香港はデモで“新疆ウイグル自治区化”する? 若者たちの異様な「デジタル断ち」とは|西牟田靖
TABLO / 2019年6月18日 13時50分
このところ香港で100万人を越える大規模なデモ(主催者発表)が相次いで発生している。当局は、催涙弾やゴム弾(金属をゴム膜で覆っている弾)が発射されるという、強引な事態の収集を図っている。これまでの1週間で約80人が負傷(警官含む)、15日夜には抗議活動を続けていた男性が転落死している。
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一連のデモは「逃亡犯条例」の改正に反対するもの。改正されれば、これまで香港が協定を結んでこなかった国や地域との間で、犯罪容疑者の引き渡しが可能となる。その引き渡し先に中国本土が含まれている――そのことを香港市民は問題視しているのだ。
香港市民が立ち上がる理由
以下、詳しく見ていこう。
1997年7月に香港が中国に返還された際、「50年間は資本主義と生活洋式を変えない」という一国二制度が認められた。つまり、2047年まで香港は、中国本土とは違う、西側の体制が維持されることが確約されていたのだ。
しかし自由は確実に、真綿で首を絞めるようにして、着々となくなってきている。議会は親中国派しかトップに立てないように議会を握られていて、共産党のコントロール下に置かれるようになっている。しかもだ。実際、香港では近年、複数の書店関係者などが拘束され、一旦、行方不明になった後、本土で刑事罰を受けるといったことが相次いでいる。
「逃亡犯条例」が改正されれば、こうしたことがこっそりとではなく、おおっぴらに出来るようになる可能性が高い。そうすれば、デモの自由や言論の自由は死に絶えてしまう。そうならないために彼らは立ち上がっているのだ。
デジタル断ちをする参加者たち
さて。注目したいのは12日のデモで、参加者が、異様とも思える行動をとったことだ。
『香港デモ、参加者は「デジタル断ち」 当局の追跡警戒 「新疆化」恐れる声も』(AFP2019年6月14日)https://www.afpbb.com/articles/-/3230038
この記事に掲載された写真によると、参加者の一部は黒いTシャツで統一。ゴーグルに防塵・防毒マスクを装着し顔を隠している。
そのほか、こうも記されている。
『携帯電話の位置情報はオフに、列車の切符を買うのは現金で、ソーシャルメディアでのやりとりはすぐに消去──。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐる大規模デモでは、当局の監視や将来訴追される危険を回避しようと、テクノロジー通の若者たちが「デジタル断ち」している』
このニュースを読んで連想したのが、昨年起きた渋谷ハロウィン軽トラ横転事件の顛末だ。この事件の犯人は、発生からわずか2週間で相次いで逮捕されている。というのも、警察が、現場で撮られた写真等に写った顔と一致した、防犯カメラ映像があったからだ。香港デモ参加者たちが、同様の逮捕を恐れるのであれば、顔を隠すだけで、証拠隠滅が図れる。
であれば、デジタル断ちというのは過剰反応ではないか。
すでにあるデジタル監視社会というディストピア
しかし、そうとも言い切れない。このような過剰とも思える行動を参加者たちが取ったのは、彼らが中国本土の現状を知っているからであろう。
中国の各大都市にはすさまじい数の監視(防犯)カメラが設置され、当局がやる気になれば、顔認証やIDカードなどの紐付けによって、すばやく洗い出し逮捕するようなシステムが出来上がりつつある。インターネットは金盾(グレートファイアウォール)という情報検閲が敷かれていて、当局が問題視するサイトは見られない。SNSは監視されている。スマホとGPSが紐づいて移動経路やまたは地下鉄などの移動のルートというのもそれこそやっぱり当局がやる気になればすぐに補足できるはずだ。
世界第二位のGDPをほこる中国。その都市部では、今や日本と変わらない、もしくはそれ以上の生活を送ることができる。だが一方でひとたび当局に目をつけられれば、理不尽な理由で逮捕され、ほぼ問答無用で罪に問われる。そのとき今後ますます利用されるはずなのが、上記の監視システムなのだ。
中でも、もっともエグい監視体制が布かれているのは西端にある新疆ウイグル自治区だ。
ここ数年、現地では凄まじい監視体制が布かれている。ところによっては50メートルおきに交番があり、夥しい数の警官が街に配置されている。ウイグル人の持つスマホには監視アプリが強制されている。外国に電話すると数時間後には当局から電話がかかってくる。ウイグル人はパスポートを持てず、外国から帰ってきたウイグル人は拘束される。すでに100万人以上の人びとが収容されているという話もある。
そんな絶望的な監視社会が中国の西の端に展開されている。というのもこの地域にはイスラム教徒が多く、反政府デモが多い。そのことから、共産党政府は恐怖でパニックで陥っているのではないかと思えるぐらいの、過剰な警戒体制を布いている。
今後、香港はどうなるか?
話を香港に戻そう。
今後、逃亡犯条例が改正され、いよいよデモが許されなくなると、香港はひどい社会になる可能性がある。もちろん、香港市民が大人しくしていればこれまで通りだろう。しかし規制に対して反対するデモが相次げば、共産党政府の香港への弾圧は激しさを増すことになるはずだ。そうして弾圧が激しさを増せば、最悪、新疆ウイグル自治区同様の厳しい弾圧体制が敷かれてしまうかもしれない。
香港には顔写真入りのIDカードがある。本土にも似たようなカードがあるが、一国二制度だけにシステムは別。これがもし今後、システムが統合されれば、顔を隠していても、IDカードに紐付いた移動情報やSNSでのやりとりから足がついてしまう可能性がある。しかも改定案が改正されれば、デモに参加したという理由で、おおっぴらに逮捕が可能となってしまう。
救いなのは共産党政府はお金儲けが何より大事だということだ。香港は国際金融市場において世界有数の最重要都市である。デモを弾圧し、本土並みとなってしまえば、香港の国際的な信用は地に落ちる。そんなことは共産党政府といえども易々と実行してしまうとは思えないのだ。(文・写真◎西牟田靖)
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