秒速で億を稼ぐ与沢翼が破綻宣言...裏社会も恐れる税務署の圧力 by草下シンヤ
TABLO / 2014年5月2日 18時21分
フリーエージェントスタイル社の与沢翼代表が、税金の支払いなどで会社運営の資金がショートし、所有していたロールスロイスなどの高級車を売却し、高級マンションの住宅を解約していたことが先日本人のブログで明らかにされた。
わたしは情報商材やマルチ商法などのビジネスが心底嫌いである。それは「夢」や「成功」などといった浮ついた言葉で判断力の鈍った人間を食い物にする虚業ビジネスだからであり、そのようなもので荒稼ぎをする人間も、大金を支払ってしまう人間のことも覚めた目で見ている。
与沢氏についてはいつまでこのモデルが続くのだろうかといった注目の仕方をしていた。それが先日のブログで会社経営が行き詰まったことを知り、思ったよりそのときが早く来たと感じたものだった。
しかし、彼のブログを読んで違和感を抱いた。
情報商材ビジネスの教祖にして快楽主義の権化たる人物の見苦しい言い訳が綴られているかと思いきや「......あれ? 意外に素直な文章じゃないか」と感じてしまったからである。
与沢氏のブログはまず2013年8月期の税金の支払い、及び前年の決算の修正申告分の税金の支払い、また2014年8月期の予定納税分の支払いによって、資金がショートしたことを伝えている。
ここで重要なのは、フリーエージェントスタイル社の経営が行き詰まったのは、犯罪で立件されたからでもなく、自社が不渡りを出したからでもなく、税金の支払いが重荷になったということである。
また、2013年8月期の法人税・住民税・事業税の支払額は2億5305万円としており、税率をざっと40%として計算しても、6億円近い税引前純利益があったことを示している。
つまり、フリーエージェントスタイル社は「赤字で経営に行き詰まった」のではなく、「黒字だったにも関わらず莫大な税金の支払いに対応できず経営に行き詰まった」のだ。
フリーエージェントスタイル社は倒産していないが、世の中には「黒字倒産」という言葉がある。注意しておかなければならないのは、会社というものは赤字だから潰れるのではなく、たとえ黒字だったとしても金がなくなったときに潰れるものだということだ。どれだけ赤字が続いたとしても、銀行などから潤沢な資金を借り入れることができ、資金繰りがうまくいっていればその会社が倒産することはない。
与沢氏のブログを読んで感じたのは、つくづく「税金というものは恐ろしい」というものだった。裏社会の人間を取材していると「警察はなんとかなるが、税務署だけはどうにもならない。税務署のほうが恐ろしい」という言葉を聞くことがある。
特に力のある暴力団組織になると、ある程度は警察とのパイプが存在しており、事前の交渉で事態を軟着陸させることも不可能ではない。しかし、「税務署の連中には話が通じない。やつらは本当にすべて持っていく」ということのようである。
犯罪によってあげたいわゆる「犯罪収益」が没収されることを知っている人は多いだろう。だが、没収にとどまらず、犯罪収益に課税されることもあり、このことを恐れる裏社会の人間は非常に多い。
わたしの友人に本番アリの裏風俗を経営し数年にして莫大な財をなした人物がいるが、彼は逮捕後に税務署の調査が入り、推定された犯罪収益に課税され、恐るべき額の追徴税を支払うことになった。銀行や消費者金融から借りた「借金」ならば自己破産することで免責されるが、国民の義務である「納税」に免責はない。到底完済することができない金額を分割して延々と支払っていかなければならないのである。
話がずれた。与沢氏の話題に戻ろう。
与沢氏は資金がショートした原因について「国税局が税金の支払いを12分割してくれると認識していたが、無理だったこと」「提携していたクレジットカード会社が倒産し、カード売上債権が入ってこなかったこと」「月利5~10%という海外FXに投資をしたが、1ヶ月で元本の90%を失い、多額の損害を出したこと」などを挙げている。
提携していた会社の倒産は不運だが、その他の理由は自業自得であり、経営者としての自覚が足りていなかったと言う他ないし、本人もそのことを認めている。
与沢氏は役員報酬として月々5000万円を受け取っていたというから、それをいざというときのプール金として残しておけばよかったのだが、派手に散財してしまったことも今回の事態を招いた一因になっているのだろう。税金の支払いに追い詰められていった状態を氏は次のように記している。
◇
投資の詐欺的行為にあったことやカード会社倒産が直接的な経営状態の急降下の原因ではあったものの、所詮それはきっかけにしかすぎず、自分のビジネスモデルやメディアでの演出のための支出、迫り来る、無限ループに思える税金に、精神的にも物理的にも限界に達していました。
お金持ちを演じることを期待されているのに、もはやお金がない。
この状況は、心底きつかったです。
◇
虚像を塗り固めるというよりは、虚像そのものをビジネスの柱としていた氏にとって、「お金持ちを演じることを期待されているのに、もはやお金がない」という一行はまさに吐き出すに綴った言葉だったのではないだろうか。また氏は自分のことを「酒と見栄と女に狂った典型的なアホ経営者」とも評している。
氏はわたしが嫌悪する情報商材ビジネスの親玉であり、これらの言葉にもなんらかの思惑が潜んでいるかもしれない。だが、それにしても簡潔な言葉で自らの非を認める姿勢に一種の素直さを感じたのも確かだ。
与沢氏のことを信じて大金を支払い、これで自分も成功できると思っていた人たちにとってみれば「ふざけるな!」という思いかもしれない。彼は記事の中で自らのビジネスモデルを否定するようなことをしている。たとえば次のような文章だ。
◇
情報業界のプロダクトローンチで高額商品を売ると億を超えるお金が1か月で作れてしまうことも意外に容易だったりします。
だから、中毒性を持っています。
軸がないのにマーケティングだけで売れてしまうと人格が崩壊します。
◇
彼はこのことを自覚しながら他人に「このビジネスモデル」を商材として販売していたのだからなかなか罪深い。しかし、本人が望む望まないにかかわらず、一度動き出してしまったビジネスモデルが際限なく膨張し、その巨体を支えきれなくなり瓦解していったというのが今回の顛末ではないか。
フリーエージェントスタイル社は破産せず、事業を継続していくという。5月1日には、オフィスを移転し、再建に取り組んでいく構えを見せている。
今後も与沢氏が同じビジネスモデルに取り組んでいくとすれば興ざめだが、「虚像」ビジネスに敗れた彼が今後地に足のついた「実業」に取り組んでいくならば興味がある。
フリーエージェントというスタイルが否定された今、彼は次にどのようなスタイルを見せてくれるのだろうか?
Written by 草下シンヤ
Photo by 秒速で10億円稼ぐありえない成功のカラクリ/与沢翼
【前回記事】
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