「バイトが集まらない!」あの牛丼チェーン元社員がブラック内情を告発
TABLO / 2014年4月12日 22時5分
いま負の方向で話題になっている某牛丼チェーンがある。 巨大グループとして牛丼・ファミレス・和食・イタリアン......と、手広く商売しているあそこだ。今回、ついこの間まで働いていたという元社員が「告発というほど大袈裟ではないけどボヤかせて欲しい」と連絡をくれた。どうしても内情を聞いて欲しいらしい。
―― 会社ではどんな部署の所属だったんですか?
「あの会社の社員なんて基本的になんでも屋ですよ。店舗にひとがいないとなれば実働(店番)に行かされますし、デスクワークや電話番もありましたし。今はアルバイトがいなくて店が回らないので、本社勤務になったはずの連中まで店に戻されて肉を盛ってる有り様です。ひどいケースだとグループの他の業態に行った社員が呼び戻されて店に配属され、やっぱりお肉を盛らされてたりします。極端に言えば、本社で課長がひとり電話番をしてて、その人の部下は全員お店に回されてお肉を盛ってる感じ(笑)」
――店のアルバイトが過酷だという話はよく聞きますが、テレオペもかなり忙しいと聞きました。
「グループが大きくて店舗数が膨大なので、毎日どこかで何かしらのトラブルが起きます。また牛丼屋等は人手がなく、繁忙期に電話をかけて来られても物理的に出られませんから、店舗個別の電話番号を公表しないんです。なので、客からのクレーム等はまずグループの代表番号にかかって来る。その内容に応じて、テレオペが担当部署に内線で振り分けるシステムになっています。その他に客(外部)以外の店舗からの直通電話もあり、そこにかかって来る内容は切羽詰まったものが多いですね。特に牛丼屋からの場合は、店に自分ひとりという状況でトラブルがあったという前提ですから。それにテレオペと言っても話の内容によっては社内を駆け回らないといけない場合もあるので、単に電話の前に座ってればいいという事でもないんです。知識も機転も必要で、思った以上に忙しいと思いますよ」
―――あのチェーンのテレオペさんって面白いトラブルを知ってそうですね。
「もう会社を辞めたので好き勝手に言ってしまいますが、ああいった低価格路線のお店なんで、客層がそれなりなんです。悪い意味で。それに一部には信じられないほど社会性のない店員がいて、客と店員と両方に火種を抱えている状態でしたから、何が起きても不思議ではありません。よくあるタチが悪いクレームだと、サイドメニューやオプションが付いていなかったというだけで、延々とゴネられたり。例えばですが、持ち帰りしてキムチが付いていなかったから、ショックで友人が自殺未遂したみたいなゴネ方をする客もいたんですよ。こちらに落ち度があったのは確かなので社員が訪ねて行ったら、汚い雑居ビルの一室で神棚だけ立派みたいな "その手の人間"でした」
――そういうゴネる客には最終的にどういう対応をするんでしょう?
「そっちは担当ではなかったので詳細は知りませんが、こちらに非がある場合は商品券を出してましたね。5千円分くらい商品券を渡すと、火が付いたようにブチ切れていたクレーマーも大人しくなるそうですよ。 ただ、そういう人間て小知恵がきくのか、恐喝・脅迫になるような一線は越えてこないんですよね。なので最初は自分の正当性を何時間も主張し続けますが、最終的には金券でカタが付きます。相手が自分がいかに可哀想な被害者かをアピールしているターンでは、相槌は打ちますが話なんか聞いてません。こちらがいくら謝っても誠意が足りないと言われるだけですし、誠意ってなんですかと聞いても自分で考えろと返されるだけなので無駄です。頃合いを見て金券をちらつかせて黙らせるのが一番簡単なんだそうです」
――牛丼屋にクレーム入れてくる時点でお里は知れてますもんね。
「そうですよ。普通の人間は280円の牛丼のために火が付いたように怒鳴り散らしたりしないでしょう。店員が味噌汁ぶちまけて服を汚したとか火傷したとかでもない限り。それに金券を出すというのも、明らかにこちらが悪い場合の最終手段なので、最初からそれを期待されても上手く行かないと思いますよ。今は業績も良くなくて渋いですから、せいぜい恐喝にならないように知恵を絞ってください。あとこれはクレームではありませんが、土用の丑の日が近付くとうなぎについての問い合わせが増えるんです。 どうしてもうなぎが食べたいから取り扱っている店を教えてくれとか、いつから食べられるのかとか。うなぎが食べたいから牛丼屋に行くなんて、聞いていてちょっとモヤモヤしますね。日本はそこまで落ちたのかって」
――そういえば牛丼チェーンでうなぎ出してますね。
「あれも面白い話があって、うなぎが中々手に入らないとニュースがあったじゃないですか。値段の問題もあって専門店でも仕入れができなくて潰れるとか。あの時期にうなぎ屋さんから仕入先を教えて欲しいとか、ウチに卸して欲しいとか、そういう問い合わせが何件もあったんです。うな丼を700円台で出してる牛丼屋と同じうなぎを使いたがる専門店って怖いですよね」
――店員からのトラブル電話だとどのような話がありました?
「焦ったのは冷蔵庫の中から電話をかけてきた社員スタッフですかね。 どうも冷蔵庫の中での作業中に、マンガみたいにモップか何かが挟まったらしく、閉じ込められたんです。さすがに社員だけあって、自分の携帯にこちらへの直通番号を入れてあったから助かりましたが、もしバイトだったら会社の番号なんか登録していないかもしれませんし、そう思うと恐ろしくなりますね。その時はビルの管理会社に連絡して救出して貰いましたが、夜中に出てくれたからいいものの、深夜にひとりしかいなくて引き継ぎまで数時間なんて状況は危険過ぎますよ。深夜帯に限らず、今でもあの店の防犯対策は他と比べてザル過ぎます」
――ああそうか、牛丼屋の冷蔵庫なんてコンビニと違って外に出る手段がないですもんね。コンビニのウォークインだったら、最悪ドリンク類を掻き出して商品棚から店内に出るなんて手段がありますが。
「深夜は時給は良いですけれど、仕込みから納品から作業が山積みなので、私だったら絶対に避けますね。あのチェーンの場合は酔っぱらい集団や強盗等のトラブルに対する危機管理までひとりでヤラねばなりませんし、1,000円をちょっと超える程度の時給じゃ割が合いません」
――今話題の牛鍋戦争についてはどうでしょう?
「あれはピークタイムに注文が殺到したらスタッフが潰れますよ。なぜ店番をひとりで回せるかと言ったら、徹底した作業の簡略化のお陰です。牛丼なんかは飯盛り器があって、ボタンひとつで正確な分量のお米がボンと出ますし、そうした効率の良い作り方が出来るからアレで回せているんです。それが牛鍋になるとかかる手間が違う。利益はそれなりに大きいのですが、11時~13時や19時~21時辺りの忙しい時間帯に注文が殺到すると悲劇でしょうね......」
――外国人くらいしかバイトしてくれる人間がいなくなるのでは?
「実は私がいた会社は外国人店員をなるべく雇わない方針だったんです。日本語が通じないとか色々な問題点があるんですが、客層がアレなので、カタコトの子だと酷い思いをさせられる可能性が高いんですよ。それがトラブルの種になり兼ねませんし、外国からやって来たひとが誰しも我慢強いかというとそうでもないですし。むしろ違う文化で育っている分こちらが予想できないトラブルが起きる可能性があります。ところが、最近になって方針転換がありまして、今後は外国人のアルバイトも増えて行くと思います」
――やはり日本人のバイトが集まらない?
「だって○○のバイトはマジでヤバイと、ネットで調べたらいくらでも名指しで出て来るじゃないですか。それに今回のように一斉に辞められる可能性もありますし。外国人だとトラブルがどうのなんて言っていられなくなりました。それに少し考えれば解ると思いますが、2,000店舗ある巨大チェーンがすべて直営なんですよ? バイトが足りないのもありますけど店付きの社員が持ちません。個々の店に配属された新入社員が、労働環境(主にシフト)の酷さでしょっちゅう倒れたり病んだり出勤途中に居眠り事故を起こしたりと散々なんです。会社からすると、最も避けなければならないのは24時間営業ではなくなることで、それを回避するために店付きの社員をパズルゲームのコマみたいにこき使うんです」
――あなたが直接経験した酷い思い出ってなんでしょう?
「バイトがパクったレジ金の自腹補填かなあ。あまりに多額だと事件になりますが、そういうレベルではない小さな欠損金でも積もり積もって痛いんです。今は少し状況が変わりましたが、以前は欠損金の類はエリアマネージャーや、そのお店を担当するマネージャーらが自腹で補填させられていたんですよ。よくバイトに残業代を付けさせない店があるんですが、その気持ちは解らなくもありません(笑)」
――残業代を付けさせないとは?
「残業代が発生するギリギリでタイムカードを切らせるんです。あのチェーンでは常套手段でしたよ。あそこは典型的なピラミッド型のカースト社会なので、どの位置にいる社員もギリギリのブラックな手段でなんとか帳尻を合わせてる感じでした」
――古巣に対して何か思う所はありますか?
「どうしてこうなったのかという気持ちですかねえ。私も最近まで上向きになると信じて頑張っていたんですが......。というのも、他の部署のトップにいたやり手と評判の人物が、牛丼部門のテコ入れで移動されて来たんですよ。それであのひとが来るなら状況が良くなるだろうと期待していた社員も多かったのですが、その矢先に一斉にバイトが辞めて何店舗も閉じるなんて状況に陥り、そのしわ寄せで社員の労働環境も過酷になり、肉体的にも精神的にも限界を感じて退職を決意しました。社員がいくらこき使われたところで、あの膨大な数の店舗が回せる訳ではありませんから、抜本的な解決にはなりません。業績が悪化しているのに給料が上がる訳はないし、いつまでもお店でお肉を盛るだけの終わらない罰ゲーム状態になる可能性を感じてしまいました。同業他社は今やどこも似たり寄ったりでしょうが、もう少し明るい未来が見たいですよ......」
以前このチェーン店に強盗に入った人間が「あの店ならヤレると思った」と供述したそうですが、その考えはあながち間違ってもいなかったようです。スタッフの安全のためにも、いい加減にまともな対策を講じて欲しいところなのですが、どうも先行きは真っ暗なようで......。
Written by 今野正志
Photo by ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪
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