女子大生が初対面男性を承諾殺人、自殺願望者が集う「心中グループ」の闇
TABLO / 2014年4月4日 13時5分
島根県警松江署は、インターネットで知り合った無職の岡田湖樹(みずき)さん(31)を殺害したとして、名古屋市に住む女子大生(18)を承諾殺人の疑いで逮捕した。調べによると、1日深夜から2日早朝にかけて、岡田さんの祖父が所有する松江市北堀町の空き家で、岡田さんの承諾を得て殺害した疑いだ。
少女は「殺してくれと頼まれ、首を絞めた」と供述し、容疑を認めているという。少女は母親に「ネットで知り合った男性に会いに行く」と行って連絡が取れなくなっていた。その後、少女が母親に連絡。2日朝、母親が空き家で岡田さんと少女を見つけた。部屋には火の付いた練炭があった。母親は、「娘が無理心中しようとした現場に男性が倒れている」と110番通報した。同署は詳しい死因を調べている。
現場は元アパートの空き家で、広島高等検察庁松江支部や広島高等裁判所松江支部、島根県庁も近い。2階の一室に2人がいた。
「火のついた練炭があった」ということは、女子大生はインターネットで知り合った男性と一緒に練炭自殺をしようとしたのかもしれない。あるいは、男性を殺害したあとに、練炭自殺を図った可能性もあるだろう。だとすれば、「ネット心中」未遂ということができる。
「ネット心中」が連鎖したのは2003年以降だが、最初に報道されたのは00年だ。この年の11月26日、福井県内で男女の遺体が発見された。男性は福井県内の歯科医師(46)、女性は愛知県内の元OL(25)だった。死因は睡眠薬の大量摂取によるもので、2人とも同じ掲示板に悩みを投稿し、10月上旬、メール交換をするようになり、その三週間後、初めて顔を合わせた。
このとき新聞は大きく報じたが、連鎖しなかった。その当時の2年前、98年には「ドクターキリコ事件」も起きていた。自殺系サイト「安楽死狂会」の中にあった掲示板「ドクターキリコの診察室」で相談にのっていたキリコは、自殺願望が消えない相談者に青酸カリを渡していたという事件である。
目の前に自殺の手段があれば、いつでも死ねる。いつでも死ねると思えば、自殺願望者は「今でなくてもいい」と考えるだろうという独自の論理がキリコにはあった。しかし、渡した相手の一人が青酸カリを飲んでしまう。それを知ったキリコも自殺をした。00年は、自殺系サイトの存在が知られていた時期ではあったが、まだ連鎖しなかったのは、携帯普及率の問題もあったのだろう。
総務省「通信利用動向調査」によると、携帯電話の人口普及率は、「ネット心中」が最初に報道された00年度末は56%、PHSとあわせると58.1%。連鎖が始まった03年度末は68.5%、PHSとあわせると71.1%で、初めて7割を超えた。連鎖が続いた04年度末には携帯電話だけで72%。硫化水素自殺が連鎖した08年度末には82.2%、PHSを含めると84.6%。ちなみに、13年度末では98%。PHSを合わせると100.4%で人口を超えている。
ネット心中を考える人間にとって、携帯電話は"自殺の手段"だ。普及率が上がれば、"手段"が目の前にあるのが普通になっていく。ただ、今回の女子大生は、"自殺の手段"であるはずの携帯電話でSOSを出したことになる。03年2月11日には、連鎖のきっかけとなった埼玉県入間市のネット心中が起きるが、一緒に死ぬはずだった女子高生が、他の"メンバー"と連絡が取れなくなったことで、心中予定の場所に向かう。そこで遺体を発見し、携帯電話から119番通報している。携帯は"SOSの道具"でもある。
03年は日本の自殺者数がピークとなった年でもある。警察庁の自殺統計によると、年間自殺者が3万人を超えていたのは1998年から2011年までの14年間だった。なかでも03年は3万4427人と最も自殺者が多かった。自殺死亡率でも10万あたり27.0、男性だけでみれば40.0となり、2万4963人が自殺した。一方、女性の自殺死亡率がピークだったのは98年で10万人あたり15.3。女性自殺者数のピークは9696人の11年だ。ちなみに、12年と13年は年間自殺者数が3万人を割っている。
今回、女子大生は承諾殺人の容疑で逮捕された。刑法202条は同意殺人を定めている。積極的な殺害依頼を受けて被害者を殺害した場合は嘱託殺人罪になる。03年9月12日、インターネットの「裏家業」掲示板に「何でもします」と書き込んだ埼玉県のアルバイト少年(19)に、東京都の会社社長が自分の殺害を依頼。生命保険で負債を清算しようとした事件がある。
私は自殺願望のある人を取材しているが、その中には「ネット心中」で亡くなった人もいる。取材した経験からすると、ネット心中を自殺の手段と考える前に、何度も自殺未遂をしている人が多い。自殺をしようと思ってもなかなか死ねない。だから今度こそは確実性を求めたいという心理があるのだろう。
また、「ネット心中」の過程で、相手の素性や具体的な悩みを聞いたりすると、その「ネット心中」のグループは自殺に至ることなく解散することもある。グループ内の人たちを「悩みを持った人間」と認識することで、参加メンバーは「自分は死んでもいいが、他の人は助けたい」といった心理が働くのかもしれない。そうして自殺系サイトで相談役に回った人もいた。とはいえ、彼らから自殺願望がなくなるわけではない。過去の例では、「ネット心中」が未遂となり、警察に保護されたが、その後に自殺したケースもある。
Written by 渋井哲也
Photo by Georgie Pauwels
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