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佐村河内守や五輪報道で問われるメディアの社会的責任 by岡留安則

TABLO / 2014年2月28日 17時23分

佐村河内守や五輪報道で問われるメディアの社会的責任 by岡留安則

 ソチ五輪がようやく終わった。五輪期間中は、連日連夜のテレビによる繰り返しの報道でいささか食傷ぎみだった。高額の放映権料を回収するという営業面の目的もあったのだろうが、メディアの異様な煽りや盛り上げに対して視聴者としては違和感を憶ざるを得なかった。何せ選手よりもスポーツ記者やコメンテーターの方が冷静さを忘れているのではないかと鼻じらむ場面が多々あった。日本の獲得したメダルは8個。金メダルはフィギュアの羽生結弦ただ一人。メダルの呼び声が高かった浅田真央や高梨沙羅は不調に終わったが、メディアに煽られたことで大きなプレッシャーを受けただろうことは容易に想像がついた。

 羽生選手など若手のアスリートたちの活躍は大いに称賛したいところだが、ソチ五輪を商売にするために、感動のドラマ作りをいの一番に考えているメディアの心根が透けて見えた。6年後の東京オリンピックでは、五輪を商売や利権に利用しようという面々が跳梁跋扈するだろうが、今から考えても気が滅入る話である。 

 東京オリンピックでは、金メダルを20から30個を目標にしているといわれている。次の冬季五輪は4年後に韓国の平昌で行われる。安倍政権は隣国の韓国や中国との外交関係は最悪の事態に陥ったままだ。そこで、安倍総理の国策である愛国心が五輪に導入されたら、オリンピックも民族や政治によって歪められた祭典になりかねない。

 今や、オリンピックは参加することに意義があるという憲章じたいを変質させており、国力や政治の延長線としてとらえられる可能性がある。オリンピックが政治的に利用される側面があるのは歴史が証明している事実である。かつて、「日本は神の国」発言で顰蹙を買った森喜朗元総理が代表として仕切る東京オリンピックとなれば、その危惧の念は捨てきれないはずだ。浅田真央に対しても「あの子は、大事な時に転ぶ」の無駄口で批判を浴びている。

 ソチ五輪は終わったが、メディアにおける過剰な報道はいましばらく続くはずだ。ならば、金権体質へと大きく変貌したオリンピック機構に対してメスを入れることもメディアの社会的使命のはずだが、商売優先の発想を克服しない限り、期待は出来ないだろう。スポンサーに関係ないNHKあたりがNHKスペシャルで取り上げて欲しいところだが、新会長の籾井勝人、経営委員の作家・百田尚樹など、安倍タカ派政権のお友達ばかり。五輪は政治利用の絶好の機会だといわんばかりの面々には、こうした思いが通じるはずもない。

 NHKといえば、佐村河内守氏のゴースト作曲家が名乗り出た一件を思い出す。いつから耳が聞こえていなかったのか不明だが、ゴーストの作曲家は、佐村河内氏の耳が聞こえないという認識を持ったことはないと語っている。

 このゴースト作曲が表ざたになった時、南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領の葬儀の席で、意味不明の手話を演じた人物と同じくらい衝撃を受けた。どちらも苦笑せざるを得ない珍事だった。

 しかし、手話の人物はともかく、佐村河内氏の社会的責任は重い。刑法に抵触する可能性もあり、道義的にも許されるものではない。しかし、この人物を持ち上げたのは、NHKのドキュメンタリー番組を含めたメディア報道である。耳が聞こえないのにあれだけ感動的な曲を作る人物という英雄像を作り上げた。

 メディアの社会的責任もさることながら、基本的な取材や調査すら手抜きしていたというわけである。たかが、オリンピック、されどオリンピックにも通じることだ。メディア好みの感動のアスリート物語を仕立てあげても、そこに虚偽性が含まれていれば、国民に誤ったイメージを発することになる。五輪の実績をステップにして政治家に転身した橋本聖子のような選手もいるではないか。

「たかがオリンピック」報道を批判してきたのは、長時間にわたる放送によって、広く国民に伝えるべき情報が知らされないことである。ソチ五輪でロシアのプーチン大統領に会いに行った安倍総理に関係する報道も少なかった。

 もっとも、ロシアの政情不安を考慮して参加を見送ったオバマ大統領のケースもあり、五輪と政治は不可分の関係にあるともいえる。安倍総理がプーチン大統領と会談したのも、北方領土問題やロシアの天然ガス輸入へのステップとしての位置づけがあったはずだ。

 安倍総理のロシア訪問に触れれば、米国や欧州がなぜ不参加なのかにも言及せざるを得ない。幸いというべきか、五輪開催中のテロ事件は起きなかったが、隣接するウクライナではヤヌコビッチ大統領が失脚するという政治クーデターが起きた。ロシアへの依存を強める大統領への不信感が背景にあった。反大統領派はロシアよりもEUへの接近を求めていた。ソチ五輪報道の舞台裏では、こうした政治的クーデターも進行していたのだ。

 日本はどうか。五輪報道に国民が熱狂している間に、安倍政権はタカ派の本性を次々に発揮している。安倍政権のヤリクチを見ていると、もはや立憲主義や民主主義のレベルを越えて国粋主義へ突入している。官邸では安倍総理のお友達が失言を乱発。衛藤晟一首相補佐官が米国が安倍総理の靖国参拝に失望したとコメントしたことに対して「失望した」とブログで意見と映像を公開した。

 安倍政権はブログの閉鎖を求めたが、意見に関しては個人的見解とお咎めなし。安倍総理の経済ブレーンといわれる本田悦郎内閣官房参与は、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」のインタビューで、「日本が強い経済を必要としているのは、より強力な軍隊を持って中国に対峙するため」との本音を吐露。同紙はアベノミクスの中心的な役回りを担う本田内閣官房参与に対し「神風特攻隊で涙ぐむナショナリスト」とも書いている。

 先のNHK会長・籾井勝人氏の暴言記者会見やNHK経営委員の作家・百田尚樹の東京裁判や南京大虐殺をめぐる発言を理由に、キャロライン・ケネディ駐日大使は、NHKの取材に難色を示しているとも報じられた。集団的自衛権行使や武器輸出三原則の解除、原発再稼働などの国策を推進する安倍政権の独裁政治は着々と進行しているが、その背後では最大の同盟国・米国から次々と横やりが入っている。これも安倍政権の傲慢さや驕りが原因だが、周辺にトラブルの種をまいているという事だろう。そうした事実を知りながら五輪報道にエネルギーを注ぐ日本のメディアの怠慢の結果と言わざるを得ない。

(連載:岡留安則の編集魂 第7回)

Written by 岡留安則

Photo by 沖縄から撃つ!「噂の眞相」休刊、あれから7年

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