柏連続通り魔・竹井容疑者の叫び「ヤフーチャット万歳!」を読み解く by渋井哲也
TABLO / 2014年3月13日 18時0分
千葉県柏市の通り魔事件で逮捕された竹井聖寿容疑者(24)は、任意同行の際に「ヤフーチャット万歳!」と叫んでいた。Yahoo!チャットユーザーとして多くの知り合いがいたと言われている。また、ニコ生では生主(ユーザー生放送の配信者)だったことも報じられた。ネット上では「除悪」を名乗り、この二つのコミュニティに属していた竹井容疑者はどんなユーザーだったのかを読み解いてみたい。
Yahoo!チャットは、Yahoo!Japanが運営している公式のチャットサービスだ。以前はブラウザからのアクセスも可能だったが、2007年4月、Yahoo!メッセンジャーからのアクセスのみでできるチャットサービスになる。そのため、以前から比べれば、知名度も落ちて行く。このYahoo!チャットには、公式の「Yahoo!ルーム」と、ユーザーがチャットルームを作成できる「ユーザールーム」がある。また、「エンターテイメント」や「コンピュータとインターネット」「スポーツ、レジャー」「学校と教育」「政治」「出会い」などのカテゴリがある。ユーザーの間ではチャットルームは「部屋」と呼ばれていた。
筆者もヘビーユーザーだったことがある。2002年ごろ、草野球で右腕を骨折した。治るかどうか不安があり、医療関係者が多いと思われた「健康と医療」というカテゴリに入り浸っていた。また、複数のアカウントを得られることから、「健康と医療」の部屋以外の、例えば「エンタメ」の部屋にも同時に入っていた。複数の部屋にいる場合は「多窓」(多くのチャットウィンドウが開いている状態)と言われていた。
チャットの特性はリアルタイムだ。同じ時間帯で繋がっている人が会話を楽しむことができる。時間帯が違ってもコミュニケーションできる掲示板とは違う。そのため、自分が「部屋」にいない間の会話が気になることもある。仕事をしていたり、リアルな友だちと会っているときでも、チャットの会話が気になる。飲み会で自分が帰ったあとにどんな会話がなされているのか気になることもあるが、チャットでもそれが起きる。
竹井容疑者は、Yahoo!チャットに居場所を求めていたようだ。リアルタイム性を求めて、しかも居場所を求めるということは、ずっと誰かとつながっていたい、という心理があったと思われる。そこには不安や寂しさ、孤独感をイメージさせる。チャットに居場所を求めて依存傾向が強まる話を、2003年ごろ、拙著『チャット依存症候群』に書いた。竹井容疑者もそうしたユーザーの一人だったのだろう。
また、竹井容疑者は「喧嘩部屋」にいたと言われている。いわゆる喧嘩チャットができる部屋だ。もともとはアメリカで始まった、チャット上のディベートのようなものだが、その発言の正しさが評価基準ではなく、言い負かせることができるか、反論の余地を与えないか、といった独自の雰囲気がある。そこに居場所を求めると、喧嘩口調になったり、いかに自分が悪者/あるいは賢者であるのかも求められる。
どんなつながりであれ、つながるには「ネタ」が必要になる。趣味や興味、ニュースの分析、知識、面白さ、エロなどがそれにあたる。そこで居場所を確立するためには、「ネタ」を提供する側になるのか、消費する側になるかだ。誰かのファン(囲い)になってしまえばいい。消費することによって居場所を得ることもできる。その意味では、竹井容疑者がYahoo!チャットの囲いだった。
ただ、それでは飽き足らなかったのか。竹井容疑者はネタ提供をしたかったのだろう。「除悪」というハンドルネームの意味はわからないが、悪を連想させる何かだったと思われる。具体的には、白い粉を「覚せい剤」だとして、周囲にワル自慢をしたり、どこまで真実かはわからないが、前科について数多く触れている。
Yahoo!チャットの人気者になるためには、ネタが豊富な人物でなければらない。恐い、悪いとしてもそのネタが途切れてしまえば、Yahoo!チャットでは相手にされない。喧嘩部屋では知識競争も行なわれる。ネタ提供の場合でも、ユーザーを楽しませなければならない。ユーザーの反応を見る限りでは、楽しませるユーザーではなかったようだ。
居場所がほしくてYahoo!チャットにアクセスしながらも、そこでも疎外されたといったことだろうか。このあたりは、秋葉原事件の加藤智大被告(2審では、死刑判決を下した一審を支持。最高裁へ上告中)と似ている。竹井容疑者は居場所をつくろうともがいていたが、適切な距離感を得られる相手としては見られていなかったのだろう。
一方、ニコ生の生主でもあった。プロフィールでは特異な内容が書かれている。しかし、悪の権化にもなりきれていない。神戸連続児童殺傷事件や大阪教育大附属池田小学校事件、オウム真理教事件にも関心があったようだ。スカイプのサムネイルは「麻原彰晃死刑囚」だ。しかし、事件に特に詳しいわけではない。ニコ生の場合、コミュニティの人気(登録者数)に応じてレベルがあがるが、それも低い位置にあった。
こうした情報から考えられるのは、危ないキャラだったかもしれないが、Yahoo!やニコ生では特に目立ったユーザーではないという印象だ。他のユーザーと比較して、面白い点もコワい点もネット上には見受けられない。むしろ、ウザがられていたように思える(このあたりは事件後の評判なので、事件前の印象とは異なる可能性もある)。そうなると、疎外されることはあれ、居場所を確立することは困難になる。
Yahoo!チャットは彼なりに、自分の居場所だったのだろう。だがそのYahoo!チャットは今月末でサービス終了する。そのタイミングでの犯行だったが、ネット上の居場所づくりに影響した可能性も否定はできない。ネット上でのネタづくりも、コミュニケーションも困難ならば、リアルでそれを証明しようと思ったのかもしれない。ただし、家族関係や生育歴についても明らかにならなければ、全人的な評価はできないところである。
Written by 渋井哲也
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