人女性に取材をしたことがある。竹ノ塚は知る人ぞ知るフィリピンパブのメッカで小さなエリアに50軒近くの店がひしめき、すべてのテナントがフィリピンパブで埋まっている雑居ビルもあるほどだ。
フィリピン人の名前はマリーさんとしておこう。年齢は30代後半、日本に来て約8年になる。フィリピン人特有のくりっとした大きな瞳と愛嬌のある笑顔で誰からも好かれそうな雰囲気である。はじめはフィリピンパブでの仕事について聞いていたのだが、偽装結婚の話になると、明るい表情が突然曇った。取材場所はフィリピンパブではなく、近所のファミリーレストランだったのだが、周囲に知り合いがいないか確認するような動作をした。これは面白い話が聞けそうだ。
「マリーさんはしてるの?」
わたしが切り出すと、マリーさんは頷いた。
「してるよ」
「いくらぐらいかかるの?」
すぐには答えてくれなかった。知り合いをお店につれていくというと、マリーさんは口を開いた。
「1年目は160万」
1年目、という言い方がわからない。重ねて尋ねると、マリーさんは吹っ切れたように答え始めた。
「2年目はまた80万円かかる。3年目以降は毎月5万円ね」
3年目以降が月々の支払いになるというのは意外だったが、少し考えれば結婚というものは継続的な状態を示すものである。その状態の維持費と考えると納得できる。
最短のケースでは結婚後3年で永住権を取得し、離婚できることもあるようだが、入管のチェックも厳しくそれほど簡単ではないようである。現にマリーさんも取材時は絶賛偽装結婚中だった。
マリーさんは最初興行ビザで日本にやってきてフィリピンパブで働いていた。しかし、ビザの期限が切れてしまえば再入国できる可能性は低い。切羽詰まったマリーさんはブローカーに偽装結婚の斡旋を依頼した。
「仲介してくれたのはどんな人?」
「わたしはお店を世話してくれたフィリピン人」
フィリピン人のブローカーならば裏社会との接点は多い。
「その他に、怪しい日本人がやっていることもあるし、ヤ・ク・ザがやっていることもあるよ」
なにが面白いのか、ヤクザと言ったところでマリーさんはケラケラと笑った。
マリーさんのお相手はと聞くと、沖縄出身の30代前半の人だという。あまり立ち入った話は聞けなかったが、どうやら借金があるようでその返済のために偽装結婚の相手役としてあてがわれているらしい。これも一種の貧困ビジネスと言ってもいいだろう。
その相手とは引き合わされた後に、実績作りのために少し暮らしただけで、その後は入管の査察があるという情報が入ったときに短期的に生活するだけだという。偽装結婚から本当の恋愛に発展し、そのまま2人は幸せになりましたとさ、というような現代風昔話のようなことはないのだろうかと想像していたが、そのようなケースは極めて少なそうだ。女性は稼ぎのいい日本で働きたいだけだし、その結婚相手となる男性は問題がある人が多く、利害の一致こそ見られるものの、真剣交際には発展しそうにない。
竹ノ塚での収入は、月に20~30万円だという。その中から偽装結婚を続けるための費用5万円を払い、生活費を引いたらさほど手元には残らない。それでも日本とフィリピンの物価に差があるため、日本で働くことのメリットは大きいという。マリーさんはフィリピンの家族に仕送りをしているというが、熱心に貯金もしており、日本で働けなくなったらフィリピンに帰って悠々自適の生活を送るのが夢だと語った。
「お店の子って偽装結婚してる人は多いの?」
「たぶん、多い」
たぶん、という言い回しが気になった。
「よくわからないの?」
「その話は誰も触れないよ」
店内では偽装結婚の話はタブー扱いになっているという。仲の悪い同僚もいるし、時には喧嘩に発展することもある。そのときに「偽装結婚」の事情を知られていれば、入管にタレコマれる危険性がある。そのことをみな理解しているから、あえてそこには触れずにいるのだ。
マリーさんは首をすくめて言った。
「みんな入管には怯えているよー」
その割にはきっちりとパフェまで平らげ颯爽と帰っていったところにフィリピン人女性の強さを見た気がする。
Written by 草下シンヤ
Photo by 「PHW」Vol.52
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