北朝鮮拉致問題に影響...競売で揺れる「朝鮮総連本部」潜入記

TABLO / 2014年6月4日 13時30分

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 北朝鮮による邦人拉致問題に、進展が見えだした。安倍晋三首相は5月29日、スウェーデンのストックホルムで開かれた日朝協議で、北朝鮮が全ての拉致被害者を全面的に再調査することを約束したことを発表した。

 2002年には拉致被害者5名が帰国。2004年にはその家族たちが帰国を果たした。当時は日朝国交回復がメインだった。10兆円ともいわれる「戦後補償」を狙い、ゼネコン各社が平壌入りしたこともある。

 今回、北朝鮮が日本に譲歩した直接理由は、ずばり総連本部問題だろう。ストックホルム協議の前後、宋日昊国交正常化交渉担当大使が「総連本部問題も含まれる」と確認するかのように言明している。

 その朝鮮総連本部に入ったことがある。2011年12月に金正日氏が死去した時のことだ。朝鮮総連が20日と21日に一般の弔問を受け付けたので、夕刊紙の取材のために潜入したのだ。

 総連本部があるのは、靖国神社や法政大学が近くにある閑静な都心の一等地。警官が警備する入口は厳重に柵で囲まれ、その中を伺うことができない。道路を挟んでテレビ局が淡々とカメラをまわしていた。一台の黒塗りの車が、滑り込むように入っていく。それが誰なのかは、今もわからない。

 日本と国交のない「大使館」に入るのは正直な話、不安がある。しかもこれまで邦人を何人も拉致してきた相手だ。だが編集者に「行きます!」と断言してしまった手前、ここで止めるわけにはいかない。

 入口で「弔問です」と言うと、すんなり入れた。左手に玄関があり、受付が設けられていた。名刺を渡すと、「奥へどうぞ」と案内された。ホールの向うに広間があり、そこで一時待機させられた。

 正面の壁一面に金日成・正日親子の肖像画が掲げられていた。天井には豪華なシャンデリア。インテリアはベージュ系で整えられている。1970年代の豪邸という雰囲気か。

 弔問客は3人いた。筆者と同じテーブルには年配の女性がひとり。そして離れたテーブルに男性が2人。いずれも弔問のためにやってきた在日朝鮮人のようだ。男性たちが小さな声で話していたが、時折会話が漏れ聞こえる。

「1000万......」

 本国に献上する弔問金の話だろうか。彼らの表情が明るくないのは、本国の指導者が亡くなったという事実だけではないだろう。あれこれ想像している間に、案内がやってきた。

「2階へどうぞ」

 階段を上がって右手に広間があり、そこに祭壇が設置されていた。弔問名簿に名前を書くと、赤いカーネーションを渡された。故人が好きだった花らしい。祭壇には金正日氏が微笑む肖像画が、色とりどりの花で飾られていた。それに献花し一礼し、弔問客を監視するように並んでいた関係者に黙礼して外に出た。

 それから2年半。新たなリーダーに正恩氏が就任したが、かの国は変わりそうにない。相変わらず日本から資金をふんだくることを考えているだろう。

「特定失踪者を数名解放して、それで日朝関係が改善された雰囲気を作ろうとしている。その筋書きを描くのは外務省で、安倍政権に進言して解散を打たせ、野党を潰そうとしている」

 6月3日に開かれた日本維新の会の会合で、参院議員の中山恭子氏が憤ったという話を聞いた。中山氏は拉致担当大臣も務め、拉致被害者の信頼も厚い。独自の情報を得ているのかもしれない。

 だがその通りに運ぶのだろうか。横田めぐみさんクラスの被害者を解放しない限り、世論は高まらないだろう。むしろ被害者を解放したところで、これまで「被害者は全て死亡」としてきた北朝鮮の言い分が嘘とわかり、国民感情はいっそう悪化する危険性もある。

 弔問で訪れた総連本部は、空気すら動かないほど静かだった。同時に、言葉で表現し尽くせない雰囲気が漂っていた。数々の人間の思惑、野望、執念などが入り混じり、積もりに積もった結果なのかもしれない。朝鮮本部問題は、簡単に片付くことはないだろう。

Written by 安積明子

Photo by wikipediaより

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