還付金詐欺の「出し子」が裁判で吐露した“逮捕されても抜け出せない地獄” こうして犯罪者は次の犯罪に手を染める
TABLO / 2019年8月12日 11時0分
窃盗未遂の罪で裁判を受けていた黒沢健太郎(仮名、裁判当時40歳)には数年前にも窃盗未遂罪での前科がありました。前回裁判では懲役2年4ヶ月の実刑判決を受け服役をしたにもかかわらず彼は再び同じ罪を犯し捕まってしまったのです。
犯行は前回も今回もほぼ同じものです。
彼は詐欺グループの一員でした。そのグループは市役所職員と偽って「還付金を振り込む」という名目で高齢者からキャッシュカードを騙し取る、という手口の還付金詐欺を繰り返していました。彼は騙しとったカードを使って現金をおろす、いわゆる「出し子」の役割で犯行に加担していました。
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逮捕のきっかけは被害者が受け子にカードを渡した直後に不審なものを感じてすぐに警察に相談をし、盗難届を出すとともにカードの操作を停止したことでした。
そんなことに気づかない彼は、グループのメンバーから渡されたカードを持って銀行に行きました。ATMにカードを挿入すると警報音が鳴り、すぐに駆けつけてきた警備員によって身柄を取り押さえられたのです。
この種の犯行で最も捕まるリスクが高いのは被害者と直接接触する受け子と、お金をおろしに行く出し子です。
逮捕された経験もあり、服役まで経た彼がそんなことを知らなかったはずがありません。
「捕まるかもしれない、とは思っていました」
裁判ではこのように語りながらも、それでもなお彼は犯行に加担してしまいました。
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前刑出所後、彼は母親が暮らす家に戻り二人で暮らし始めました。
母親はガンを患っていました。
もう母に迷惑をかけるわけにはいかない、むしろこれからは自分が母を支えていかなくてはいけない。そう思いながら彼は社会復帰後の生活を送っていたようです。
そんな彼の生活もある日、一人の男が訪ねてきた時点からまた狂い始めました。
「以前捕まった時の共犯者が家にやってきました。住所は教えてなかったはずなのに何故か家を知ってて…」
共犯者が彼の家を訪れた理由、それは金の取り立てでした。
「300万円請求されました。前回、自分がしくじって逮捕されたせいで回収できなかった金額です」
もちろんこんなお金を支払う必要などはありません。しかし相手はカタギではありません。いわゆる反社会的勢力とされている人間です。
急に300万円というお金を請求されても彼には支払うことができませんでした。返済のため、彼は「共犯者の知り合い」の所で働かされることになりました。
裁判ではどのような仕事をしていたかの詳細は話していませんでしたが、彼が「借金」の返済分を差し引いた上で受け取っていた賃金については言及がありました。彼は「週1万円」の賃金で働かされていました。
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そんな生活をしていた彼に、共犯者は再び詐欺に加担するように持ちかけてきました。
「共犯者に詐欺のことを持ちかけられました。かなり強制的な感じで持ちかけられました。でもはじめは断っていました」
引っ越して逃げよう、とも考えたそうです。しかしガンの母親の存在がネックになってそれはできませんでした。
「やっぱり生活にも困っていたっていうのもありましたし、いつまでも断り続けることができるような状況でもありませんでした」
そして彼は再び犯行に加わることを承諾してしまいます。
「捕まるかもしれない、とは思っていました。でも、やるしかない…やらざるをえないと思いました」
この詐欺事件では出し子をしていた彼と、受け子役をしていた男の2名だけが逮捕されています。彼に犯行を持ちかけた者や犯行を指示していた者は捕まっていません。
検察官は懲役2年を求刑しました。判決公判を傍聴していないため判決はわかりませんがおそらく求刑通りではないかと思います。以前にも同じことをしている点など考えれば執行猶予は付いていないはずです。
彼は加害者です。当然罰は受けなければなりません。その一方で、より罰を受けるべき者が罰を免れているという事実に強い怒りを覚えます。(取材・文◎鈴木孔明)
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